コロナによる市場変化と、起業家がとるべき行動
前回ポストでは、現在起業家とディスカッションしている内容について言及しましたが、今回は、a16zのPodcastで、元UberのAnderewChenと元HubSpotのBrian Balfourの市況感の話がとても参考になったので、この内容をベースに、市況感の変化他の記事の内容も含めメモを書きました。toCとtoBのグロースをしていた2人ならではの話は参考になるので原文も見てみてください。
Ⅰ. 混乱時の投資家心理と成長モデルの変化
Ⅰ-1. 売上重視から投資効率重視の市場環境へ
現在変化している戦略上の大きな論点は、現時点でアウトプットの目標はどうあるべきかという議論が出てきていることです。- Andrew -
多くの投資家のマインドは、先行き不透明感から、投資効率>売上規模になっています。ファイナンスの観点では、「Paybackは長いけど圧倒的な売上成長」より、「健全な成長性を示しつつ、ユニットエコノミクスやPaybackの効率の良さ」を示した方が投資家の関心を得やすい状況です。
極端な例では、スピードを優先して成長を追求するブリッツスケーリング(Winner takes allの市場で有効とされる)は、戦略自体はこの局面も有効ですが、資金調達という意味では、渋い反応の投資家が増えていると思います(決して戦略が効かないというわけではなく、その点においてはIs Blitzscaling Over?というリードホフマンのブログが良かったので貼っておきます)。
現状の高い失業率から、少なくとも市況が回復するまでに1年以上かかる可能性が高く、事業計画を練り直す際には、こういった状況も踏まえて、次回ファイナンスでどう投資家にアピールしていくか、を念頭に置いて考えると良いと思います。
Ⅰ-2. 無料で顧客獲得できるビジネスモデルの価値が相対的に上がる
Product-Led Growth(SaaSで言うFlywheelモデルなど)の流れは以前から生じているが、Covid-19を機にその流れが加速する - Brian -
Product-Led Growthとは、SaaSにおいて、まさにZoomなどに見られる、製品を利用することでユーザーが拡大し無料→有料でユーザー転換するようなプロダクト主導の成長戦略です(Product-Led Growthに関しては日本語ではこちらのブログがわかりやすくておススメです)。バイラルが効くので、CACが低く抑えられ、顧客拡大スピードを加速することができ、この局面では非常に効率が良いです。
toCではPaidのCACが下がっているカテゴリも多いので一概には言えませんが、調達環境なども踏まえると、バイラルやSEOなどオーガニックに強い軸のあるプロダクト・会社に優位な局面と考えます。
Ⅰ-3. グロースモデルが大きく変わる場合もある
1つは、アウトプット・メトリクスを再調整することです。そして2つ目は、成長モデルをどのように進化させて、今うまくいっているエンゲージメントのようなものを活用するかということです。 - Andrew -
COVID-19によりリモートワークが普及すると、ユーザーの自宅にプロダクトを届けなければいけないため、プロダクトによっては、グロースモデルを変えていく必要があります。
toCでは、本文ではLunchclub(日本で言うとYentaに近いマッチングサービス)の例が挙げられていましたが、例えばTinderなどのマッチングアプリでは「マッチングまで」が提供価値だったのが、「マッチング後、オンラインミーティングが盛り上がり、満足度が高い状態」までが提供価値になったりします。となると、サービスの本質的な価値が少し異なってくるため、メトリクスも変わってきます。
toBにおいても、先に挙げたProduct-Led Growth 戦略をとっていくなどの変化(コンサルティングモデルでもセルフサーブ化できるようなプロダクト開発をしていくなど)が必要になり、また外出自粛によりインサイドセールスのサービス提供範囲が広がりグロースモデルを変えるチャンスでもあると考えています。また、USのイベント管理SaaSのBevyは、バーチャルイベントに対応することで需要の急増をとらえています(日本のEventhubも同じようにオンラインイベント対応していました)
Ⅱ. トップダウンの意思決定をしていく
・混乱時にはデータは役に立たないことが殆ど。ユーザヒアリングの方が早く傾向をとらえられる
・今の段階では、十分なコスト削減をしているのか、過剰な削減をしているのかを100%正確に知ることはできない
・あるシナリオに「賭け」て、様子を見つつジャッジしていくことになる
・リーダーシップが重要になる。新しいシナリオやトップダウン体制に一時的に移行することを、社内に説明していくのが大事
4~5月を経て、個人的には、顧客の反応がダイレクトにわかるtoCビジネスに対し、相対的にリードタイムが長いtoBビジネスは、先行き見通しを立て辛く、様子見をしているケースが多いと感じています。
もちろんコスト削減と並行して、ヒアリングを通じてクライアントの考え方や業界全体の傾向をつかみ戦略を再考しています。一方で、営業や展示会チームなどのアロケーションが現状のままでいいのか、戻ったときの立ち上げが遅れるリスクと、キャッシュがなくなっていく状況との間で悩ましいです。
心構えのような話になりますが、シナリオを置くというのは、様子見をするよりも意思決定を前に進められるので良いアイデアだと思いました。投資家としても、起業家とどういうフレームワークでディスカッションするのが良いのか迷うところでもあります。以下の話は刺さりました。
・今の段階では、十分な削減をしているのか、過剰な削減をしているのかを100%正確に知ることはできないと思います。
・これは本当に難しいことで、本質的にはある種の賭けをしているようなものです。あなたが「私たちが賭けているのはこういうことだ」というようにフレーム化すると、会話が変わってくると思います。 - Brian -
シナリオを置くことで、現在の環境に反応することにチームの時間を使うのではなく、長期的にビジネスの糧となることにリソースを投資できるようにしていくことが大事だと思います。
Ⅲ. (おまけ)ケース別にやれること、考えるべきこととその事例
ここはもう既に起業家の方は考えていると思うのでおまけとして載せておきます。
Ⅲ-1. 人々がコンバージョンする気がなく、逆風に見舞われている場合
あなたができる最善のことは、後でコンバージョンできる可能性のある潜在的な可能性を蓄えておくこと。 - Brian -
一部を除いたtoBビジネスは、全体のCVモメンタムが下がっているためこのケースの企業が多いと思います。Andrewは、ビジネス向けの非同期ビデオメッセージングサービスのloom(PC上などの動画を録画してYoutubeなどにUPすることなく顧客等に送信可能なサービス誰かに送ることができる)の例が挙げられていました。有料プランを30日無料にし、有料登録者は50%減ったが、リードを増やした事例です。
ただし、ただ無料にしたらいいというわけではなく、有料化へのシグナルなどユーザーエクスペリエンスの設計を同時に強化していく必要があります。
これまで自社製品のフリーユースケースを持っていなかった企業は、一般的に、既存の製品からいくつかのものを削除してフリーにするだけでフリーユースケースに到達できると考えています。そうではなく、アクティベーションにおける最初のユーザー体験をどのように構築するか、それが組織内でどのように広がるか、そしてアップグレードの準備ができているかどうかのシグナルをどのように検知するかを意図的に構築する必要があります。 -Brian -
C向けでは、追い風企業ですが、Pelotonが無料体験期間を30日→90日に延長し、需要の拡大を加速させていました。日本の事例だと、Bizreachがプレミアム会員1週間無料など行っているのを見かけました。
Ⅲ-2. 特に追い風はないが資金が余っている場合
競合のシェアを積極的に奪うことも検討できます。この類の施策を実行できるならかなりシェア獲得スピードが上がるので、知恵を絞って考えていきたいです。
素晴らしいキャッシュポジションにあるファウンダーは、非常に積極的に行動しているのを目にします。Segment and Driftの元成長担当副社長であるGuillaume Cabaneは、彼の会社の多くでこのようなことを思いつきました。資金力のある企業には、競合他社を利用している企業のリストを作成し、それらの企業に会いに行き、1年間無料で自社製品への切り替えを提案しています。これは非常にアグレッシブな動きで、この環境では明らかな追い風を経験していないにもかかわらず、一部の人は追い風を作るという選択肢を持っているかもしれません。 -Brian -
Ⅲ-3.追い風の企業
1や2で挙げた追い風を最大化できるような施策は当然行うとして、追い風企業の場合は獲得が簡単なコンバージョンよりリテンション施策を考えたほうが中長期での成長にレバレッジが効きます。
行動変化が永久ではないと思われる場合、飛躍的な成長の機会にするために、この期間に獲得したユーザーを何らかのユースケースに移行させるか、より長期的な観点でプロダクトを見直す必要があります。これを終わりと考えている人は、ある時点で大量の解約を経験することになるでしょう。 -Andrew -
USのパブリッシャーが、コロナの影響でPVは急増したものの、サブスクリプション登録を増やすのに苦労している話など、既に顕在化しはじめています。早急に手を打つ必要があります。
一方で元々リテンションレートの高いNetflixやSpotify、YouTubeのサブスクリプションなどは下記のように絶好調です。すごい‥!好調なD2Cサブスクもこういう感じかと思います!
エンターテインメント、ゲーム、ビデオ、ワークプレイス・コラボレーションなどの分野であれば、そのすべてが明らかに恩恵を受けています。コンバージョン率の向上、アプリ利用時間の長時間化、高い獲得率によるものです。現在、これらのエンターテイメント製品のユーザー獲得コストは以前の半分です。この後、高いリテンションレートを維持することができれば、そのようなユーザーは永遠に維持されるでしょう。複数年に渡ってこれらのユーザーを維持し続けることができるため、恩恵を受けることができるのは当然のことです。 - Andrew -
この場合の問いは中長期においていかにシェアを拡大するか、そのために追い風の今何をすべきかということになります。Netflixの未視聴ユーザーへの自動キャンセルや、映像制作者支援の1億円の基金などは参考になります。
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