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これもまた、青春病
「眠れぬ夜はケーキを焼いて」をご恵贈いただいたことがきっかけで、ふいに昔ご恵贈いただいた掲載誌を思い出した。
当時はまだ学生で、文章でお金をいただいたこともなかった。ささやかな同人文芸誌に寄稿したりする程度だったのだが、その場での先輩が雑誌社に入り、伝手で声がかかったのだ。
「新しい企画があるのだけれど、君を見込んで、その第一弾で文章を書いてもらえる?」
ノーギャラとはいえ、いきなり商業誌でそこそこの長さが載るらしい。
ちょっと腰が退けそうなものだが、まあ若かったのだろう。戸惑いながらも有り難くお請けしたのだった。
決められたお題が一応あり、その中から文学と芸術絡みのテーマなど選び、指定の文字数で書く。
知らないことには手を出さない。出すならば、入念な下調べが必要。だから、得意分野でかつ好きなものにフォーカスをあてたのだ。
雑誌なので、当然に編集者の校正や手直しが入るだろうと踏んでいた。ゲラ不要、大筋に変更がなければ好きにしてくださいと伝えてあったのだが、蓋をあけたら全文そのまま、まるまる載っていた。
しかも、1ページ全部使って。
えっ、いいの?
封筒を見ると「助かりました。ありがとうございました。」とのお手紙。プリペイドカードつき。
えっ、いいの?
驚いたのはそれだけではなかった。
「ああそうだ、最近の写真あったら頂戴よ。」
そう言われて同封した写真が、なんと掲載されていた。まさかのほぼノーメイク。
ノーメイク。
うわあ。こちらは流石に恥ずかしかった。ちょっと上向き、今にもふふんと鼻を鳴らしそうな小生意気な表情のわたしが、そこにいた。
雑誌に載る写真は、少ししっかりメイクしたほうが映えたりする。
日常はメイクアップなんてしようがしまいが構わないのだが、誌面のわたしはあまりに幼く野暮ったくて、部屋をゴロンゴロンと転げ回ってしまった。
思い出したのだから、これもきっかけか。
のろのろと本棚に向かい、いやこっちの本棚じゃないなと思い返しつつ、懐かしいそれを発見した。
発見したからには、読んだ。
ゆ、ゆるい。
文章は硬いのに、内容が今ひとつゆるい。むず痒い。トレーニング不足だ。言いたいことは伝わるし、まとまってはいるけれど、何とも踏み込みが足りない。
それでいて選んだ言葉のそこかしこに、何者かになりたい気持ちがじんわり滲んでいる。
そして写真は、果てしなく野暮ったく青かった。
またこれを読むならば、時期は十年後くらいにはなるだろう。
青春が懐かしくなったとき、ふいに思い出せばいい。それでいい。
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