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【SS】パン屋さん

パン屋さんとデートしていると思ったのに、そいつはパンの商品開発に携わっている会社員だった。

プロフィールに、「パン屋」と書いてあったので、商店街のお店かどこかで捏ねている方の人だと思っていたが、製品化されたパンを流通させる方の人だった。

パン屋も居酒屋で酒を飲むのかと何だかその意外性にほっこりしていたのに残念だ。「先生も居酒屋で飲むんだね」と、相手がヘラヘラしているのでイラッとくる。

パン屋かパン屋でないかなんて、わたしの将来にも、これからするセックスにも何ら影響はしないが、パン屋としてわたしはマッチングしたし自分の職業は正直に伝えたのでウィンウィンじゃないなと思った。


東池袋の駅に向かいながら歩く。パン屋擬きは手を繋ごうとしてきたが拒否をしてみた。高くもないし低くもないし新しくもないしちょっと古いかなという建物ばかりが並んでいる。

少し暗がりの路地に近づき、人気が少ないのをいいことにパン屋は急にわたしの顎に手をかけた。そして唇を尖らせている。

同意は取ろうとはしているが、間抜けなその顔では燃えない。職業詐称男に対して、すんなりいきたくはない。

次はお好み焼きでも食べようと約束してパン屋と解散した。イタリアンを提案した時に、「毎日パン見てるからピザとか苦手で」と言った時はややパン屋らしかった。


後日塾講師とデートをして、とびきりつまらなかったもので、その夜パン屋を呼び出してみることにした。遅い時間ではあったが、パン屋は普通のサラリーマンなので朝が早いとも言い訳をせず駆けつけてきた。

パン屋がわたしの部屋に入って、たまたま読んでいた漫画を取り上げた。出産に関する漫画だったのだが、パン屋は「子ども産みたいの?」と聞いてきた。わたしはあなたの子どもを産みたいとは思わないし、セックスもナマでしたいと思わなかったので、「産みたくない」と答えた。パン屋は、「そっか、女の子なのに産みたくないんだね。変なの」と言った。

何様。

プロフィール詐称も性的同意の取り方の下手くそさもジェンダーの偏見も、何か一つでも気に食わないところがあると、いくら整った顔でもこんなにもセックスしたくなくなるものなのか。

コンドームしなくていいよと敢えて言い、怖がらせてから帰らせた。




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なつみさん
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