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ノーグッド・ノーサンキュー
患者家族でありながらがんになったのだが、がんに纏わる話をすると、
「わかります、周りの理解って得られませんよね!」
「同じ病気の人だけが味方だから」
と言われてしまうことが稀にある。
ええっ、何言ってるの?
・・・・・・という感想しか出て来ないことが多い。流石に声に出しては言わないけれど。
あなたは、わたしの周りについて「何を」知っているの?
「わたしの周り」を雑に括りましたね?
何を「わかった」の?
「同じ病気」にも、色々あるのに?
そこにあるのは、その病気だけ?
わたし、こういうわかった風の安っぽさのほうが余程嫌。
その人は周囲をそういう目でしか見られなくなるほどお辛いのだろうとは思う。色々な事情や状況もあるだろう。それをディスカウントはしない。
でもそれはそれ。他人と自分を雑に括るのはとても失礼なことだから。
わたしとわたしの周りには、本人たちにしかわからない、積み重ねてきた時間がある。そこを蔑ろにされたくはない。
そもそも、時間を共有してきた本人たちであっても、感じ方はそれぞれだ。
人間なんて、互いを100パーセント分かり合えるはずがない。そこをすっ飛ばすと、人間関係はだいたい大事故になる。
他人と自分、他人の環境と自分の環境、これまでの歴史、みんな違う。
だからこそ世の中は魅力的で面白い。
わたしの辛さや悲しみを、他人にまるごとわかってもらおうなんて虫のいいことは思わない。他人に背負わせるのは勘弁。サドじゃないし。
わたしも、他人の病気や障がいの辛さをまるごとわかるわけじゃない。たとえ同じ病名がついていたとしても。
ひっそりと痛みを抱えている人もいる。
1億人いたら1億人分を、ひとりひとりが知ってみんな背負うの?
いやいや、それは無理だよ。出来ないことだから、他者にも求めない。
「あっそれわかる!」で本当にわかる人、そうは言うけどわかっていない人、何も言わなくても察してくれる人、明後日の方向から何かを考えている人、やさしいけれどなぜかズレてしまう人──その他諸々の集合体がコミュニティーだ。
わたしはそれを大切にしたい。
わかってほしいならば、先にわかろうとしたい。
すべては求めない。
その上で、大事な部分をわかりあえるためのコミュニケーションを、諦めたくない。下手だし、相当苦手だけれど。
そのために何が出来るのかを、自分で探りたい。
変な話だが、わたしはがんサバイバーだけれど、乳がんのうちでもDCISだからまず命に影響しない。影響するのは見た目とQOLだけ。インプラントには、確率は低いけれどリスクがある。
むしろ他の持病のほうが、今はリスクが高くはないものの、色々とまずい。年々時限爆弾のリスクが上がっていくらしい。
そんなこと、他人からは知ったこっちゃない。だからがんが可哀想、という話ばかりになる。
それで誰が困るのかというと、いや困るとするならば、ぶっちゃけ自分のみ。今のところ、別に困ってはいない。
がんだけが特別とは思わない。
難病を患う人、障がいを持った人が周りにいるからこそ、がんに罹った人とそれ以外で断絶したくない。
生きづらさや困難なんて、世の中にたくさんある。「だから辛くない」ではなく、「人それぞれの辛さがある」ということ。「あなたにはわからない」ならば、同じように「わたしにもわからない」のだ。
がんに罹ってはいなくても、がんで大切な人を失って苦しんでいる人だっている。
病気に人間関係まで乗っ取られたくなんてない。
周りを十把一絡げにして世界と闘う勇者になるより、機会があるならば「定期検診って大事だよ」「こういうところ、実はドラマとは違うんだよね」と穏やかに話したい。他の人の他の生きづらさも、許されるならば知っておきたい。
勿論、聞きたくない人と無理矢理わかりあおうとも思わない。
ただ、話してわかりあえた人ならば、もしお互いが不調の時にちょっと楽になれるのではないか。
たとえ今は届かなくてもいい。時間をかけて響くものもあるから。
誰か、または纏まりを一方的に否定的な目線で評してしまうと、その言葉が見えないサングラスになって、受け取った人に呪いをかけてしまう。
嫌なところ、ダメなところばかりが目に付くようになってしまう。
病気になってしまった時のコツがある。
頼れる先、味方を増やすこと。
味方だって、いつでも健康というわけじゃない。周りじゅうが大きなものを抱えている中でがんになったから、しみじみそう思う。
でも、それでも思いがすれ違うことはある。いちいち反駁や喧嘩をしていたら、きりがないくらいに。
断絶が頭を過る時だってある。でもね。
それってもったいないじゃない。どうしてもダメならそっと離れる、その選択肢はいつだってあるのだから。
そんなふうに、思うんだ。
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