最後の「いつも」の連続|2020.08.06(thu)
丸一日この家で過ごす最後の日となった。別にいつもと変わらない日常ではある。ただ一つだけ違うのは、家の中がすっかりこざっぱりしたこと。そして夕食は手作りではなく、スーパーで買ったもので済ますこと。
ある程度、家の片付けが済んだ午後、アパルトマン前の道や周辺を動画撮影した。買い物へ行くたびに通っていた道だけれど、ここもそろそろ記憶の中の景色になってしまうのかと思うと、少し感慨深い。
今日初めて気づいたのだが、うちの通りには日本人夫婦が住んでいるらしい。しかも隣のアパルトマン。ちょうど家の前の通りを撮影していたら、日本人4人が話し込んでいて、こんな小さな道に日本人が私たち夫婦を含めて6人も偶然集まることはあるだろうかと驚いた!
言葉とは不思議なもので、フランス語をどんなに近くで、大きな声で聞いても全く理解できないのに、遠くからかすかに届く日本語は鮮明にわかるのだ。「あっ!日本語が聞こえる!」と。結局話しかけることはなかったけれど、フランスで日本人に遭遇するとなんだか嬉しい気持ちになる。
その後は最後の晩餐ならぬ、最後のケーキを「ピエールエルメ」で購入。うちの近所にはいろんなパティスリーがあるのだけれど、やっぱりここが一番美味しい。ベタだけれど、ベタになるだけの味がここにはあるのだ。
ただなんせ種類が少なく、私は今回もイスパハンを、夫は(巨大な)ミルフィーユを選んだ。ミルフィーユはフランス語で1000枚の葉っぱという意味なのだが、ここのはドゥ・ミルフィーユといって、2000枚の葉っぱという意味がある。よほどの甘党でない限り、食べきれない一品だ。夫はぺろりと平らげたけれども。
最後の夜だからといって特別なことなど何もなく、ただいつものように散歩に出かけた。いつもの景色、いつものリュクサンブール公園の匂い、いつものホームレスのおっちゃん…と、「いつも」がつまったこのお散歩コースも、今日でおしまい。
またフランスに旅行で来ることがあれば、またこのアパルトマンを短期で借りて、この道を住人のようにゆるりとお散歩したいね〜なんて夫と話した。
引越しの手続きがかなり面倒だったこともあり、海外生活に対して正直もうお腹いっぱいだったけれど、やっぱりパリの街並みはパワーを持っている。
石畳の道、整然と並ぶアパルトマン、そして緑豊かな公園とキラキラひかるセーヌ川。これを見てしまっては、パリに後ろ髪をひかれないはずがない!
ただ一つだけ全く魅了されなかったのが、食べ物だ。美食の国とは言われているものの、高いお金を出して外食に行ったわけでもなく、コロナで自炊が求められていたせいもあるかもしれないが、特段フランスだから美味しいというものにはそこまで出会わなかった。しいていえば、チーズやバター、パン、チョコなど。
それでも脂肪は立派に蓄えられたのだから、何も食べていないといえば嘘にはなるが、私にとって一番大切な「食」の部分が満たされなかったのが、パリロスになることなく無事に帰国へ気持ちを切り替えられた要因かもしれない。