#月島書簡 5
早月くらさんへ
こんにちは。お手紙はずいぶんご無沙汰してしまいました。
これまでの月島書簡でわたしは、くらさんと遊んだ時の思い出→短歌の話→ほか、みたいな感じで書きがちだった気がするのだけど、せっかくくらさんに出すお手紙なのだから、これまでくらさんにお話ししたことがないことを書いてみたいなぁということを考えていて、そしたら思いの外テーマ選びがむずかしく、気づくと季節が過ぎてしまった……という感じです。
今回は短歌のこともシルバニア(デビューおめでとうございます!)のことも一旦横において、わたしの与太話にお付き合いください。
だいぶあたたかくなってきて、いまわたしの育てている鉢は花盛りを迎えつつある子たちが多いのだけど、花を育てていてわたしがよく感じるのは「選択することのむずかしさ」です。
わたしは、虫がちょっとこわい。こわさにもいろんなパターンがあって、単純に造形に対してびっくりするとか、刺されたり触れてかぶれたりすることに対する恐れとか、そういうのももちろんあるのだけど、「自分の意思で虫を始末すること」に対するこわさがどうしてもあります。
そもそもわたしがこわがるのなんて身勝手な話で、よっぽどの猛毒でもないかぎりわたしは虫が原因でどうにかなることはまずないけど、虫からすればわたしに勝ち目ってないんですよね。
けれど、自分の選択によって何かが死ぬ……ということに対する引け目というか、そういうものが妙につきまとうのです。
とはいえ共存できるほどわたしも器がでかくないし、放っておけば大事な花の方が虫たちにやられてしまうので、なんとか始末していくわけです。
昔、わたしが暮らしていた団地の裏には住人たちの畑があって、そこではじいちゃんばあちゃんたちが、作物や花についた虫をひっぺがして即踏みつぶすたくましい姿を見てきました。けれど修業がたりないわたしはまだそこまでの胆力がないので、いろんな姑息な手段を使って自分の気持ちと折り合いをつけていきます。
一番よくやりがちなのは、虫のいるを葉っぱごと切って袋に捨てちゃう。どう考えても虫の末路は暗いわけですが、どこかで「わたしはやってない」と思いたいんですね。
あとは水をかけて流す。「ワンチャン助かるかも」みたいな救いがほしいわけです。
それから薬。これはもう直接手を下しているだろうと分かってはいるものの「そんなつもりはなかったけど、薬かかっちゃったかな?」みたいな言い訳ができる余地を残しておきたい。苦しい言い訳です。
罰があたるのがこわいとか、かわいそう、とか、そういう清い気持ちを主張したいわけではありません。そもそもわたし、いろんなもの食べるし。けれど虫を始末するたびに「わたしはいま花を選んで虫を殺したんだな」という自分の選択について思いが巡るのです。
何の話? という感じのお手紙になりましたが、こういう話もしていけたらたのしいなぁと思います。寒暖差のある季節ですが、体に気をつけてよい春をお過ごしください。
(桐島あお 2024.5.3)
桐島あおさんへ
こんばんは。すっかり夏になってしまいました。猛暑、つらすぎますね。これでまだ7月なのかと日々絶望しています。あおさんはいかがお過ごしですか?
この暑い中だと、桐島ガーデンの花々の様子も気になります。前回のお手紙は虫との、そして虫に対峙する心持ちとの戦いに深く頷きながら読みました。「なにを選ぶか」の裏にある「なにを選ばないか」について、単純な切り分けなんて絶対にできないけれど、選択にできる限り自覚的であれたら、そういう想像力を使いながら折りあいをつけていけたらなと思います。
お返事を書きながら思い出した短歌があったので残しておきますね。
突然話は変わりますが、あおさんは普段どんな音楽を聴かれますか? はじめましての集まりに近いと、よくある質問かなと思います。私はあらゆることをわりと秒速で記憶から薄れさせてしまうので、こういう軽い質問に適切なテンポ感で答えるのが苦手です。なので最近は「羊文学よく聴きます、ライブ版が良くて…!」っていうのをひとつのアンサーとして懐に隠し持っています。(ここで言ってしまったから使いづらくなりますね…笑)
実際に好きで日々聴いているのは確かなのですが、答えながら(でも、最近の一番ではあっても、普段をもっと幅広な期間ととらえるとベストじゃないかも)と思っていたりします。
じゃあなんでベストの話をしないんだよってなりますよね。たぶん会話のつなぎ的な立ち位置であろうこの質問に対して、会話を広げられるような返しをしたいというあざとさがあるのだろうと思います。羊文学、みんな知ってる。でも今日は、せっかくあおさんへのお手紙なのでベストの話をすこしさせてください。
私にとって“たましいの殿堂入り”があって、「People In The Box」というスリーピースバンドです。
高校生のころ、いまは亡きTSUTAYAのCDレンタルで出会ったのが最初でした。好きなところを挙げると切りがないのですが(歌声、メロディーライン、演奏技術、メンバーの関係性…)、一番の推しポイントは歌詞です。本当に、詩、という感じで。CDが出るたびに、ヘッドフォンで集中して一周→歌詞カード(懐かしい)を見つめながら二周目、とやっていたのを懐かしく思い出しました。そしてこういう何でもないようなことを覚えていたことにやや安心しています。
最近音楽はサブスクでながら聞きのことが多くて、意外と歌詞をちゃんと把握していないなとはたと気づきました。高校生のあの頃に知ることができて、今でも新作を聴くことができる。本当にありがたいことだなと感じます。
いまYouTubeで検索したら、公式からたくさん音源があがっていたので、悩みに悩んだ末の本日の三曲選をお伝えします(括弧内はアルバム名)。
■スルツェイ(Family Record)
■月曜日/無菌室(Ghost Apple)
■八月(Ave Materia)
よかったら聴いてみてください。
今回は急に語りだしてすみませんでした。音楽に限らず、あおさんの“たましいの殿堂入り”もきけたら嬉しいです。暑さに抗わず、よい夏をお過ごしください。ではでは。
(早月くら 2024.7.10)
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