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【完】刹那的たまゆらエセー

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後から推測するところ、この断片たちの主なテーマは、信じること、忘れること/ 裏テーマとして「なにかを創るとはいったいどういうことなのか」/ 最初に問題設定があったわけではなく、書…
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2024年10月の記事一覧

【エッセイ】覚めることのない眠り

打ち明けることによって、隠れていくものがあり、それを明らかにしたいとでもいうかのように、告白が続々と積み重なっていく。隠れているものはいっそうふくらみ、その闇は濃くなる。 ≒ 目覚めれば目覚めるほどに、深くなっていく眠りがある。醒めているとは、あるひとつの眠りを貫いて、ほかのどんな眠りにも自分を明け渡さないことだ。 * あなたが目覚めなくても、別の誰かがその眠りから醒めるだろう。 ≠ いまだ誰にもたどりつかれたことのない眠りが無数にある。その先にある目覚めも含めて

【エッセイ】考えることの麻痺

無意味と意味のないことは、必ずしも一致しない * 私たちの心のどこかが、その都度意味のフリをしている。 ≒ なにか乗り越えなければならない対立が自分の内か外にあるとき、矛盾をどこかにつくりだすことによって、それを乗り越えている。 * その矛盾を見つけてはいけない。見つけた以上は、それを解体しなければならない。けれども、そうやって解体が完了したと見えるところでも、結局別の矛盾をまたどこかに設けただけだ。あたかも矛盾を移動させただけであるかのようだ。 ≠ なにかを

【エッセイ】比喩に潜んだ「弱さ」

比喩とかたとえとか、とにかくそういったものには、必ずどこかに「弱さ」がある どこかと問うてみてもはっきりとはしないが、 そうやって結びつけられたふたつのもののあいだとか、 そうやって結びつける理由になった類似だとかあるいは経緯だとか、 そうやってそれらを結びつけようとした心だとか、とにかくどこかに、「弱さ」が潜んでいる たとえ話は、ある意味その弱さを隠すことであり、そうやって隠すことによって、その弱さをつくりだすことだ ≒ たとえ話を聞かされたときに、それが上手ければ上手

【エッセイ】夢とか可能性のはざまについて

私たちは他人についても世界についても夢を見ているに等しい。 ≠ なにかをできるようになるには、なにかができなくならないといけない。可能は不可能と裏表で、そうして不可能になったものを、乗り越えた私たちは知ることができない。 ≒ なにを乗り越えたのか、私たちが知ることはない。だから言葉によってそれを、せめてその陰影を、とらえておこうとする。 * なにかを怖いと感じるとき、その怖さに対して身構えることそれ自体が、その恐怖を呼び出すような節がある それが積み重なるうち、ど

【エッセイ】わからなさから触れてくる

自分の動機とか内面とか呼ばれるもの、感じているものを、まったく知らない言葉で書かれているところに出会ったときの、本能的な感情の動き。 ≠ わからない。さっぱり理解できない。けれどもなにかが触ってくる。その言葉の理解できるところと、わからないところの綾を通して、その感じは、自分のことだという感じは、触れてくる。 * その言葉がわかるということと同じくらい、それがわからないということが、その言葉が自分のことであるためには、つまり、誰のものでもなく感じられるためには、必要な

【エッセイ】(絶対的に)「できる」「できない」

すべてを滅ぼせるような能力をもった存在は、きっと、それだけの能力をもっているために、すべてを滅ぼさない。 * すべてが滅んでしまえば、その力の行使先がなくなって、その力自体が無意味になってしまうからだ。その力それ自体が失われてしまう、と言い換えてもあまり差しさわりがないくらいには。 ≒ それよりは、その能力の一端を小出しにしながら、ゆっくりと時間をかけて、その滅ぼせるはずの「すべて」と共に、徐々に滅んでいくだろう。それが、その能力が能力として生きながらえる唯一の道であ

【エッセイ】解体と弛緩

どこかが痛むとき、その痛みを私たちは邪魔に思う。けれども邪魔なのはむしろ私たちのほうではないか。私たちがいなければ、痛みは痛みにならなかったはずなのだから。 * 体と私が、痛みを介して、お互いに自分の障害となる。痛みのむこうとこちら側。 ≒ 私たちがその都度言いたがっていることと、私たちが私たち自身から聞きたがっていることは、どこかズレている このズレを極小にできるのとが文章の上手下手ということなのだろうけれど、それを極小にすることに、なんの気兼ねもないということはな

【エッセイ】心を置く

ある感情が湧いてきたなら、それをあるがままにさせておく。そこに入り込もうとしないことによって、その感情に場所を譲る。 ≒ どんな感情も、私たちにはそれを感じきることはできない 私たちは私たちである以上、純粋に喜びも悲しみもしない それを感じること、それ自体がどういうわけか不純さを呼び込む だから、感じることは、感じないことでもある。すくなくとも、感じないことをそのどこかに含んでいる ≠ 風に吹かれながらふと心地よいと感じるとき、それを感じているのは誰だろうという問いが

【エッセイ】静寂性

どんなふうに黙ってみても、求めていた静寂はやってこない。 ≠ どんな静寂を求めていたのかわからないけれど、ここにあるものは求めていたそれでないことははっきりと感じられる。 ≒ 今何が、どんなふうに黙り込んでいるのか。耳を澄ましたとたんに消えてしまう。 * それをずっと昔に、手放したことを覚えているような気がする。 * はっきりとそれは自分のものだと言えないモノについてしか、自分のモノだと言うことができない。 ≠ 自分のつくった喧騒の隙間を、無数の静寂が何と

【エッセイ】どこまでも余計なもの

私が生きているという以上に、私が世界に付け加えるべきことはなにもない。なにかが確実に余計なのだけれど、その余計ものがなんなのか知ることはないのだろう。 ≒ 巧妙に配置された岩の規則も、宇宙の彼方から見ればちっぽけな点にさえ満たない。 ≒ 距離を離すほど、物体が見えなくなるより先に、そこにある秩序が見えなくなっていく。 * 太陽から遠ざかるほどに、世界の色は微妙に変わる。もっとも微妙で、だからこそ深いところで変化を見せるのは影の色だ。 * 秋は、あらゆるものがす

【エッセイ】奪われたはじまり

誰も心を必要としなくなったから、こんなにも言葉があふれてくる。 ≒ 言葉を紡ぐから傷ついたのか、傷ついたから言葉を紡いだのか。それがわからなくなるくらい私たちは言葉を紡いだし、また傷ついてきた。 * 私たちの喋りが喋ることとして成り立つには、その場にいる他の誰かの、あるいはなにかの沈黙がそばにないといけない。同じように、意味もそのそばにもうひとつ、あるいは多数の沈黙を必要としている。 ≒ ともすればその言葉の意味は、むしろこの沈黙、静けさにあるようでさえある。

【エッセイ】時間に逆らうほどの速さで

光の速さに近づくほどに時間の進みが遅くなるのは、速さが、時間に逆らおうとする動きそのものだからだ。1時間かかって着くところ半時間で到着した場合、私たちは速さによって半時間分、時間を遡っている。 ≒ 速ければ速いほど、私たちは時間を逆行する。光の速さにあるとき、世界より時間の進みが遅くなるというより、速すぎて時間を戻ってしまうと言うべきだ。 * 何かを思い出すとは、そんなふうな速さが、極まったところで起こる現象だ。それは、時間に逆らうほどの速度に心が置かれることで引き起

【エッセイ】誰のためでもなく、自分のためでさえもなく

月の満ち欠けは欲望の諸相をあらわしている、ヒトのあらわれるより古くから。それは待ってなんていなかった。 * 花ににおいが立ち止まる。誰のためでもなく、誰かの目なんてまるで気にしてはいないので目を惹きつける。 ≒ 世界のはじまりには美しさなんてなかっただろう。だからこそ美しかったのだろう。誰も覚えていない昔のことだ。 ≠ もちろん、花びらに色なんてない。昔誰かが立ち止まり、ふと笑いかけたそのときから、その花の色ははじまった。 ≒ 誰の時間も届かない昔があって、誰

【エッセイ】いつか還るあなたのために

自分にとって見ることも読むことも書くことも本当は必要ないのだと知った瞬間はとても恐ろしかった。それなのに、今も性懲りもなく見たり、読んだり、書いたりしている。 * いつも感動には別の誰かのために泣いているという感じが尾を引いている。それだけにいっそう綺麗に感じられてくるのだろう。けれどもその誰かはどこにもいないので、そのことがわかりすぎてしまうので、いっそう感情は強まってゆく。あてがないからこそさらにあざやかになろうとする。 ≒ どんな感情も、私以外のなにかのためのも