元芸人による、金属バット出待ち問題への考察

漫才コンビ「金属バット」の坊主の方でお馴染み小林氏がおかんむりだ。

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また金属バットの話題。私はどれだけ金属バットが大好きなのかという話だが、普通に「普通に好き」である。ネタもトークも面白いし、2人とも優しい。文句もないし、思い入れも逆にない。夫の知り合いではあるため「売れててスゲー」とかは思うが、私が三度のメシより好きなのはむしろ彼らを「金属ちゃん」とか呼ばうビレバン系イケイケサブカルガールのほうである。彼女達のSNSなどを眺めるに、大阪なら天王寺・東京なら高円寺の土をすくって袋に詰めていると思うし、古今東西様々なバンドTや、ライブタオルが自室に5万枚飾ってあること間違いなしだ。愛おしすぎて抱きしめたい。常に鯖缶とストゼロ臭漂う無職のババアに抱きしめられる恐怖はいかばかりであろうか。

1/3の感情的な事情につき前置きが長くなったが、お笑いライブに限らず、音楽、演劇など、演者が舞台に立つタイプのエンターテイメントには「入り待ち」「出待ち」という文化が存在する。演者が劇場に入ったり出たりするタイミングを見計らって声をかけ、握手や写真、サインを頼んだりネタの感想を話す、ワンチャンイケれば連絡先交換からの〜ワンナイトパツイチ狙いなど使い方はさまざまだ。

しかし「出待ち」をしたいと思っても、確実に出来るとは限らない。目当ての演者が忙しい場合、出番を終えるとともに会場を去ったりするし、終演即退却ということもあり得るからだ。また、「入り待ち」に関していえば、演者がパフォーマンスを披露する前の、ある程度バタバタした時間に行うゆえ「マナー違反」みたいな風潮も無くはない。

そこで「どうしても出待ちがしてぇ」というファンが、推しの出番直後に客席を出てロビー等に先回りをし、「カ〜ンチっ♪」と歯茎を剝きだすわけである。

先日、大宮ラクーンだか無限大ホールだかどっかの劇場でお笑いライブが行われた際、この行為が発生したらしい。しかも客席退出のタイミングが、既に次の芸人がネタを始めたあとのことだった。その際の出待ちの対象が「金属ちゃん」であったため、小林氏がキレたというのがおおまかな経緯のようだ。

実はこの「目当ての演者の出待ちがしたいがために途中退出激おこ」というのは、少なくともお笑い界隈においては何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も議論されてきた話題なのだ。「ブルータス、またお前か」である。既に全身刺し傷まみれ、血潮を吹きまくっている状態だ。

まず、自分が芸人だった時の個人的体験として、ネタをしているときに途中退出されることのダメージは「気が散る」以外にない。そんな露骨にゾロゾロ去られたことがないからだと思うが、正直そんなものに気を遣っている場合ではないのだ。

まずトチらずにやり切る、そして、その他のお客さんを笑わせることに精神を集中させているため、視界の端にモゾモゾと動くものを確認はするが、すぐに忘却の彼方である。良いとか悪いとかではなく、即忘れる。自身の求心力の強弱に関わらず「脱落者は置いていく」くらいのプラチナメンタルでないと舞台には立てないのだ。

しかしこれは私が底辺であった故の発想だとも思う。自身にそこそこの知名度と実力があった場合、普通にモチベーションガタ落ち丸であることは想像に難くない。また、他の観客の気も散るという根本的な問題がある。観劇マナーに違反しているかどうかと問われると、会場のつくり、席の位置、移動の俊敏さなど、状況によるとしか言えない。だが「今出て行った奴の顔絶対に忘れねぇ」という怨念の強い芸人もいるし、逆にライブに遅刻・途中入場した客に対し「ハイあなたは今私と他のお客さんの時間を●分無駄にしました」というウーマンラッシュアワー村本氏のような校長先生もいるくらいである。

とはいえ、途中退出自体は観客の立場として、そんなに悪いことだとは思わない。なぜなら「金を払っている」からだ。パフォーマンス中の退出を避け、転換作業のうちに移動するなどの気遣いはあるに越したことはないが、要は「鯛焼きの皮だけ食って捨てる」みたいな行為も、金を払っていれば問題はないと感じる。

しかし勘違いしてほしくないのは、観客の出す「金と時間」の対価は演者の「エンタメの提供」のみであるという点だ。つまり「出待ち」など 直接コミュニケーションをとる行為はいわばボーナスタイム、居酒屋でいえばサービスのたたき胡瓜にすぎない。鯛焼き屋で「アンコはいらねぇから胡瓜を寄越せ」などと要求したら苦笑いの末、聞かなかったことにされるのが関の山だ。また、飲み屋でハイボール一杯すら頼まずにたたき胡瓜だけ食って帰るのもナシである。

「出待ちのために途中退出」というのはまさにこの「アンコと胡瓜」状態なのである。別に違法脱法ではないし「金属バットの出待ち>>>>>>>>>自分達のネタ」という方程式を発生させてしまった時点でその後に続く芸人の負けだとは思うが、鯛焼き屋の前で店主渾身のアンコをボトボト落としながら「胡瓜と塩とーあとゴマ油ください」などとアホ面下げるのもかなりの危険行為である。小林氏にアツアツの金属板で鯛型の根性焼きを入れられなかっただけ運が良いとしか言えない(金属だけに)。

それすら喜ぶのが「訓練されたオタク」なのかも知れないが、その訓練は明らかに間違っている。帰宅した娘の額に泳げたい焼きくんなど、どう考えても親が泣くバンダリーだ。



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笹木暮子
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