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Nobody's Island "Sy Gy Zy" TOUR 2024

 Nobody's Island ツアー「Nobody's Island "Sy Gy Zy" TOUR 2024」高崎公演を、SLOW TIME cafeで鑑賞した。

高崎は音楽の街
クラシックをはじめあらゆる音楽に敬意がある
向かう道中ビートルズと目が合う

 全国ツアーとはいえ新曲のリリースも、勿論アルバムリリースもあるわけではない。

 そもそも、前回ツアー時は音源すらなかった。既存曲のない音楽ユニット、オーディエンスは一桁、ハコの売り上げとしては正直心許ないはず。
 その状況ですぐさま次のライブを打診するオーナー、即座に再訪を決めるミュージシャン。これがしあわせな出逢いでなくて何と呼ぶのか。音楽の良さ、本質で繋がっている。
 そのあと企画ライブを経て、今回の公演。さらに、次はツーマンがもう決まっている。

 やわらかなソファに凭れて、極上の音を楽しむ。
 前回同様、各ソロ曲とジャズを織り交ぜた構成。歌の力強さや打鍵の強さに座りながら身を揺らしたと思えば、ジャズ・スタンダードSolitudeは身体を包み込むように響く。哀切の曲なのになぜか、まるでいつの日にか聴いた子守歌のよう。
 唯一の既リリース曲、大好きなgirls talk。この日初披露された新曲のkaleido、素晴らしかった。クラップのリズム、その混ざり合うさまが印象的。まだライブでしか聴けないescapeも。

 MCもいい。何がいいかを言うのは野暮だが、自分たちを大きく見せようともいいことを言おうともしない。等身大のトーク。
 亀の動画が面白かったこと。実家の亀は名前が田中くんと佐藤さんだが、自分はカメくんと呼んでいること。
 グッズの発注数が読めず殆ど売れたこと。追加発注をする話。受注にする?どうしようか。
 近くで買ったおやきの話。
 昼休みの教室のような、穏やかなとりとめのなさ。演奏のパワフルさと対をなすかのよう。

 cometの前に語られた言葉だけは、重みと湿度を含んでいた。 何人かのひとを亡くして綴られた歌詞。
 静謐な悲しみが胸に満ちる。透明な容器に冷えた水を張り、涙や寂寥や慟哭や哀悼をぽたりと垂らす。少しだけその表面を撫で、真白い紙で写し取るマーブリングのような曲。
 美しいけれど、どこまでも悲しい。
 悲しみに正解はなく、やがて薄れていくのに終わりもない。むしろ薄らいでいくものに新たな悲しみを覚えるのが、本当に大切だったということ。

 地元出身者ではない、元々縁もゆかりもない北海道の人たち。知り合いだから応援しようというわけではなく、素敵だからハコが招く。
 派手に告知CMが流れるわけではなく、都内有名ライブハウスでもない。それでも人が集まり、増える。おとぎ話のようにあたたかい現実がそこにある。
 そこで聴きたい理由がちゃんとある。しかもその理由がとびきり素敵だ。

 誰が為でもないそこはおそらく、誰にも開かれた楽園でもある。

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なつめ
なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」