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30年後に到着した "FAST CAR" は・・・

少年時代繰り返し聞いていた曲を自身が歌って賞をとったカントリー歌手のルーク・コムズ。

2024年のグラミー賞受賞式で、この曲のオリジナルシンガーであるトレイシー・チャップマンとの共演に感動した人も多かったのではないでしょうか。チャップマンはこの10年以上は特に公の場で歌うこともなく、グラミーに出てきた時の観客の感激はすごかったのが映像の歓声で伝わります。前奏が始まってチャップマンの少し恥ずかしそうにはにかむ様子、その横で嬉しそうなコムズ、”コムズよ、よくぞこの曲を歌ってヒットさせてくれた!”と誰もが思ったことでしょう。

「Fast Car」は1988年に発表され、2023年7月にコムズのカバーによってカントリー・ラジオ・チャート”Country Airplay”で1位を獲得し、その後瞬く間に話題になり、カントリー・チャートとビルボード・ホット100のトップに出てきました。多くの人たちにとっては初めて聞く曲かもしれません。当時、チャップマン自身の原曲ではビルボード・ソング・チャート"Hot 100"で6位がピークでした。今回1位をカントリーチャートで獲得ということで30年ぶりの曲ということ以外にとても注目を浴びる理由は、実は黒人女性の単独作曲の作品としてはカントリーチャート初だからです。(共作者という立ち位置では過去にいました)

この曲は、いわゆる貧困層の歌で、家庭に問題がありそこから逃げ出すために好きになった人と車で新たな人生に飛び出すものの、その相手もダメな人で結局抜け出すことが叶わないという、夢も希望もないような歌詞です。生活が良くなるかと思ってたけどダメだった、私はもうどこにも行かないけどあなたはその車で好きなところに行けばいいのさ、と諦めと悟り、強い決心の歌になってます。30年前のチャップマンはまだ24歳でこの歌を歌っていました。今、聞いてみると人生3周目くらいの経験豊富な人間の歌声に感じられますが、どんな思いでこの歌詞を歌っていたのだろうと考えさせられます。

しかし、30年経った現在、誰もがファストカーで幸せな世界に、幸せな生活をつかめているでしょうか。

いいえ、現在でも、アルコール依存の父親と逃げ出す母親、学校を辞めてスーパーのレジ係をして耐え、好きになった男性と逃げ出すものの、やはりその男性もアルコール依存でシェルターに逃げる羽目になって、、、、という人はどこかにいる世の中のような気がします。

30年経って歌われても1位になるこの曲、つまりこの曲が必要とされる人、共感する人が今なお多くいるということなのかもしれません。

この二人の演奏にさりげなく入ってくるペダルスチールギターの音色、いいですねぇ。。


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石田美也:Country Music Lab
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