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日の落ちる瞬間が一番眩しい

北海道の夏フェス「JOIN ALIVE」などを手掛けるイベントプロモーター・Mount Aliveのスタッフコラム(※)で「落日飛車(Sunset Rollercoaster)」というバンドが紹介されていた。

まだ知らない音楽を新たに聴き始めるきっかけとなるのは、フェスやイベントで直接ライブを観て興味を持つか自分の好みをよく知っている友人から薦められるか、ほとんどがその2択だった。

だから、このコラムを読んだだけでAppleMusicを開いている自分が意外だった。


トップソングを上から順番に聞き流すうちに、自分の波長と合う気がしてきた。
台湾のバンドだが多くの曲が英語詞で馴染みやすい。シンセサイザーの電子音とサックスの生音が溶け合う感じや聴いていて気持ちの良い「キメ」、コラムにも書かれていた心地良いヴォーカルに惹かれた。もっと聴いていたいと思った。

アートワークも私の好みど真ん中だった。
もともとサルバドール・ダリやルネ・マグリットなどのシュルレアリスムの美術作品が好きで、Impossible Isleのジャケットなんかは特にそれに近いものを感じる。音楽の心地良さとアートワークの不気味さのギャップが面白い。



それから、アルバムやYouTubeのライブ音源を聴きながら眠るのが日課になった。
普段から寝付きが悪く不眠がちだったのが、落日飛車を流しているといつもより早く眠りにつけるようになった。



もちろんライブを観たいと思った。


初めて観ることができたのは、今年(2023年)のSUMMER SONIC東京公演。

2022年の秋頃に落日飛車を知ってから、ライブを観るチャンスは2回逃していた。
1回目は今年1月の来日単独公演。ライブがあることを知ったときにはすでにチケットは売り切れ、しかも平日ど真ん中の東京に北海道から行くのはかなり難しかった。
2回目は5月の福岡のCIRCLE'23。繁忙期だけどどうにか行けないかと飛行機もかなり調べたけど、どう頑張っても有給を取らないと帰れないスケジュールで諦めざるを得なかった。
SNSでライブの映像が流れてくるたびに、いつか絶対に行くんだという気持ちだけが高まっていった。

3度目の正直。SUMMER SONICの出演が決まった。少しだけ迷ったけど、落日飛車を観るためにチケットを取った。
いつも行っている道内のフェスとは何もかもが桁違いな国内最大級のフェスに1人で行くのは少し不安もあったが、それ以上に当日は本当に嬉しかった。

PACIFIC STAGEで落日飛車の前のアーティストの出番が終わり、するすると前方に向かうと上手側の2列目に来てしまった。初なのにこんなに近くていいんだろうか。
サウンドチェックでMy Jinjiのメロディが少し流れただけで泣きそうになった。


落日飛車はライブバンドであることは薄々感じていたけれど、まさかここまでとは思わなかった。
私がライブを観る上で大事にしている「音楽だけに没頭できる感覚」が40分間ずっと続いていた。

事前にしっかり予習していったわけでもないのに歌い出しやイントロで曲がすぐに分かり、落日飛車の音楽が身体に馴染んでいる証拠のように感じて嬉しかった。

My Jinjiの終盤のリフレインは、ワンフレーズごとに表情が変わり、熱を増してジリジリと最高潮へ向かっていく。ずっと終わらないで、あと5時間は聴いていたかった。ラストでメンバーが客席に背を向け、全員で向かい合って曲を締める姿に、自分が各地でライブに通い続ける一番の理由を見つけたような気がした。
ああ、すごいものを観てしまった。

曲中にバックモニターに映し出されるサイケデリックな映像や、最後のCandlelightで浮かび上がる「落日飛車」のロゴも楽曲の世界観に合っていて印象的だった。

サマソニでライブを観るまではメンバーの人となりやライブでの様子を全く知らなかったのだが、上手側、私の真正面にいたサックスの黃浩庭(HaotingHuang)さんに一目惚れしてしまった。

担当楽器はサックスとなっているが、サックス(ソプラノ/アルト)、シンセ、ギター、コーラスをこなしていた。ギリギリまでシンセを弾いてすぐにサックスへ、なんて器用なこともしていてついつい目がいってしまう。

演奏していないときは音楽に身を委ねながら観客とゆっくり目を合わせていく。演者としてステージにいながらも自分たちと同じ観客のように音楽を楽しんでいて、なんだか不思議な感じがした。
演奏する姿はまるで、音楽の中で生きているようだった。表情や仕草から落日飛車の音楽を深く愛しているのが伝わってきたし、音を奏でる楽しさが自然と溢れているのがすごく素敵だった。私の推しはみんな楽しそうに演奏する。好きにならないわけがなかった。
ライブが終わる頃にはすっかり浩庭さんの虜になってしまっていた。


サマソニが終わってすぐに自分の時間がゆっくり取れる期間があったので、ほとんど毎日落日飛車のライブ映像を観ていた。中には今年にかけて行われたワールドツアーの映像もあり、海外ライブの撮影OKの風潮を初めてありがたいと思った。


台湾への興味も一気に湧いてきた。我ながらチョロすぎるけど、初めて日本を飛び出して夢中になれるものに出会ったんだから仕方ない。


次の来日公演があれば万障繰り合わせて行く気でいるし、いつか北海道のフェスにも出演してほしい。遊園地が会場のJOIN ALIVEで、夕暮れ時に本物の飛車(Rollercoaster)をバックに演奏する姿は観たいに決まってる。

そして、いつか台湾の現地でライブを観たい。海外はまだ行ったことがないけど、私は私の「好き」が持つ力を知っている。きっといつか行くのだと思う。


最近、地元のTSUTAYAが閉店した。初めてCDを買ったのも、置いてあるアルバムを片っ端からレンタルするほど好きになったアーティストに出会ったのも、予約したCDをフラゲするために激チャしたのも、この場所だった。

ひとつの時代が終わったような気がした。


私の音楽人生を振り返ってみると、レンタルショップでしか出会えなかった音楽もあればサブスクでしか出会えなかった音楽もある。落日飛車は確実に後者だけれど、私は別に時代の流れを否定も肯定もするつもりはない。この時代に生きているからこそ、出会えたものと出会えなかったものがあり、それが今の自分を形作っている。ただそれだけだ。

それでも、音楽というものを本気で好きになって15年以上が経ち、ようやく気づいたのは「生涯共にしたいと思えるような音楽は、向こうからやってきてくれる」ということ。そうでなければ、こんなに出会えているはずがない。

人生を変える音楽との出会いは、いつだって想定外だ。それでいて、必然でもあるようだ。


(※)元記事(有料会員向けコンテンツ)
落日飛車と出会うきっかけをくれたMount Aliveのフジワラさんありがとうございます!!