真冬のタンクトップ少女
【ピーちゃん2歳の頃】
ぴーちゃんは実に開放的。メッシュのタンクトップにオムツスタイルで過ごすのがお好き。
こちらがどんなに懸命に洋服を着せようとも、器用に自分で脱いでしまう。
でも時は冬。
すっかり日が落ちてピーンと空気が張り詰める暗い夕方、自転車で兄たちのプールのお迎えに行かなくてはならない。
そしてピーちゃんの特等席は、前乗せのチャイルドシート。
ものすごく冷たい風を最前列でビュンビュン切っていくことになるので、さすがにコートを着せたい。
「風邪ひいちゃうから、着ないとお留守番だよ。」という、後者の言葉をなんとなく危機的に察したピーちゃんはしおらしくコートを羽織ってくれた。
抱っこしてシートに乗せ、全力で自転車をこぎ始める。
すると、
この時を待ってましたとばかりに、おもむろにコートを脱ぎだすぴーちゃん。
このタイミングで脱ぐとはなんという策士。
お迎えのタイムリミットは迫っていて、引き返す時間も、のんびり止まって説得する時間もない…。
2歳の娘にしてやられたり。
いくら言っても、脱ぐ手を休めないぴーちゃん。
間もなくタンクトップ姿になった彼女は満足げにビシッと前を見据えた。
そのまっすぐな眼差しに、私は悟り、あきらめた。
ピーちゃんの意思は強い。
すれ違う人たちが、ピーちゃんを見てびっくりしているが、せめて寒い外にいる時間を短くしようと、とにかく全力でこぐ。
さすがのぴーちゃんもよく見ると鳥肌で、少し震えている。
信号で止まっては、露出したぴーちゃんの肌をさすり、(一応)コートをすすめるが、頑として受け入れないピーちゃん。
何が彼女をここまで駆り立てるのか、全くわからない。
ちゃんと喋れるようになったらその理由を聞いてみたい。覚えているだろうか?
もう母はピーちゃんの意思を受け入れたけど、風邪だけはひかないでね!
真冬にタンクトップ一枚で過ごす孤高の少女。
母はその勇姿を忘れない。
#私の意思ではなく彼女の意思です 、と本当は叫びたい