新規就農者のサポート
今年から新規就農するご夫婦と、もともと別の場所で新規就農していたけれど面積を拡大する農地が確保できず県外から移住してきて福井で就農を決めた人のサポートをするようになった。
それとは別で以前うちでアルバイトしていた人がいよいよ今年から新規就農で農業を始めるので、そちらもサポートしようとしている。
うちはもともと里親農家として登録されていて、県の施設で研修したあと一年間里親のもとで研修する制度もあるのだが、その研修が終わったあと心許ないということで、うちで一緒に育苗の作業をして学ばせて欲しいということだったので、前者の2組は育苗の準備から一緒に作業する。
2組とも育苗施設を借りたものの、まだ使える状態ではないため、うちでやり方を覚えて来年から自分でやるつもりでいる。
もう1人は里親研修でお世話になった農家さんの近所に施設があるため、引き続き育苗に関しては農家さんからのサポートがある。
苗を購入するとかなりの金額になるので、冬仕事があまり無い北陸では苗の金額を抑えるため自分で苗を作る人は結構いて、冬野菜での収入が少ないなら空いている時間で使う資材を調達して自分で作るのは将来的には負担も減るし、一から技術を身につけるには良い方法だと思う。
もちろん、冬にアルバイトを入れている人もいたりするので、それは人それぞれである。
うちの育苗の作業は前年の冬に堆肥を消毒することから始まる。
播種用の培土は雑菌がいると発芽が揃わないのと、本数が確保できないのとあって、より確実に発芽させるため、堆肥は消毒したものを使う。
砂はこの辺りは良質な山砂が取れるので、業者からトラック2台分ほど購入する。
冬場の堆肥の消毒は農薬を使うが気温が低いため温度が確保しにくい。
必要な温度とその温度を何時間かけるかが農薬によって決まっていて、冬場は最低でも一ヶ月は必要なので、ガス抜きの期間と合わせて逆算して消毒しておく必要がある。
また、この辺りでは農家が共同で温床線の漏電、断線の検査をし、育苗箱の消毒もする。
うちは温床線の検査だけしてもらい、育苗箱は枚数が多いので自分で消毒する。
事前準備をしておき、それと並行して育苗ハウスの中を作っていく。
ハウスの中の雑草やゴミなどを掃き出して、温床線を張り、電気が通るか確認する。
育苗用の培土は天気の悪い北陸では外で作るのが難しく、育苗ハウスの中を使って堆肥、山砂、石灰や微量要素などを混ぜて作る。
箱に詰めて、それを温床線を張った苗床に並べていく。
時期が来たら、種を播きはじめる。
ざっくりと播種するまでの準備で書き出してみて、こんな感じでやるんですよと口頭で伝えてもいいのかもしれないが、百聞は一見にしかずで、実際にやってみた方がわかりやすい。
播種する土の湿り気の具合、水やりの仕方、発芽するまでの管理、発芽したものをどのタイミングで接木するか、温度、湿度の管理はどのようにするのかも一番神経を使うところなので、一緒に作業してみた方が良い。
このような技術的なことを教えたがらない農家さんも勿論いる。
長年試行錯誤して掴んだ大事な技術なので、お金を払ってでも学びたい人もいるだろう。
うちはもともと夫の父が他所から来た人に技術や、農地の世話などしてきた人で、私も新規就農の研修をしていた時に紹介されたベテランの里親農家だ。
その頃には後継者になるような世代が外へ出ていき、いずれ農家がいなくなっていくことに危機感を抱いていたのだろうと思う。
夫は自分の仕事はそれも含めてだと思っているし、私はそうやって他にもいろんな農家さんにお世話になっているので、今度はそれを次の世代へ返していく番だと思っている。
サポートと言っても、匙加減が難しい。
私たちは20年近くやってきても大ベテランではないので、同じくらいの歳の人に教えるというのも伝え方、受け取り方でうまくいかないこともある。
だけど、就農した人たちが何も手助けなく仕事して生活できるようにならないと、いずれ私たち自身が何もかも背負って苦しいことになる。
なので、できることをやろうと思う。
能登半島地震で、私たちの育苗ハウスも液状化により被害を受けている。
早く直していかないと育苗に間に合わないので、大慌てでやっていて、彼らにも手伝ってもらいながら作業している。
家は無事でライフラインの心配はなく、物流も何事もない場所なので普段通りにしているが、私の知人が心配してチョコレートを送ってくれた。
大きな板チョコ2枚をそれぞれ半分にして、お裾分けした。
私が就農する前に研修施設でお弁当のおかずをお裾分けしてくれたパートの方の優しさを思い出した。
頑張れ、と応援してくれてたのだなと思う。