映画「ブエノスアイレス」
映画は、歩みを止めるための手段。
あまりにも時が移ろうのが早すぎて、色んな物に振り回されそうになる。
迷ったら戻ってこれるような、そんな船渠をぼくは映画の世界に求めている。
さて、ゲイ映画。
最近だとアカデミー賞の「ムーンライト」が記憶に新しい。
「ブエノスアイレス」はそのムーンライトが参考にしたと言われる映画です。
とはいえ「ブエノスアイレス」自体有名作品なのですが。
90年代に世界的に評価されたウォン・カーウァイ監督の代表作の一つです。
内容はあってないようなもの。
終始ゲイカップルが痴話喧嘩しているだけの映画です。
メイキングが発売されているそうなのですが、これによると撮影中にストーリーがコロコロ変わっていったようです。
とはいえ、カーウァイ監督は芸術性や映像の美しさにこそ魅力があります。
今作品では舞台がアルゼンチンということで、ピアソラのタンゴも魅力の一つです。
ストーリーをしっかり追わなくても、2時間見させるだけの美しさがあります。
好きーな映画です。
ですが、僕がこの作品を観て思った最大の疑問。
「何故ゲイ映画?」
僕がカーウァイ映画を観るのは「恋する惑星」「花様年華」に続いて3作目です。
男女の深い恋愛映画を撮り続けてきた監督が、なぜゲイ映画を。
内容はゲイでなければ成立しないものではないですし、「ムーンライト」に見られるような社会的なメッセージも感じません。
加えてカーウァイ監督がゲイ映画を撮ったのは「ブエノスアイレス」が最初で最後であり、個人的な思い入れがあるかどうかも分かりません。
スパイスとしてのゲイ設定、というならそもそも香港から見て地球の裏側にあるアルゼンチンを舞台にしている時点でこの映画にはスパイスがあるはずです。
それでもこの映画がゲイ映画でなければならなかった理由。
監督賞をカーウァイに与えたカンヌの選考員にはきっと伝わっているのでしょう。
ですがその答えを、僕はまだ出せていません。
もし同性愛のカルチャーに興味のある人は、この作品を見てその答えを探してみるのはいかがでしょうか。
そうでなくても、カーウァイ映画の映像の美しさは、色んな人に一度味わってみてほしいな、と思ったりします。