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くだらないと君を物語に乗せて #1

10月25日、彼女と付き合って半年と2日を迎えた日の夜。

彼女を助手席に乗せた車が、点滅を繰り返し、路肩で停止している事を示していた。

??:ごめん、ここ数日の間…何度も何度も、ずっと考えたんだけど…やっぱり…無理だった…

2週間に1回の食事が終わり、いつも通り彼女の自宅の家の近くで少し話し、そして解散をする。

そしてつまらない話が終わり、明日の仕事のために解散をしようとした時、さくらは言った。

〇〇:無理だった……って?

深刻そうにさくらが言うから、何か嫌な予感がした。

さくら:〇〇…私達別れよう…

その一言を言い放ち、さくらは俺と半年以上も続けた恋人関係に終止符を打とうとした。

〇〇:待って、いきなりすぎる。理由を教えて

心の奥底では動揺するも、落ち着いた姿勢と態度でさくらの心情を探る。

さくら:実はね…

さくら:あなたと付き合ってから4ヶ月が経ったくらいから、あなたの存在が少し分からなくなった…

〇〇:……

さくら:あなたと付き合う前はきっと好きだった

さくら:付き合ってからも1週間続けた電話もたまに会った時だって、心から嬉しかった

さくら:でも、京都に旅行に行ったあの日から、私はあなたと出会った時や、付き合う前の事を思い出した…

さくら:そして、戻りたくなった…

大きな粒の涙を目に浮かべながら、さくらは苦しそうに丁寧に言葉を探し、話す。

さくら:私にとって〇〇は、友達として好きなんだ、って思い始めしまった

さくら:そこから私は、〇〇の事は彼氏というより…

さくら:……

〇〇:友達としか思えない。ってわけか……

最後の言葉を言いづらそうにするから、俺は強がった態度でそう言い当てた。

さくら:っ……うん……

正直、そんな気はしていた。

今さくらが言った事を理解してたわけじゃない。ただ、彼女の中で俺はもう以前の好きな人じゃないのかもしれないと、どこか勘付いていた。

付き合ってすぐは、電話をしたいと言っていたさくらは気がつけば電話をする事もほとんどなくなっていた。

さくらから手を繋いでくれる事も、ハグをしてくれる事も、キスをしてくれる事も、会いたいと言ってくれる事すらも無くなっていた。

時間が経ったから。そう片付けていた俺は、彼女の言葉でようやくそれに気がついた。

〇〇:もう…手遅れなのかな…

覚悟は決めてたはずなのに、最後の最後になって俺は縋り付くようにそう言った。

〇〇:俺、変わるから…

〇〇:さくらが俺を彼氏として見てくれるように、努力するから……時間を…っ…

「ください」。そう言おうとした時、思い出した。

さくら:私、前の彼氏はずっと好きだったんだけど、一度友達だと思っちゃうとダメなんだよねぇ…

さくら:慣れてしまうとドキドキしない…

そう言って、1つの彼女の恋の終わりを、付き合う前に聞いた事を。

さくら:……

〇〇:ははっ、そういえばさくら前に言ってたね。そうなるともう手遅れってわけか…

さくら:ごめん…ごめんなさい…

暗い夜のせいか、顔は見えないが、普段から静かで感情を表に出さないさくらが悔しそうに泣いているような気がした。

さくら:だから、もう……

〇〇:ねぇ、さくら

彼女が全てを終わらせようとした時、最後のわがままを通すため、俺は話を遮った。

〇〇:最後にさ、抱きしめてもいい?

〇〇:最後がこんなにしんみりしてるのは嫌だ。君は俺の人生において1番好きな人だから、最後くらい、良い思い出で終わりたい

もっと縋っていればよかった。ここで俺が冷たく突き放していればいつかはさくらの方から。これから会わないのなら最後に言いたい事を全部。

そんな、後悔しそうな胸の痛みをそっと、閉じ込め。

俺は彼女にそう願い事をした。

さくら:ありがとう…〇〇……

そう言って、顔をぐしゃぐしゃにしたまま、さくらは大きく手を広げ、久しぶりに俺にハグをした。

さくら:ごめんね、〇〇…

……

〇〇:じゃあ行ってくるわ、また帰ってくるから…

その一言を残し、23年間同じ屋根の下で共に暮らした両親と別れた。

最寄り駅までおよそ16分。

絶妙な距離感を歩く事を決意した瞬間、右ポケットに入っている水色と白の箱とライターを取り出した。

箱の中身の物を咥え、慣れた手つきで音を鳴らし、火をつけた後、思い切り煙を吸い上げる。

呼吸するように息を吸い、大きく吐き出す。

そして左ポケットに入ったスマホを取り出し、中身を確認する。

「また帰ってくる時連絡しなよ」

高校時代から仲の良い女友達からのLINEにありがたく笑みを浮かべる。

そんな足取りで畑の中の細い道の上を歩く。

「あなたと付き合ってから4ヶ月が経ったくらい…」

ふとした瞬間、4ヶ月前の事を思い出す。

さくらが俺に秘めていた悩み事が2ヶ月もの長い期間にも渡っていた事を不意に理解した。

〇〇:あいつ2ヶ月も隠してたのかよ笑

妙に清々しい気持ちのまま、その言葉を口にした。

人差し指と中指の間に挟まった煙草がもう終わりかけだと理解し、駅の近くにある喫煙所に入る。

そして灰皿にタバコを擦り付ける。

〇〇:色々隠してたのはお互い様なんだな…

〇〇:煙草を吸ってた事も、

〇〇:会ってないとは言え、女友達と連絡を取ってた

〇〇:バカにしてるつもりはないけども、あぁやって、畑を壊しかねない事をする俺のタチの悪い性格も…

〇〇:全部…隠してたな……

自身が行った隠し事を振り返ろうとした時、いつも待ち合わせしていたケーキ屋の横のコンクリートに、やけに視界を奪われた。

〇〇:ここも少し変わったな

そんなエモいセリフを残し、前を向く。

少し生えた雑草を写真に残し、財布からICカードを取り出して改札を通る。

いつも別れ際、2人でハマっていた漫画のキャラの必殺技のポーズを思い出した。

そしてまた雑草を見るために振り返る。

そして、言葉にできない何かの気持ちを込めて。

〇〇:さようなら

〇〇:ずっとさくらの幸せを祈ってるよ

〇〇:ごめんね…

いつものポーズをして、電車へと向かった。

1話、「ごめんねFingers crossed」

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