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ride on Mix Wave
Deep Sea Diving Club(以下「DSDC」)のメジャー1stEP「Mix Wave」がリリースされて、今日で一週間が経った。
今回はこの作品について個人的な印象を書いていこうと思う。(文中敬称略)
bubbles
新曲。メンバーの中でG.Vo.谷颯太以外ではただひとり、単独名義の作詞があるBa.鳥飼悟志。日常の中にあるロマンティックの表現がすこぶるいい。甘すぎないギリギリのライン、しかし溢れるような情感。
明確なイメージの直喩を多用する谷とは対称的に、暗喩による世界観の構築に長けている。直喩にしても「帰りの酸素も用意していないような恋」という聴き手の想像をかきたてる文学センス、読書やライター経験の賜物だろうか。
この曲と次の「フーリッシュサマー」は彼の作品。「bubbles」では作詞作曲アレンジとプログラミングまでを担当している。曲冒頭のくぐもったようなフィルターが、まるで水中から聴いた音のよう。AメロからBメロへ、その先へと早い展開が続くメロディラインだが、いずれの旋律もポップで心地良い疾走感をおぼえる。またBメロ冒頭は音の動きが少なくリズムで刻み、あとに続く静をキラリと際立たせていてメリハリが美しい。キレのいいドラム、アウトロのギターが気持ちいい。
効果的なバックトラックのタメは、ライブで盛り上がること必至だろう。楽しみで仕方ない。
フーリッシュサマー
既発曲。2曲を足したほどに展開が多いのにも関わらず、冒頭からアウトロまであっという間に聴けてしまうDSDC夏のアンセム。
リズム使いがあまりに格好いい。作曲者がベーシストだからか、個人的にベースラインが非常に美味しい。「音飛びするレコードのように」「溶けたアイスみたいに」といった鮮やかな直喩と隠喩が散りばめられた歌詞、「僕らの夏よ(yo)それでも(mo)君のことを(wo)覚えていたいの(no)」とすべて子音の異なる母音oでさらりとたたみかける韻踏みからの高音フェイクもいい。もっと言うならば「僕(bo-ku)らの(no)」で踏んだあと「夏よ(yo)」で短く重ねて、「そ(so)れでも(mo)」「覚(o)えていたいの(no)」と交互にアタマにもoがくる。この「君のことを/覚えていたいの」部分、oとoがつながるリズムがとても楽しい。
織り込まれたラテンのテイスト、ギターソロについ踊りたくなる。アレンジに岩田雅之が参加しており、コーラスアレンジが大変素晴らしいのも聴きどころ。
Left Alone feat.土岐麻子
既発曲。DSDCとシティポップクイーンの幸せな邂逅。世代を超えたシティポップの共演は、彼らの名前をより広く知らしめることとなった。
作曲者はGt.大井隆寛。このバンドでも作家然としたポップスを書くのが彼だろう。それは意識的であることがリリースタイミングでも言及されたが、意識的にして必ずそうなるとは限らないのがポップ。ポップセンスの非常に高い、職人的な人だと思う。既リリースの「CITY FLIGHT」「SARABA」にも見られる、耳に飛び込んでくる力の大きな旋律。楽曲ごとにカラーは違えど人懐っこさのようなものを感じる。
谷による作詞は強くイメージを喚起する。ifの夏、いつかあったかもしれない夏を呼び覚ますような魅力。また本作品は土岐麻子が作詞作曲ともに関わっているのも、またコラボレーションならではの楽しみがある。
リユニオン
新曲。引き続き大井作曲。クラップの楽しい、キラキラと開放感にあふれたポップス。しかし後半の展開にみられるように随所にひとひねりが効いている。
サカナクションの山口一郎は優れた楽曲に必要なものとして「心地良い違和感」を度々挙げているが、この楽曲には確実にそれがあると感じた。
作詞は大井の詞を元に谷がリライト。この歌詞があまりにも素晴らしい。なんでもすぐに「分かり合おう」「みんな一緒」「大丈夫」となりがちなものを、互いの違いを認めたうえで歌(音楽)によって繋がるという内容。わからないことはわからないままに保留しつつしなやかに在る様は、言うなれば聴くネガティブ・ケイパビリティのよう。
バンドのぶつかり合いを元に生まれた楽曲に漂う美しい普遍性。それは例えば普段ならば出会わない・互いを知るすべすらない人々が集い、音楽によって心を通い合わせるライブの魅力さえ思わせる。
Miragesong
既発曲。EPの中でもメジャー然としたメロディは、実はこのMiragesongではないかと思う。どこか懐かしさとあたたかさを感じるこの曲の作曲者は、Dr.出原昌平。DSDCの音楽的支柱としての役割を担い続けてきたのが、スタジオミュージシャンやPA、音楽講師の経験を持つ彼だ。
切ないメロディやアレンジは「いつか月9で流れていたでしょう?」と言われたら納得してしまいそうなくらいにドラマチック。実際ドラマや映画に使われたらしっくりくるだろう。長く愛されるポップソングの特徴のひとつに、「何かに似ているわけではないのに、なぜかはじめて聴いた気がしない」という感覚があると思う。この曲もそうだった。1コーラス目の王道から、2コーラス目のバリエーションで高鳴りを伴い最新ポップスへ。鍵盤とボーカルが際立つ後半パートからの盛り上がりは胸に迫る。
ひとつの恋愛ストーリーとして、まるで短編の読後感のような印象を与える歌詞は谷によるもの。ワンカットムービーのMVもシネマティックで秀逸。
goodenough.
新曲。「どこか別の世界に行けたなら」という歌詞があるが、その一節のように新しいフィールドに踏み出したDSDCの冒険的な楽曲だと思う。
環境音と限られた音数によるトラック、歌がしっかり押し出されたアレンジ。鍵盤が生み出す絶妙のフィーリング。そして、谷・出原による歌詞の強さ。
これまでも「作業服のオヤジたちが青い点滅を走る(T.G.I.F.)」など、シティポップというよりむしろブルースやロックまたはヒップホップを感じるようなリリックが時折見られたDSDC。今作ではさらに「非常識な人間でなくちゃ 死の瞬間まで」「"心臓"に杭を打て」といった強い表現が並ぶ。
ビビッドな歌詞の中に含まれる出原のメッセージ性がポップネスとしっかり融和していることから、表現における自由度がさらに高まるエポック的な曲ではないかとも考えている。
ゴースト
新曲。バンド初期よりソングライティングを担ってきた谷の作詞作曲。本EPのリード曲となっている。
バンドというよりトラックメイク的なアレンジ。音数が少ないからこそ、ボーカリゼーションの魅力が際立つ。こうしたアレンジは近年注目されているが、そもそも上手くないと成立しないため特にボーカリストとしての力量が問われるもの。持ち球・引き出しの多い谷を最大限に活かす出原の手腕がすごい。ソウルフルな歌唱が素晴らしい。
歌詞の韻、特にサビが心地良い。恋愛とも離別とも、またそうではないともとれる歌詞は、たくさんの「誰かが誰かを思う気持ち」「取り残された感情」にそっとフィットするのではないだろうか。
全員ソングライター、四者四様の個性がはじけるEP。そういえば、「はじける」も英語では「POP」だ。それぞれのポップネスが混ざり合い、トータルでしっかりとDSDCのカラーになる。
波に乗ってどこまでも届いてほしい。
仕事の文章でもないのに敬称略はむずむずする。偉そうな感じになってないといいな。難しい言葉は使いたくないので、つらつらこんな感じで。ひとことで言うと、めっちゃ良きかな。
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