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あの日、中出ししていたら

たいそうエモい題が降りてきたので、文章を書いてしまいたいと思う。
#結婚 #授かり婚 #妊娠 #ピル #避妊 #女性のキャリア などを含めて話を展開したい。


芸能人の授かり婚

令和元年の夏。台風もいくつか日本に接近しそうな中、世間を賑わせているニュースがある。

「小泉進次郎・滝川クリステルの結婚」

政治家とキャスターという、インテリジェンスな二人の結婚に、心から素敵だという声が漏れる。(元々、進次郎推しでもあった。)

滝川クリステルは妊娠中とのこと。41歳で自然妊娠というのは、不妊などに悩む女性の希望にもなったはずだ。

だが、世間の意見は、祝福の言葉だけではない。当然だ。芸能人が結婚となれば、いろんな考えを持つ人がいる。

殊に、妊娠と入籍の順序が逆であるという意見が目立つ。快く思わないのは、「滝川クリステルもナマでしたのか」という発想。男性に多い。授かり婚をしたというだけで、コンドームをしていないという考えに及ぶこと、それをSNSで発信することには、やや理解し難さがある。

そうは言っても、若い頃の自分も、授かり婚をした同級生のことを快くは思わなかった。真面目にコンドームをして、セーフティーセックスをしている自分と比べてしまうからなのかもしれない。

歳を重ねるほどに、できるだけ批判的な意見は持たず、人の結婚には素直に祝福したいと思うようになった。さらには、授かり婚に関して、女の身体に産まれたからには、「羨ましい」という感情はなかなか拭えない。


あの日、中出ししていたら

「あの日、中出ししていたら……」と思うことがある。

ナマで挿入をし、中出しをしてもらえば、「妊娠」する可能性がある。そうなれば、今頃子どもを産んでいたかもしれないと。それは、現在の退屈な独りで生きる日々より、宝物を守るような実りある毎日の過ごし方が、できているのではないかと想像するからなのだ。

妊娠は事件だ。女の人生を極端に変えてしまう。未婚であれば、結婚の可能性が浮上する。既婚であっても、夫と二人でない新しい家族構成になってしまう、不可逆な「事件」なのだ。

「結婚したい」と、口癖のように言う女が、そこらじゅうにたくさんいる。彼女たちが何を願っているのか考えたことはあるだろうか。幸せになりたい、子どもがほしいという、そんな幼稚な表現よりもまず、「このつまらない日常を変えてくれ」と願うから、そんなことを口走っているのだ。ガラリと変えてみたいのだ、人生を。


わたしはピルを辞めることができない

妊娠して、人生変えてくれと思っても、そもそも、わたしはピルを飲んでいる。たとえ今日誰かに中出しをされたとしても、妊娠はしない。
ピルを飲んでいる理由は、圧倒的にひどい生理痛のせいだ。

学生の頃は、毎月の生理痛にたいへん悩まされた。数ヶ月に一度は、生理痛で気を失って倒れる。身体を動かせない日もある。これでは働けないので、ピルを十年ほど服用している。

だが、最近ピルの服用を一旦中止してみた経験がある。社会人になってから、ずっと飲み続けていたので、そろそろ実は生理痛もなく、大人の女性の身体としてちゃんと機能しているのではないかという希望を持って、試しに休薬してみた。

単純に、毎日薬を服用することも無くて済むなら有難い。毎日「ピル飲まなきゃ」と思う生活は、面倒である。

あとは、いずれやはり子どもを産むのならピルはやめなくてはいけないから、特定のパートナーができる前に、ちゃんとピル無しで自分が生きられるのかどうかも知りたかった。

服用を中止してから3ヶ月ほどは、生理痛も感じるが、重いというわけでもなく、問題もなく、過ごせた。いつ生理が来るかわからないわずらわしさはあったが、毎日服用しなくて済むというメリットは大きかった。

このまま辞められるかもしれない……という期待を持ったが、4ヶ月目、深夜、見事に生理痛に魘された。酷かった。

夜中に汗をかきつづけ、誰にも助けてもらえず、誰にも助けてもらいたくもなく、ひたすら痛みと数時間闘った。死をも覚悟するほどの痛みだ。
救急車を呼ぶべきか葛藤したが、しばらくして何とか眠りについた。

翌日痛みはなく、びっしょりとかいた汗を流すため、シャワーを浴びて出勤した。これが日中に起きていたら、間違いなく出勤できていないし、職場でこんな状態になったらと考えると、今でも怖い。

あぁ、わたしはピルなしでは生きられないのだと悔しかった。

子どもができたとなれば、産むまでの悪阻や、産む瞬間に陣痛と闘わなければならないが、わたしは子どもを産むまでに、こんなに酷い生理痛とも闘わないといけないのだ。それはとても怖いし、できるだけこの痛みとは遭遇せずに生きたい。

パートナーができるまで、ピルは飲み続けると決めた。パートナーができてから、わたしはピルを辞められるのかは、わからない。


一緒に住むことを考えた彼

ピルの服用を中止している間に、好きな人がいた。わたしは、そのとき別の男にフラれたばかりで、その好きな人も他の女性との恋愛を諦めたばかりであった。

お互い弱かったのはあるだろう。惹かれ合った。彼から好きと言ってくれた。いきなりではあったが、わたしと一緒に暮らしたいということを伝えてくれた。

少し、離れた場所にお互いが住んでいたため、今の仕事を辞めるかもしれないという選択肢が、わたしの人生の中で芽生え始めた瞬間でもあった。

一緒になることを真剣に考えるほど、とても彼のことが好きだった。好きと言ってくれ、わたしも彼を好きになった。充実した日々だった。

「一緒に住むかどうか」ということは、人生を変える大きなことなので、時間をかけて考えたかった。だが、時間を経るごとに、彼はわたしから興味を失っていった。徐々に毎日、連絡が冷たくなるのがわかっていた。

お別れするとき、最後に言われたのは、「前の好きな人が忘れられない」ということだった。わたしは忘れて、貴方を好きになったのに、だ。

いいのだ。わたしも辛かった。この人と歩む人生が正解ではなさそうだと、理解することにした。本当は、正解にしたかったけど、きちんと答え合わせをする自信が最後までなかった。考えた答えを、恥ずかしいから発表できずにいる子どものように、わたしは未熟だった。


コンドームを持っていなければ

彼の家に遊びに行ったとき、「エッチする?」と聞かれてセックスをした。リビングで、横になっているときに事が始まり、挿入する前に、「ゴム」と言われた。

「ほら、コンドーム出して」
「無いの?」
「あるけど二階」

脱がされている服を中途半端に、床を這いずり、自分の鞄までたどり着く。ポーチから取り出したコンドームを渡した。SKYNが苦手な二人の、一番合うグラマラスバタフライ。

この時のことを、ふと振り返る。コンドームが、「無い」と言ったら、そのまましていただろうか。セックスを中止しただろうか。二階まで取りに行っただろうか。

もしかしたら、ナマでしていたのではないかと、思う。一緒に住めるか聞いている相手に、子どもができたら、それは、きっと責任を取ってくれるだろう。

「一緒に住める?」
彼は、最後の確認のように、聞いてくる。うーん、としか返事ができなかった。わたしは、自らの選択で、人生をガラリと変えることはできないらしい。二人はそのまま眠りについた。これが二人の最後のセックスだった。


妊娠は、まだできそうにない

してくれたかはわからない。中出しを頼めばよかったと、「考えて」しまうのだ。どうしてわたしはあの時、コンドームを持ってしまっていたのか。持って来てしまったのか。

真面目な性格が、時々疎ましい。いつでも安全にセックスできるようにと持ち歩くゴム。それはつまり、いつまでも妊娠できないことでもある。

ピルを飲んでいない期間、わたしの人生の中で極めて短い時間だった。その貴重な時間に、何故人生をガラリと変えられなかったんだと、悔やんでいるということだ。

もちろん、この人とはうまくいったかはわからない。別れることになったんだから、結局うまくいってない可能性の方が高い。

あの日、中出ししていたら、今頃わたしは母親だったのかもしれない。誰でもいいわけじゃない。愛した人がいい。

授かり婚だと、職場に言い訳するのは面倒ではあるが、御局たちからの「そろそろ結婚は?」攻撃からもう逃れることができる。家族にも、子どもの顔を見せることができる。生徒にも、産まれてくる赤ちゃんの話ができる。彼氏を作らないので不審がってくる同僚たちからも、ようやく祝福されるだろう。子どもを産んだ同級生との会話にも、やっとついて行ける。今まで払い続けるしかなかった御祝儀も返ってくるのだ。

とにかく、解放される。そんなことを何度想像しただろう。独身女として生きるには、この世はつらすぎる。

もちろん中出ししても、妊娠しない可能性もある。中出ししたらしたで、「あー、何でしちゃったんだろ」と後悔したかもしれない。毎日、生理が来るか来るかとびくびくしながら、働いてるときもストレスだったかもしれない。中絶すべきかとの葛藤に苛まれていたかもしれない。

妊娠したけど結局、彼は結婚してもくれなかったということもあるかもしれない。子どもがいても、わたしは一人で生きていけそうな気もするけど、やはり未婚のうちに中出しすることは、不安要素がたくさんある。そんなに積極的に求めるものではないというのも、わかっている。

だが、純粋に、滝川クリステルは羨ましい。若いうちだと、そうは思わなかった。それなりに歳を重ねたから、強烈にそう思う。

たとえば、自分が子どもを産めない身体だったとして、相手の人生を子無しにしたくもない。養子制度や代理出産など、子どもを持つ方法はいくらでもあるが、妊娠できるかどうか、お互いに確かめてから、次のステップを考える方がいいのではないかとも、最近思う。

自分が高齢出産に該当するようになってくれば、きっとそうするしかないとさえ思う。2019年5月に、「自分の子がほしい」と言われ、年下の夫と離婚をした磯野貴理子のニュースは、どれほどの女性に衝撃を与えただろうか。

毎日ピルを飲み、叶いそうにない願いを浮かべながら、今日も女として生きるしかない。妊娠は、まだまだできそうにない。

彼もわたしと一緒にいない選択をしたが、彼と一緒にいないという選択をしたのは、自分だと思っている。別れ話に、ダダをこねなかったのも、彼と過ごす未来よりも、自分のしたいことをする人生を過ごそうと決めたからだ。男に縛られず、かっこよく生きたいと思った。

だから、わたしは今、幸せなはずなのである。もっと幸せな未来を自分で作り上げていけるはずなのである。事件など、なくても。

あの日、中出しをしていたら。
そんなことを考えても仕方ないけれど、そんなことを考えてしまうのだ。女を生きるということは。



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なつみさん
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