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くだらないと君を物語に乗せて #5
12月25日、時は遡り、さくらと別れてから2ヶ月が経ち迎えたクリスマスの日の事だった。
真佑:え〜、うそ!かっきーも彼氏出来たの?
遥香:うん、実はね笑
前の席に座る女友達2人は楽しそうに恋バナをする。
真佑:それに比べて〇〇は……ふふっ笑
そう言って真佑はわざとらしく独り身となった俺の事を嘲笑う。
〇〇:おい!真佑!今バカにしただろ!
遥香:まぁまぁ、落ち着きなよ〇〇くんよ。君も恋人を作ると良いよ…
〇〇:最近彼氏が出来たからってイキリやがって…
高校時代から仲の良い真佑と真佑の幼馴染であり、大学が同じだった遥香。
俺ら3人は全員の暇が合えば定期的に集まり有意義でありながらも何もしない無駄な時間を過ごしていた。
彼氏が出来た遥香も仕事の都合により、今年は夜から会うことになってるらしい。
真佑:さぁ、かっきー!そろそろ行こっか!
そういうと真佑は立ち上がる。
遥香:本当にいいの?〇〇
遥香:私達的には3人でクリスマスマーケットとか回りたいんだけど
嬉しいお誘いだが俺は首を横に振る。
〇〇:大丈夫。ありがとう遥香
〇〇:それでも、俺は決めたんだ…
〇〇:今年のクリスマスは、1人で天国を味わうんだ!
真佑:本当バカだねぇ、こんな美人2人の誘いを断ってぼっちでクリスマスとか笑
〇〇:へ!言ってろ!!
そんなこんなで、真佑と遥香と別れ、俺は1人この後の天国のためにATMへと向かう。
〇〇:社会人だし…5……いや!10万いこう!!
独り言を漏らし、少しだけ溜まった貯金の中から10万円を引き落とす。
「うわっ、流石社会人…金持ち〜笑」
おろしたての10万を財布に入れた時、懐かしい声と思い出が蘇る。
さくら:使いすぎ注意だよ??
そこにいるはずのないさくらの姿が目に浮かぶ。
〇〇:今日だけ……今日だけだから……
また、独り言を漏らし、俺は映画館へ向かう。
さくら:やっと最終章だね!この日をずっと待ち侘びてたんだよね!!
チケットの販売機の前で、幻はそう言った。
〇〇:うん、俺も楽しみにしてたんだ…
まるで誰かと会話をするように、心の中で優しく返事をして、俺はチケットを買う。
なぜか大人2名分を買おうとしたが、俺は1人分へと訂正した。
さくら:マジで感動したね…私あの映画…あっ、美味っ
映画が終えるといつも立ち寄るハンバーガー屋で、幻はいつも通り映画と味の感想を述べる。
〇〇:感動はしたけど涙はなぁ…ギリ出なかったなぁ…
〇〇:ていうかシェイクも意外に美味いな…あの時貰ってれば良かったな…
映画の感想よりも味の感想を述べてしまうのは、お互い様だったらしい。
1人で座る2人席で1つのオボンを眺め、なぜか少し悲しくなっていた。
さくら:いけいけ!倒せ!殺せ!!
久々に立ち寄ったゲームセンターでゾンビゲームをしながら幻ははしゃぎだす。
〇〇:っ……つっ……だぁ〜!マジか!
ゾンビの投げた鎌攻撃により、俺の分身であるハンドガンを持つ金髪外国人女性はその場に倒れ込む。
〇〇:ソロプレイだと一気にクソゲーだな、やっぱりゾンビにはマンパワーか…
さくら:仕方がない。私が出ようっ!!
そう言われた気がして、ワンプレイ200円のはずが、俺は財布の中から400円を取り出した。
〇〇:っ……あ、あぁ…これで1回コンテニューできる!概ね計画通り!
強がりを繰り返し、俺は2回ほど400円を取り出し、ステージ1をクリアし、その場を立ち去った。
さくら:ね!私あれ聞きたい!ひげお!
〇〇:ヒゲダンだろ…
そう言って、タッチパネルを操作し、2人で何度も車の中で聞いた曲を予約する。
さくら:このイントロがいいんだよなぁ…
〇〇:確かに……言われてみれば
Cメロが至高である事を知らない幻に煽られ、のこのこ許可を入れ、イントロの良さに気づく。
〇〇:はっ!いかん!今日は1人カラオケだ!
自分の好きな歌を好きなだけ、それを思い出し、他人からのリクエスト曲を演奏中止にしようとするも、手が伸びず、歌い始める。
さくら:あっ、りさの新作出てる…
俺が大々的に推す作家を馴れ馴れしく下の名前で呼び、幻は新作の本を指さす。
〇〇:本当だ、本屋って久々に来ると新作まみれでやめられねぇなぁ…
小説コーナーから漫画、雑誌に備え付けのCDコーナーとDVDコーナーを巡る。
さくら:えっ!この漫画終わったの?結局どっちと結ばれたのかな?小咲ならアツい…
さくら:相変わらず好きだね、バンプ……私あの曲しか知らないや。あの…望遠鏡のやつ…
さくら:またホラー映画?悪趣味なやつ
相変わらずうるさい幻の声と共に、俺は様々なものを手に取り、大金をレジにて吐き出す。
さくら:マジで変わったね、このヤニカス!
わざわざ15分ほど歩き、喫煙所を見つけ、煙の恩恵を受ける俺に幻は文句を言い放つ。
〇〇:うるせぃ、今はチルらせろ……ふぅ〜
煙を吐きながら、貸切状態の喫煙所で呟く。
さくら:まだ生焼けだよ?ほんと目が終わってるね
網の上で贅沢な油を落としながら焼ける肉を眺め、幻は焼き加減の指導をする。
〇〇:ミディアムが美味いんだろが
タンにハラミ、カルビにホルモン、今まで見た事ない輝きを放つ肉に俺は感動をする。
さくら:明日からダイエットだね笑
余計な事を言う幻に俺は「今は黙って食え」と頭で返答しながら大好きなポン酢で味付けをする。
〇〇:う〜まっ!1人焼肉最高すぎる…ぜぇ…
やはり焼肉は1人に限る。そう思い、幻の座る席を眺め、俺は肉をカルビを2人前注文する。
さくら:うわぁ〜……綺麗……
千葉の最大級のクリスマスツリーを眺め、幻は感動しながらそう言った。
〇〇:周りカップルまみれだし…
俺の周りには手を繋ぎ、1つのマフラーをシェアし、写真を撮る、男女の姿で溢れかえっていた。
さくら:ねぇ、〇〇……来年も……
その先の言葉を聞こうとした時、俺の妄想はついに終幕を迎えた。
〇〇:ごめんさくら、それは出来ないよ…
〇〇:来年こそは彼女と見るんだ…
〇〇:だから、お前と2人で……いや、この景色を独り占めするのは今年だけだ……
そう言って、俺は何かを優しく握るように、開いた手を閉じて、前を向く。
〇〇:なんだよ、結局今日1日付き纏われてたな
〇〇:早く俺はお前を忘れたいんだよ
誰にも聞こえない、小さな声で呟いた。
〇〇:まだ少しだけ遠そうだな
〇〇:1人を極めた者にのみ訪れる天国…
5話 「おひとりさま天国」