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名作RPGのBGMで音楽の「モード」を大体理解する(2023/5/7追記)
この記事を読んで目からウロコが落ちた。
取り急ぎいくつかの例とともにまとめてみることにしました。説明を飛ばしたい人はCtrl+Fで「では本題。」までジャンプすることをおすすめします。
※楽典や音楽理論的なことはきちんと学んでいないので、観察と感想の組み合わせだと思って読んでください。そしていろんな表記法が混ざっているのも多めにみてもらえるとうれしいです。
モード(旋法)って何
あるスケール(音階)を基本に、出発点をずらすことで得られる複数のスケールのことをモード(旋法)という。
ちょっと噛み砕きます。
誰もが知ってる「ドレミファソラシド」を、音の間隔はそのままに、レから始まる1オクターブの音階にすると「レミファソラシドレ」になる。
ここポイントなのは、シャープもフラットもついていない、「レミファソラシドレ」であるということだ。
ドレミファソラシド
→レミファソラシドレ
この「ドレミファソラシド」と「レミファソラシドレ」は、構成音は全く一緒だが、主役がドなのかレなのかという違いがある。これらは、「モードが違う」と考える。
そして前者のことを「Cイオニアン」(Cの音が主役で、モードはイオニアン)後者は「Dドリアン」(Dの音が主役で、モードはドリアン)と呼ぶ。
ドレミファソラシド:Cイオニアン
レミファソラシドレ:Dドリアン
こんな具合に、「ドレミファソラシド」をもとにして、「レミファソラシドレ」…「シドレミファソラシ」と、どんどんずらしていくと、計7種類のモードが得られる。これらCメジャースケールの始点をずらすことで生まれる7つのモードを全部まとめてチャーチ・モード(教会旋法)という。
Cイオニアン(C-D-E-F-G-A-B-C/全全半全全全半)※いわゆる長調
Dドリアン(D-E-F-G-A-B-C-D)/全半全全全半全)
Eフリジアン(E-F-G-A-B-C-D-E/半全全全半全全)
Fリディアン(F-G-A-B-C-D-E-F/全全全半全全半)
Gミクソリディアン(G-A-B-C-D-E-F-G/全全半全全半全)
Aエオリアン(A-B-C-D-E-F-G-A/全半全全半全全)※いわゆるナチュラルマイナー
Bロクリアン(B-C-D-E-F-G-A-B/半全全半全全全)
※音階を「ドレミ…」と書くとカタカナが多くなってモードの名前が目立たないので、「C-D-E…」と書くことにした。
ところで、音階を構成する隣同士の音の間隔が全音か半音かに着目してみてほしい。起点が変わると構成音同士の間隔の順番がずれていくが、これが各モードを判別するためのキモになるからだ。
隣同士の音の間隔の並びが同じであれば、主音が違っても同じモードであると言える。たとえば主音がCでもAでも、全全半全全全半という音の並びであればイオニアンになる。
Cイオニアン(C-D-E-F-G-A-B-C/全全半全全全半)
Aイオニアン(A-B-C#-D-E-F#-G#-A/全全半全全全半)
逆に、主音が同じCでも、音の並びが異なれば違うモードになる。
Cイオニアン(C-D-E-F-G-A-B-C/全全半全全全半)
Cエオリアン(C-D-E♭-F-G-A♭-B♭-C/全半全全半全全)
以上、急ぎ足でモードを説明してみた。ここまで大丈夫だろうか。
調とモードの関係
さて、長調か短調かという二択の範疇ではこういう困りごとが出てくる。
「明らかに調はCなんだけどいつもシにフラットがつく曲」をどう説明していいかわからない。ハ長調?ハ短調?ヘ長調?
「長調っぽいけどなんか違和感のある曲」や「短調よりももっと闇が深そうな曲」などをうまく分類できない
ここにモードの考え方を取り入れると、かなり多くの曲の説明がつくようになる。チャーチ・モードはいわゆる長調(イオニアン)と短調(エオリアン)を含めて全部で7種類あるので、とりあえずカバー範囲が広い。
実際何かの曲を聴きながらこれはどのモードかな?と考えるときは、さっき述べたように半音の位置で考えてもいいし、あれこれ移調してみて、どの音を主音にとれば全部白鍵で弾けるかという考え方でもいいと思う(私はそうしている)。
調を変えずにモードを変えると…
一つのモードで統一された曲もあれば、曲中で複数のモードを行き来するものもある。ふとJ-POPのとある歌を思い出してみたら大体こんな感じだった。
前奏:不明(調はD)
メロ前半:Dフリジアン(D-E♭-F-G-A-B♭-C-D)
メロ後半:Dミクソリディアン(D-E-F#-G-A-B-C-D)
サビ:Dエオリアン(D-E-F-G-A-B♭-C-D)
間奏:Dミクソリディアン(D-E-F#-G-A-B-C-D)
調は変わらずモードだけが変わるのだ。全体の統一感は崩さず、曲の雰囲気にメリハリをつけることができる。面白いでしょ?(この曲の正体は最後に紹介する)
ちょっと解説が長くなったけど、とにかく冒頭で取り上げたブログにわかりやすい解説があるので読んでみてほしい。
では本題。
RPGのBGMで、それぞれのモードの例と考えられる曲を見ていこう。
イオニアン(C-D-E-F-G-A-B-C)
クロノトリガー ロボのテーマ
Dイオニアン。
いわゆる長音階なので説明は割愛。底抜けの明るさ。例はたくさんありすぎるがとりあえず最初に思い浮かんだEZ DO DANCEロボのテーマを貼っておく。
ドリアン(D-E-F-G-A-B-C-D)
FF10 祈りの歌
いえゆいー のぼめのー で有名なこの曲はDドリアン。美しい四声。全部俺で再現したり、仲間を集めて4人で宴会一発芸でやったら捗りそう。
ドリアンは長調と短調の中間のようなものなので、曲にすると基本的に透明感がすごい。かの有名なスカボロー・フェアとかもこれだ。
ただ、「のぼめのー」の2個目の「の」のアルトがF#から入ってすぐGへピッチベンドしてることだけが気になる。
FF10 異界送り
アレンジ、というかほぼ同じ曲か。和音のかわりに楽器が出てきたりして多少雰囲気が変わるが、モードは保たれていて何にせよユウナ殿の透明感無双であることに変わりはない。
FF9 いつか帰るところ(メインテーマ)
この曲も基本はDドリアンだと思われる。最初の1フレーズは全部白鍵で弾ける。しかし2つ目のフレーズでドッペルドミナントのEメジャー(メロディラインのG#を含む)、からのドミナントのAメジャー(和音にC#)が出てくる三段構えで展開にメリハリがつき、エモみポイントが無事加算される。つまり音色は柔らかく、音の使い方が厳かで、進行がエモいので、FF9の世界観にはピッタリ。
これは三声かな?先のFF10の例と比べると、ベースがよく動くのと、内声がまじで必殺仕事人すぎて(トップと同じ動き、ベースと同じ動き、独自の動き全部ある)響きが豊かなのに必要十分な要素でできていてムダがない。これまた全部俺激熱案件待ったなし。
フリジアン(E-F-G-A-B-C-D-E)
クロノトリガー 魔王決戦
出ました。これがフリジアンです。ルートがEでほぼ全部白鍵で弾ける摩訶不思議モードがきちんと成立しているから本当に一回聴いてみて。
短調っぽい雰囲気かと思いきや、ルートの上がいきなり短2度(半音)で、しかも頻繁に行き来するので、緊張感がよく表れている。いやあ、揺さぶってくるやん。
確かに最初の2音で不穏にしろと言われたら、半音にするか、トライトーン(全音3つ分=増4度)にするかのような気がするけれども、冒頭が半音の行ったり来たりで心臓がバクバクするのはこの曲と『新世界より』第四楽章とジョーズのテーマだけにしてほしい。
以下の2つは、フリジアンっぽい気がするけどちょっと判断しにくいもの。
クロノトリガー 原始の山
FF7 腐ったピザの下で
リディアン(F-G-A-B-C-D-E-F)
FF6 魔大陸
これは過去イチ感動した例。Gリディアン。
馬鹿みたいに明るくて怖い増4度が良すぎてひとりぼっちの深夜に聞くとアドレナリンが出まくり寝られない。
実はそもそもこの曲がすごく好きで、「この不思議な音階は何なんだろう」とずーっと考えていたのだが、ある日たまたまモードという考え方を知り、頭の中でパズルのピースがはまって感動を覚えた。そんな経緯があるのでこの記事はFFを中心にRPG音楽でまとめることにしたのである。
この曲のハープ奏者の人がどんな気持ちで延々この不穏なアルペジオをかき鳴らしているのかとても知りたい気持ちはある。
ミクソリディアン(G-A-B-C-D-E-F-G)
チョコボのテーマ(前半)
シリーズで手を変え品を変え現れるチョコボのテーマは基本的に2つのフレーズでできている。1つ目のフレーズがGミクソリディアン。2つ目は順当にGイオニアン。チョコボはブルースやったんや・・・
「長調だと思ったらちょっと惜しい」はミクソリディアンの可能性が高い。解決が多少うやむやにされるのでおしゃれでちょっと浮遊感がある。
エオリアン(A-B-C-D-E-F-G-A)
FF10 ザナルカンドにて
Eエオリアン。疑いの余地のないど直球なので万人が何度聴いても泣くやつ。
曲中でAへの転調未遂とBへの劇的な転調があるけどモードは基本的に全部きれいなエオリアンで統一されている。
王道な進行の中で、個人的にはちょっと色気を出してこられてきてる0分51秒あたりのDCF#Bの和音が好き。何て表せばいいんだろう。D7(13)(omit5)?
FF10 素敵だね
Dエオリアン。サビで転調してFイオニアン。
言ってみればナチュラルマイナーと長調の関係なので、そりゃそうだ、という感じだけど・・・シンプルに完璧な例。『ザナルカンドにて』と対になっていると思えば、お後がよろしすぎる。
ところで、一周回って意表を突く例はこれ。
クロノトリガー 時の回廊
F#エオリアン。
この曲がすごいのは、ぱっと見ものすごく深淵で複雑で、いかにも今まで知らなかった世界に来ちゃいました感があるけど、実はキーをAに直すとなんと全部白鍵で弾けちゃうものすごくシンプルな曲なのである。
楽器の使い方や音色に工夫を凝らす一方で、音階の構成要素はいたってストレートという絶妙なバランス。はぁ、こういう美しさ好き(ため息)
※余談 教会旋法じゃないモードについて
これは超絶余談の余談だが、時の回廊を初めて聞いたときに「あれ?ラピュタの飛行石のテーマでは?」と思った人はいないだろうか(いてほしい)。
雰囲気は似ているのだが私が思うに両者の決定的な違いがまさにモードで、時の回廊はF#エオリアンとド直球のナチュラルマイナーであるのに対して、飛行石のテーマはDフリジアンまたはハーモニックマイナーを起点としたDミクソリディアン♭9,♭13(多分後者の方が有力だと思う)と自分でも何を言っているか若干よくわからない複雑な音構成になっているのだ。
以下とりあえず考えの軌跡を書いておく。
時の回廊
冒頭:D-F#-B-C#-F#-F#-B-C#-E-F#-B-C#-F#-F#-B-C#…
メロディライン:C#-G#-G#-F#-F# F#-G#-A-H-A-G#-F#-F#-E-E…
調:F#に解決
音階:F#-G#-A-B-C#-D-E-F#
モード:F#から始まる全半全全半全全=F#エオリアン
飛行石のテーマ
フレーズa:D-A-C-D-A-C-D-A-E♭-A-C-G-A-C-F-A…
フレーズa':D-A-C-D-A-C-D-A-C-E♭-G-B♭-E♭-G-C-G…
フレーズb:D-D-F#-A-C-D-A-F#-D…
調:解決がない(?)。曲を通して軸足がDに置かれている感じ。
3度がFとF#の2通りあることに着目して、
1)aとa'を満たす場合
音階:D-Eb-F-G-A-Bb-C-D
モード:Dから始まる半全全全半全全=Dフリジアン
2)a'とbを満たす場合
音階:D-Eb-F#-G-A-Bb-C-D
→注意!構成音がメジャースケールではない。この記事の冒頭で「これらCメジャースケールの始点をずらすことで生まれる7つのモードを全部まとめてチャーチ・モード(教会旋法)という。」と言ったが、実はメジャースケールを元にしていないモードもあり得るのだ。
この場合は、和声短音階(ハーモニックマイナースケール)をもとに得られるモードだと考えられる。この記事がとても参考になった。
モード:Dミクソリディアン♭9,♭13
1) 2)を弾き比べてみると明らかに2)の方がそれっぽい。なので基本的にはこの曲のモードはDミクソリディアン♭9,♭13で、それから逸脱するマイナー3度がちらほら出てきますよ、と考えた方が納得がいく。
納得って何だっけ。
ロクリアン(B-C-D-E-F-G-A-B)
かなり強烈な音の並び。正真正銘のロクリアンにはまだ出会えていない。
いい実例に出会えていないので正直ロクリアンが一つのモードとして成立するのは正直まだ納得できない。だって、シドレミファソラシですよ。Cメジャーへの前フリだと思うじゃん。(ごめんなさい)それ自体で成立するってどういうことよ。(本当にごめんなさい)
でもちょっと近い例を見つけた。
参考:FF10 Otherworld(ジェクトのテーマ)
C#-D#-E-F#-G-A-B-C#(全半全半全全全)だとするとC#エオリアン♭5(メロディックマイナーから派生するモード)が正しいのだと思うけど、あまりにも完全五度の存在感が薄いのでぱっと思い出したときはロクリアンだと思いました。おやじさんェ・・・
何せかなりレアだと思うので、ロクリアンの曲を見つけた人は教えてください。
======2023/5/7追記======
まさかのロクリアンを見つけました。
ポケモン赤緑 戦い(VSトレーナー)
トレーナー戦のBGM。15分26秒から31秒あたりの4小節分がおそらくBロクリアン(B-C-D-E-F-G-A-B)だ。ベースにイレギュラーな音はあるけど主な要素はカッコ内に書いたとおりの音だけでできている。すばらしい。
その後の4小節は一番高いパートのCに#が付く。ただ他のパートの音の構成は変わっていないので、トップのC#をイレギュラーだととらえればここもロクリアンといえる可能性がある。
と書いて自信がなさすぎたので、リメイクの解釈も知りたくなった。というわけで、ファイアレッド・リーフグリーン版も聴いてみた。
19分11秒から16秒あたり。調がEに変わっているが、やっぱりこちらもEロクリアン(E-F-G-A-B♭-C-D-E)。赤緑版と比べるとベースとメロディラインが多少変わっている。
が、ベースの音はイレギュラーがなくなり音階構成音になっているし、メロディラインも遊んでいるように見えてこれまた音階構成音を守っているので、なんと元よりかっちりロクリアンになっているのだ。ひええ。
原曲は3和音しか使えないがリメイク版は使える音数が多い。だからいかようにも遊べるし、全体的に派手で豪華になる。
この4小節に関しても、ベースにもメロディラインにも原曲にはない動きを入れることで華やかにしている。ただそれが5度のB♭や6度のCの音なので、原曲がロクリアンであることを前提にリメイクではよりこの音階を印象付ける方向に派手になっているというわけだ。多分ね。
というわけで、ポケモン赤緑トレーナー戦のBGM冒頭の3~6小節目はロクリアンと言ってよいと思います。大発見でした!
======2023/5/7追記ここまで======
まとめ
「魔大陸のテーマはリディアン」と言いたかっただけなのに実に6千字も書いてしまった。私はギターを弾かないし曲を作るわけでもないので、モードやコードの知識が何の役に立つかと言われると、まあ何の役にも立たないと思う。ただそこには「好きな人の誕生日がわかったとき」と同じような、ささやかながら沼の一歩手前まで来ていることを自覚したときの喜びがあるだけだ。
今回取り上げた例はゲームのBGMで、そのうち多くは電子音楽である。音の高さに関して言えば、電子音楽は奏でる楽器の制約を受けない。楽器の構造上調に得意不得意があるとか、一定の範囲を超えた高い音が出ないとか、音高が離散的にしか表現できないとか、そういう懸念をぶっとばして自由度高くいろんな可能性を実現できるのが魅力だと思う。
そう考えると、逆に、演奏上の様々な制約がある中で美しくすぐれた表現を追求する面白さもありそうだ。だから同じようにいろんな楽器で奏でられる古今東西のいろんな歌や曲を分析するのもきっと楽しいはず、と強引にまとめて筆を置く。