ゴール設定の考え方 -完全版- 【For 理学療法士,看護師】
こんにちは、理学療法士 兼 イラストレーターの〇っち~です。
みなさんは、患者さんや利用者さんの治療に携わる際にゴール設定で悩んでいませんか?
「どのように考えて実現可能なゴール設定をすればいいのかなぁ…?」あるいは、「ADLレベルでゴールを設定してはみたけど、こだわりの強い患者さんでなかなか受け入れてもらえない…」等、理学療法士として働く上で難しさやもどかしさを感じるのは『ゴール(=目標)設定』についてではないでしょうか?
僕も同じような経験をしてきたのですごく気持ちがわかります。そんな時、訪問リハビリに携わって得られた経験が頭の中を整理するのに役立ったので、今回はそのお話を共有しようと思います。
よろしくお願いします。
ゴール設定はその延長線上に患者さんのHopeが見えるようにする
①患者さんはどこを見ているのか(何を望んでいるのか)?
図1は患者さんが障害を負ってから良くなっていく過程をイメージとして作ったものです。
急性期~回復期(初期)の患者さんは今まで普通にできていたことが急にできなくなるので、初めは喪失感や苦痛のどん底にいます。医療従事者はその心情に寄り添いつつ、前へ向かって進んでいけるようできることを増やしていく必要があります。そして患者さんの希望・本当にしたいこと(Hope)を聞き出していき、その目標に向かって一緒に進んでいけるとすごく良いですね。
ただ…、本当にしたいことはなかなか出てこないんです。むしろ、「退院したら沖縄に旅行に行きたい」や「ライブに行きたい」、「趣味の園芸を再開したい」のように退院後にしたいことがきれいに出てくる人のほうが少ない……
これは、今の状態で今まで通りの方法で「できる」か「できない」かを考えてしまうからで、ご本人も退院後をイメージしにくいんです。
だからじっくり聞いてあげて下さい。
具体的には以下のようなことを聞き出せるとVery Goodだと思います(^^)
●日課は何かあったか?
(毎朝犬の散歩に行ってた、近所の喫茶店で友人とコーヒーを飲むのが楽しみだった etc…)
●趣味や生き甲斐のようなものはあったか?
(年に1回温泉旅行に行く、孫と一緒に遊ぶ etc…)
●自宅での役割は何かあったか?
(料理、掃除、花の水やり、朝刊を取ってくる etc…)
●退院後にしたいことはあるか?
要は、単なる医学的な情報収集や生活歴などの個人・環境因子を調べることを目的とした情報収集をするのではなく、『その人の人となり(どのような人なのか、何を大切にしているのか、何に喜びを感じるのか etc…)を知る』ことが重要なのです。
※ここでひとつ注意点です!
最初からずーっと変わらないの明確な最終目標を決められる人は絶対にいません。「絶対に!」です。それは病状の変化やリハビリによって身体機能が、動作能力が変化してくるからです。初めに言ってたやりたいことが徐々に変化してくることもあるため、柔軟に対応していくことが大切です。
【高い目標に訂正される例(Aさん;右片麻痺(右上下肢・手指はBRSⅣレベル)】
初めは「家から200mのコンビニへ一人で行って買い物をしたい」と言っており、それができるようになると「次は電車に乗って隣町のショッピングモールまで一人で行きたい」と新たな目標ができた。
これはかなり良いケースです。より意欲的に、活動的に生活を送れており、QOLも高そうですね。この場合は新しい目標に必要な要素(駅までの移動、道の記憶、周辺の安全確認や電車の乗り降り等々…)を洗い出し、各要素が安全に遂行できるのかを評価する必要があります。
【低い目標に訂正される例(Bさん;脊髄損傷(Th10レベルの不全損傷))】
初めは「歩けるようになりたい」と頑なに言っていたのに、途中から「車いすで移動できたらいい」と変わってしまった。
Bさんの場合、「なぜそう思うようになったのか」と「医学的に診た時の可能性」は把握しておきましょう。
①「なぜそう思うようになったのか」
(ⅰ)歩くためのリハビリ(下肢の筋力増強、歩行練習など)をかなり頑張ってきたのに思うような成果が得られていない場合
(ⅱ)歩くことでしかできないと思っていた事柄が、実は車いすでもできると気づいた。しかも、車いすの方が実用性が高かった場合
これ以外にも人によって状況や理由は様々だと思いますが、一例を挙げてみました。
②「医学的に診た時の可能性」
(ⅰ)BさんのASIA機能障害尺度(AIS)は『C』であり、実用性のある歩行獲得は困難である場合
(ⅱ)BさんのASIA機能障害尺度(AIS)は『D』であり、実用性のある歩行獲得が見込める場合
①「なぜそう思うようになったのか」の(ⅰ)(ⅱ)、②「医学的に診た時の可能性」の(ⅰ)(ⅱ)の組み合わせによって、どのように対応するかは決めていきます。
【①(ⅰ)+②(ⅰ)】;やれることをしっかしやった上での諦め(ある種の”納得”)と考えられるため、共感しつつ目標を変更していく。
【①(ⅰ)+②(ⅱ)】;効果を断定するには時期尚早。ねぎらいや気持ちに共感はしつつも諦めないで前を向いていけるようサポート!また、PTはリハビリ内容に改善の余地がないか先輩に相談する。
【①(ⅱ)+②(ⅰ)】;立位をとれる(下肢を利用する)可能性は残しつつも、実用性がありやる気もある車いす練習に比重をおき取り入れていく。
【①(ⅱ)+②(ⅱ)】;共感はしつつ、歩行できる可能性があること、歩行でしかできないことのメリットも説明し、『歩行』をどのように生活の中に取り入れていけるかをご本人と相談していく。歩行練習と車いす練習の比重は生活への取り入れ方によって決める。
時には、患者さんが目標を見失ったり、どうすればいいかわからなくなることもあるので、その時は、私たちが「道しるべ」となって、その人の目標を達成できるように支援していくことが必要です。
②ゴール設定に必要なのはHope?Needs?
①を熱く語って長くなってしまいました。すみません…💦
『Hope』と『Needs』というのは習ったことがあるでしょうか?
Hope;患者が主観的に思う希望。最終的な目標や理想の姿。
Needs;客観的に患者に必要と思われること。
定義からして違いますし、主観的なものか客観的なものかも違います。これらは問診により把握すべき内容として授業や臨床実習等でほとんどの方が習ったと思います。なぜならゴール設定に必要不可欠だからです。
では、HopeとNeeds、どちらがゴール設定にとって重要な位置を占めるのでしょうか?
僕は『どちらも同程度に重要』という考えです!……(笑)
ズルい回答ですみません💦
もう少し詳しくすると『Hope>Needs』ではあると思っています。
ここで「…えっ?」と思われた方もいるのではないでしょうか?
学校や実習ではNeedsは”今その患者に求められていること”であり、”実現可能な最優先事項”と教えられることが多いですもんね。そのため、短期目標・長期目標にはNeedsがほぼそのまま使用されることが多いです。
確かにその通り!
実現不可能なことをいつまで取り組んでいても患者さんの時間(=残りの人生)やお金を無駄に奪っていることになりかねないし、医療従事者としても制度上その患者に関われる時間には限りがあります。ですから、実現可能な最優先事項であるNeedsは目標として設定されるべき存在ではあるのです。
……ではなぜ僕が『Hope>Needs』と考えるのか?
それは『人生の主人公は患者さん自身』だからです。
もう一度、図1を見てみましょう。
図1の山頂へ続く道は患者さんの人生です。私たちセラピストは目的地までの経路をいくつか提示したり、道しるべとして横に立ったり伴走してあげることしかできません。最後は患者さん自身が生きる道を自分で進むのです。(図2参照)
そのため、NeedsとHopeがあまりにもかけ離れていてはいけないのです。
ここで、Cさん(ギランバレー症候群、発症後6カ月で四肢筋力はMMT2~3レベル、起立・移乗は中等度介助、車いす護送、歩行はAFOを装着して中等度介助)を例に考えてみましょう。
CさんのHopeは「歩けるようになって家に帰る」だとします。
しかし、現状では発症から期間が経っているにも関わらず筋力低下があり、ADLに多くの介助を要しています。Cさんは意志が強く、自分で立てた目標は何が何でも達成したいと考えています。
さて、どのようなゴール設定をしますか?
まず、自宅に帰るのであれば家族の介助量を少なくする必要があります。
家族にもそれぞれの時間(=人生)があるからです。そのため、Needsは「起立・移乗の介助量軽減、移動手段の獲得」としましょう。
ここでCさんにこのようにゴールを提示したらどうなるでしょうか?
PT「今は歩くことよりも家に帰れるようになることが先決ではないですか?歩行練習よりも起立練習や車いすをこぐ練習をして、家に帰るための手段を一緒に探していきましょう!」
一見、妥当なことを言っているように思いますが、
この提示の仕方ではおそらくこうなってしまうでしょう……
Cさん「私は歩いて帰りたいんだ。今歩く練習をしないと、もう歩けなくなってしまうんじゃないか?そんな妥協はできない。歩行練習をもっとしてください。」
ここでのPTさんの対応には図3の『〇』の概念が欠如しています。Needsを重んじるばかりにHopeをないがしろに扱ってしまっているように感じます。実際にはそうでないにしても…です。
つまり、ゴール設定をしていく段階で図3の『〇』をイメージしながら方向性を定めておく必要があるのです。
それでは、良い例を見てみましょう。
PT「Cさんは歩いて家に帰るのが目標でしたよね。これまで6カ月間リハビリをしてきた中で現状を診ると、退院時期までにそれを達成するのは少し難しいように思います。」
Cさん「そんなことやってみなければわからない。」
PT「そうですね。今のまま歩行練習中心に実施していくとある日突然歩けるようになることがあるかもしれません。実際に同じ様な症状の方でそのような方も居られました。
しかし、ならないかもしれません。ならなかった場合にはどのように家に帰りましょうか?ご家族につきっきりで介助をしてもらわなければいけないかもしれません。ご家族が無理だと言われた場合には施設も候補に入ってしまいます。何より、自分でできることが少ないため、退院後は筋力が弱っていく一方になってしまいます。それでは歩行獲得はさらに遠のいてしまうのではないでしょうか?」
Cさん「施設は嫌だな…でも歩けるようにはなりたい。」
PT「そうですね。歩行獲得はあきらめず目指しましょう。そのためにも日常生活で自分でできることをまずは増やしていきませんか?移乗が自立すればいつでも車いすに乗れます。車いすをこげるようになれば自主練習をすることだってできます。起立が安定すれば自主練習として足を鍛えることができます。これらは自宅に帰る条件にもなりますし、体力や足の筋力がつくので歩行獲得にもつながっていきます。退院後には訪問リハビリやデイサービスで歩行獲得に向けてリハビリを続けることもできますよ。やれるところまでやってみましょう。」
Cさん「そうだな…まずは自分のことぐらい自分でできないといかんな。」
どうでしょうか?
少し長くなりましたが、Hopeをきちんと見据えてゴールの説明をすること、退院してしまった後でもHopeに向けて頑張っていける手段(社会資源)があることをお伝えすることで、入院中の適切な短期・長期ゴールを設定し、患者さんとともにリハビリをして行けそうではないですか?
というわけで、ゴール設定にはHopeを見据えたNeedsを見出し、患者さんが納得した上で取り組んでいくことが大切です。
『挑戦もできずに諦められてしまうHope』は悲しすぎますよね。
実際には非現実的なこと(脊髄損傷の完全麻痺の人が歩行獲得を望む等)であったとしても、挑戦してやれるだけのことをやった人は身をもって「難しい」ということに気づくでしょう。
もちろん、無責任に「歩けるかもしれませんよ!」などと予後に関する事柄をPTやNsが口にしてはいけません!!
しかし、希望をもって、取り組んでみて、結果がダメであったとしても、その経験はその人にとって「やれることは全てやった!」と次へ進むための心の肥やしになるのではないかと思っています(※私見)。
ですので、自分が関わることができる期間の中で”許される範囲で”患者さんのHopeと真剣に向き合ってみるのはいかがでしょうか?
③ゴール設定は「超長期(退院後)」を可能な限り早く設定しよう
②においてHopeとNeedsの方向性を合わせることが重要であることをお伝えしました。
とどのつまり、
Hopeとは「超長期の(最終的な)ゴール」なのです。
このHopeと現状を結ぶことで、方向性が定まり、問題点が浮かび上がって、Needs(=短期・長期のゴール)が定まってくるのです。
①でもお伝えしたように、患者さん自身もどうなるか分からないという不安の中にいるのですぐにHopeを見つけることは難しいです。そのため、急かす必要はないのですが、少しずつでも患者さんがHopeを見つける手掛かりになりそうなこと一緒に探す努力はしても良いと思います。
④ゴール設定は『SMART』に!
最後にゴール設定の具体的な方法について触れておきます。
『SMARTの原則』というのを聞いたことがある方もいるかもしれません。
SMARTとは、
S :Specific=具体的である ➔固有名詞を使う
M:Measurable=計測できる ➔数字を使う
A :Agreed upon=同意している ➔方向性がHopeと一致しているか
R :Realistic=現実的である ➔すぐに達成可能そうなものを数多く
T :Timely=期日が明確である ➔いつまでに達成するか
の頭文字をとったものです。
この原則を兼ね備えた目標(ゴール)こそが実現性が高いと言われています。この原則を守れているかどうかは上記の『➔』の部分を意識して設定してみましょう。
では、イケてないゴール設定と良いゴール設定を例を通して見てみましょう。
【イケてないゴール設定】
短期ゴール:移乗自立
平行棒内歩行自立
長期ゴール:杖歩行獲得
【良いゴール設定】
短期ゴール:
ベッド-車いす間の移乗日中自立(1週間)
車いす自走にて病棟トイレまで移動できる(1週間)
自主練習として病棟廊下での起立が10回/セットを1~2セット/日できる(2週間)
エレベーター操作が安全にできる(3週間)
リハビリ室まで自分で移動できる(3週間)
自主練習として平行棒での歩行練習が実施できる(4週間)
・・・
長期ゴール:
終日杖歩行にて病院内の移動自立(2ヵ月)
手すりを把持してリハビリ室の階段昇降練習自立(2.5ヵ月)
杖歩行で20分で1.5㎞歩行ができる(3ヵ月)
・・・
退院後ゴール:
職場復帰ができる
・自宅から1㎞のA駅まで20分で杖歩行可能
・電車通勤
・帰宅時に疲労していてもふらつかずに杖歩行可能
週末に自宅から500mのカラオケ喫茶に通うことができる
・段差20㎝の階段昇降が必要
もう明確ですね。
イケてないゴール設定の方は具体性も期日も数字もなく、『どうなれば達成されたかが不明確』ですね。これでは取り組む患者さん自身も訓練に身が入りません。
できる限り明確で達成したことがわかりやすい、そして方向性がHopeと一致したゴールを小分けにして数多く設定することで、患者さんは達成感を得ながらモチベーションを維持してリハビリに取り組むことができるでしょう!!
まとめ
かなり長編になってしまい申し訳ありません。
ゴール設定というのはそれだけ難しい内容なのかなと思っています。
ですので、悩むのは当たり前です。むしろ、患者さんの今後のために頭を悩ませているあなたはとてもやさしいセラピスト(看護師さん)なのだと思います。
今回の内容をまとめると、
『Hopeと方向性が一致したゴール設定が大切。患者さんの同意を得て、患者さんが頑張る気になれるようにしよう。』、
『ゴールはSMART(具体性、計測可能、同意が得られる、実現可能、期限がある)なものにしよう。』
の2点が伝えたかった内容です。
ただ、その他にも臨床感で伝えたいことも盛り込んでしまっています。
読み物として「こんな風に考えてるPTもいるんだなぁ」と思って頂けると幸いです。
はじめての投稿なので分かりにくい点も多々あるかと思いますが、
今後も発信を続けていこうと思っていますのでどうぞよろしくお願いいたします。
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