見出し画像

旅の続きを

優游涵泳(ゆうゆうかんえい):
ゆったりとした心のままに、じっくりと学問や芸術を深く味わうこと。


フレデリックの楽曲を聴いて、ライブを観て抱いた感情を言葉で説明するのに、この4文字が一番しっくりくる。
アルバムタイトルが発表された時もそう感じたし、CDを手に取って全曲聴いた今、さらに強く感じている。

心の奥深くで自由に音楽に没頭できる、23分34秒の旅へ。


M1.MYSTERY JOURNEY

配信リリース当時の、Zepp編の旅に出るワクワク感から、今はツアーの楽しかった思い出を振り返ることができる曲という印象。
この先もまた次のライブや次の旅に行けば、あるいは何か新しいことが始まったら、そこへ飛び込んでいくための追い風になってくれるのだろう。


最初に聴いたときからずっと、ひとつひとつの言葉と握手したくなるくらい共感できる歌詞。


その上で、

〈退屈がくたばる歌をあなたに届けるまで〉

のワンフレーズにこの3年間の、もしかしたら10年以上の、フレデリックが音楽で伝えたいことのすべてが詰まっている気がして。
いくつものキラーフレーズを持つフレデリックの楽曲の中でも、一際強い光を放つ言葉。



M2.スパークルダンサー

CMでは今年に入ってすぐ、フルサイズで初めて聴いたのは1月のZepp Sapporo公演。ワンマンでは初披露だったこの日に初披露とは思えないくらいの盛り上がりが気持ちよかった。
スパークルダンサーが好きすぎてタイアップ先のボートレースにも興味を持ち始めた今日この頃🚤


〈舞い踊っていこうぜ 心はケセラセラと この気持ち化かしていけ〉
の〈化かして〉がすごく好き。
ケセラセラ(=なるようになる)と生きていけたらいいけど現実なかなかそうはいかない、でも心に言い聞かせていたらいずれはきっとそうなっていくよ。
そんなメッセージに感じて、〈化かして〉の優しさに泣きそうになる。

そしてなにより間奏が最高。2023年間奏オブザイヤー受賞🏆
頭から思考を追い出して、意識をすべて音に向けさせる密閉感のあるサウンドが心地良い。



M3.虜

シナモンみたいな曲。
甘くてスパイシーで、子供の頃は苦手でも大人になってから美味しさに気づくように、癖はあるけど一度好きになったら替えがきかない。

ミュージックジャーニー・ライブハウス編で披露されていた仮タイトル「はなれられないの」もファンキーで楽しかったけど、虜はただ楽しいだけじゃなくて毒も混じってさらに美味しい。

〈もう考えなくていい〉のリフレインでノイズに溢れた現実から抜け出してしまうし、2番サビ冒頭の〈はなれられないの〉と同じリズムで刻まれるバスドラは心臓の鼓動のようで、音楽が体内に入り込んでくる。ライブ会場で音楽を浴びる感覚に似ている。

スパークルダンサーが間奏オブザイヤーなら虜はアウトロオブザイヤー。ライブでさらにカオスに化けていくのが怖くて楽しみ。



M4.midnight creative drive

新しくて懐かしい不思議な曲。
子供の頃家族でドライブに行った帰りの街の灯り、自分で車を持ってから初めて遠くへ旅した日、コロナ禍で苦しくてどうしようもなくなって仕事終わりそのまま夜の海を見に行った日。
移動も含めて旅が好きというのもあって乗り物全般好きだけど、思い出として一番強く残っているのは車のような気がする。

〈いちびってしまった〉という歌詞に「???」となったので調べてみたら、関西弁で「調子に乗って悪ふざけをする」という意味らしい。リーダーシップのニュアンスもあるようで、仲間とはしゃいで馬鹿やってた記憶、みたいなものも楽曲に落とし込まれているのかもしれない。

Aメロの歌のフレーズの間や間奏で何度も鳴っているメロディがミュージックジャーニーのOPSEを思い出させ、カーステレオのボリュームを変えていくような間奏に心を掴まれる。
切なくて優しい夜を彩る曲。



M5.FEB

2月は厳しい季節だ。
少し暖かくなったかと思えばマイナス2桁の日も積雪が一気に増える日も訪れ、冬の終わりはまだずっと先だと思い知らされる。
心が追いやられていくと、いつも私を助けてくれる音楽ですら受け付けられなくなる瞬間もあったりする。

優游涵泳回遊録のCDを受け取って、これを書き始めた2月23日はフレデリックの武道館ライブからちょうど2年だ。緊急事態宣言下、迷いに迷ってなんとか行った武道館のラストに〈思い出にされるくらいなら 二度とあなたに歌わないよ〉と始まる名悪役をぶつけられた経験は、その後の自分の生き方を変える大きな転機となった。

そんな2月。愛おしさも悲しみも感謝も衝撃も覚悟も知った2月。2月の風は強くて冷たくて痛いけど、〈涙を照らす歌〉はある。
今すぐじゃなくていい、あなたにも私にも、心を照らす風が吹きますように。



M6.銀河の果てに連れ去って!

〈つまりそういう事ですわ〉が康司さんらしい。
3分以上ある気がするのに本当にたった3分しかない。
疾走感があって〈銀河〉という言葉が出てくるという点で、蜃気楼とセットで聴きたくなる。


全体的な雰囲気は全く違うけど、ミュージックジャーニーツアーに合わせて公開されたプレイリストに入っているGland Illusionをこの曲から連想した。宇宙っぽい感じからなのかな。

ミュージックジャーニーの思い出の一つにこのプレイリストがある。だからこそ、楽しかった旅が形を変えながらこれからも続いていくような期待が高まっていく。



M7.優游涵泳回遊録

旅の終わりを示唆しながらライブの始まりを感じさせる曲。ライブのOPで聴きたい。

冒頭の〈優游涵泳回遊録〉と呼応するように鳴るクラップの音が適度にばらけていて集団の雰囲気がある。もしかしたらツアー中の観客のクラップの音なのかもしれない。

たった1分ちょっとの、でもこの曲がなければ「優游涵泳回遊録」という作品は完成しないと言わんばかりの美しい音楽。

どの曲にもきっとまだ気づいていない仕掛けがたくさんあるんだろうな。いつかそれに気づく瞬間を楽しみに待っていたい。


この作品を健司さんは「メジャー1作目の『oddloop』とインディーズ時代のミニアルバム『うちゅうにむちゅう』の両方を聴いたときの感覚になると思う」と話していた。実際聴いてみたらまさしくその通りで、というよりもそれ以上で、過去の2作品以上に魅力の詰まった楽曲ばかりだ。

これまでのフレデリックの楽曲で経験してきたように、いつかこの作品も感じ方が変わるときが来るだろう。それは明日かもしれないし1年後かもしれないし10年後かもしれない。
自分の経験によって、今の状況によって、聴く場所や環境によって、楽曲から見える景色はガラリと変わる。
そうなったときにこのnoteを見返すのが楽しみ。ちょっとしたタイムカプセルみたいだ。



今しかない感情を大事に、人生を回遊していようと思う。
またひとつ、旅を共にする音楽と出逢えた。