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<ショート>Nameless device

人差し指と中指の間に自然と収まるタバコは
夜の黒を背景にして 上へ上へと真っ白いケムリを上げた

がやがやとやかましいバーのテラスでは
喫煙もサルサダンスも口説き文句も
嫉妬も悦びも全てが同等に存在している

頭上の大きな金属の網状のデバイスは
そのケムリをどんどんと吸い上げて
ここにいる私たちには知り得ないどこか遠くへ運ぶ

「処方薬を公共の場へ持ち運ぶのは違法だよ」
「そんなのウソ。じゃあ病気持ちの人は外出できないって事じゃない」
私はタバコを口でくわえると
テーブルの上の抗不安剤を
タバコの不在で寂しくなった指の間へ挟んだ
「見せびらかさなくていい」
取り上げようとした彼の真面目くさった顔を見ると
この人は一体、何を信じて何を感じて
毎日生きているのだろうと思った
「見せびらかしたいと、思う?」

どうやってハメを外そうとか
ウソをついてもバレない方法とか
ちょっとした意地悪とか
考えたことはないのだろうか
「Lawyerでもあるまいし」
言いながら私は 薬を挟んだままの右手を
彼に取られないように右耳の隣まで引いた

彼が息を吐きがてら呆れたように私を見て
鼻で笑う
そして白い線が頭上へ一直線

私のケムリも彼のケムリもどんどんとあのおかしなデバイスに
吸い上げられる
いつもフード付きのトレーナー地の暗い色の服を着ている
寒くないのだろうか
白人の平熱は日本人のそれより高いから
雪の中半袖でも平気というのは本当だろうか
目の前に座る男をみていると
ケムリだけでなく
彼自体も吸い上げられればいいのにと思い始めた

何が起こったのか、分からないんです
気づけば、モクモクケムリと同じ様に、
彼の口や目も鼻まで、首まで一気に吸い上げられちゃって
そしたらみるみるうちに胸や腹も足まで
全身、この名前も分からないようなデバイスに
飲み込まれたようで
と頭上のデバイスを指さしながら
泣いて説明する自分を想像する

彼は私のそんな妄想を知らずに
言葉を出さずにウェイトレスに合図をした
彼のケムリはまだ
頭上のデバイスに吸い上げられていた


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