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推し活の別れ道

今は「推し」と呼ぶほど 熱中している対象はいないが、大学生の頃
毎日 曲を聞いて 情報収集して、ばったり街で遭遇したら何て言おうか妄想するくらい笑
好きなロックバンドがいた。

タフなのに叙情的でもあるボーカルの声と 空気を切り裂くようなギターの音
誰かを求めてるような 突き離してるような歌詞と、どこか乾いた世界観が大好きだった

「メンバー全員既婚らしい」とうっすら知られていたけど
男女を問わず魅了する骨太なロックという立ち位置なため、特に人気には影響しなかった。

リリースされた円盤や本は全て買い揃え、時間と予算が許す限りライブに参戦した
さすがに飛行機は使わなかったけど、新幹線も利用して 行けるところは全て行く

SNSで繋がるのが当たり前の頃ではなかったけど
ライブに行くと「あの人 今日も来てる」 というファンは割といるので、顔見知りができる

「また会いましたね〜」「あ、地元同じですね」「帰り 一緒にごはん食べません?」
という感じで親しくなり、年の近い女子6人(自分含む)でつるむようになった

彼らのファンになって しばらくはライブが1人参加だった私は
対面で感想を語り合える仲間がいるのが とにかく楽しくて
前より活発になったバンド応援ライフを満喫していた。

推し活仲間は バンドのツアーやリリースがない時期も集まって遊んだりする 濃い繋がりになった

情報収集が得意、新幹線から降りてくるメンバーを誰よりも早く見つける、いつもオシャレなど
それぞれに尊敬ポイントがあって、6人一緒にいると無敵になれた気がした。

大学生や短大生をやってた6人だけど 
お気楽な学生生活の後の「進路」を考える時期になり、スタンスが分かれた

私とあとの2人は あくまで
「日常に支障のない範囲で推し活を楽しむ それは社会人になってからも同じ」という考えで 堅い会社に就職

だけど、あとの3人は
「推しを追いかけるのを前提に考えた進路」

バンドのメンバーらが生まれ育って 現在も住んでる街に引っ越す、就職もその地域に決めたという子

どんな優良企業にでも就職できそうな有名大学なのに
「正社員だと自由にライブ行く時間がなくなる これからも遠征したいから9時5時の仕事はしない」とアルバイト生活を選んだ子

 端的に言うと
 推し仲間6人は ファンと信者に別れた

【ファン】推しは趣味のひとつ 推しと出会っても人生設計は変わらない 
【信者】推しは自分の中心にあるもの 推しと出会って人生変わった 

 ちょうど半分に分裂した

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そして 偶然なのか「信者組」の3人は
みんな 事情のある家庭の子だった

家族の1人がカルト宗教にハマって家を出て、消息不明のまま 何年も経過している

子供の頃に父親が事故で他界して、母親は仕事と家事で忙しく  
家族で和やかに過ごした記憶がほとんどない‥ など

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彼女たちの話を聞いて

【自分の何かを削ってでも推しについていきたい 少しでも近くに行きたい】
そういう熱量高めの推し活というのは
【心の欠落を埋める】という意味合いも強いのかなと感じた。

でも 好きなアーティストで現実逃避するのが悪いこととは思わない
それで心の充足が得られるのなら、他人がどうこう言うことではないし
変な宗教に救いを求めるより 全然いいと思う


難関大学卒なのに就職しなかった彼女のことは、もったいないなと思うけど
彼女にとっては「優良企業より 推しとの時間のほうが大切」ということなのだ
何が幸せかは人それぞれ

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 私は 卒業して社会人になった🌸

仕事が忙しくなったり、彼氏ができたりして
前ほどバンドを追いかけることは しなくなった

信者組と行動することも無くなっていった
3:3で 道がハッキリ分かれてから、信者組の結束はより強くなったようだ

偶然 会うことがあっても
ありがちな道を選んだ私たち3人を 見下しているような気配が感じられた
「あんたたち ファンという割には本気度低いよね?」みたいなマウント

会場の入り口近くで信者3人を見かけたとき
周りに聞こえているのを意識しながら 
「このツアーでは 〇〇市のセトリが一番良かった」と大きな声で話したり
『私たち日本全国ついて行ってるアピール』をしていて
「それやるのは自由だけど いつまでやるつもりなんだろう‥」という気持ちになった。


信者組とは 連絡を取り合うことさえ無くなり
程々の応援組2人とは、たまに美術館に行ったり食事をしたりする ゆるい関係になった

近場で 仕事にも支障のない日時にライブがあれば行く 🎸
もうメンバーの会場入りを見るために 張り込むことはしないけど笑
神席を確保するためにエネルギーを費やすこともしないけど
彼らの音楽が特別であることは変わらない

私は 推しへの愛が『強火』の期間は あまり長くなかったので
『推し活ビンボー』になることもなく、適度な距離感で応援できるようになった。

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しかし 私が社会人になって何年か過ぎた頃

 そのバンドは突然 解散した
 方向性の違いという理由だった

強火愛の頃なら大ダメージだったけど、割とすぐに受け入れることができた
解散は残念ではあったけど、大きな喪失感みたいなものはなくて「楽しかったよ ありがとう」という気持ちだった。

推しのために進路まで変えた信者組の3人は、今どうしているのだろう?

解散のニュースを聞いて
数え切れないほどLIVEで見たメンバーの姿の次に、彼女たちの顔が浮かんだ

3人はバンドに代わる 心の支えを見つけただろうか

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ホテルの一室に集まって飲んだ時、就職しなかった彼女が言っていた
「私たち 出会ったきっかけはバンドだけど
音楽とは全然別の 人生の大事な何かも共有してるよね」
そうだったと信じたい。

みんなで遠征したあの日
ライブ前に雑貨屋さんで 6人一緒に買ったブレスレットは 今も手元にある

それを見るたびに3人を思い出して

誰かを激しく推すことをしなくても、幸せを感じる人生を送っているといいなと思う。


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