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中日友好写真館
中国人は写真を撮る(撮られる)のがほんとうに好きです。私たちの感覚では、知らない人にレンズを向けるのは失礼だという思いがあるのですが、もうこっちではカメラをぶら下げている私に「撮ってくれ」「撮ってくれ」と声がかかります。そこでいっそのことと思って、樊家山小学校の99人の児童たちのクラス写真を撮り、昨日臨県まで行って焼いてきました。クラス写真など撮ったことがないので、みんな喜んでくれたのはいうまでもありません。
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そのときに、村の老人3人の写真も焼いて渡したのですが、それがこっちがびっくりしてしまうほど喜んでくれて、張老師に聞いてみると、「そりゃあここでは、老人は写真なんて1枚も持ってない人がほとんどだし、葬式に飾る写真もないんだから、大喜びさ」というのです。
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で、私はそんなささやかなことでいいのなら、この村の老人たちの“葬儀用写真”を撮ってあげようという気になり、さっそく大家のおばあちゃんを呼んで撮ってあげて(もちろん葬儀用だなんていいませんが)、彼女に「60歳以上の人なら誰でもタダで撮ってあげますよ」といったのですが、それから10分もしないうちに5人がやって来ました。
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とにかく写真など撮ったことがない人が大半ですから、高齢であればあるほどカメラの前で緊張のしっぱなしで、「笑ってください」といっても言葉は通じないし、どうも“いい写真”が撮れそうにないのですが、まぁ“葬儀用”ならあんまりくだけててもおかしいし、こんなものかなぁと思いながらせっせとシャッターを押しています。 (2006-03-29)
もっと大きいのがほしい
中日友好写真館は大繁盛です。私は昼間は外をブラブラしてるし、朝は遅いので、学校で夕食を済ませて、5時半が開店時間ですが、ヤオトンに戻ると、扉の前でだいたい2、3人は待っています。
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キリがなくても困るので、いちおう60歳以上、ひとり1枚ということで、9×12.5センチのをあげているのですが、これだと焼き付け料が1枚1元です。ところが何でも大きいもの好きの中国人ですから、「もっと大きいのがほしい」というじいちゃんが現れたのです。で私は、「大きいのはお金が1枚3元かかるから、差額はじいちゃん自分で払ってくれる?」といったのですが、彼はしばらく思案した末に、「お金は払うから、やっぱり大きくしてほしい」というのです。もちろんOKですが、すると傍にいた“お客さん”たちが、われもわれもと、「自分のは大きくしてほしい」といい出したのです。
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で私は次に、モノクロとカラーとどちらがいいか?というのを、パソコンの画面に具体的に表示して聞いてみました。“葬儀用”なんだから、やっぱりモノクロが定番だろうと思っていたからです。
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ところがこれまでのところ、モノクロを指定する人はひとりもいなくて、全員が「彩色」つまりカラー写真がいいというのです。
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ここに来てようやくわかったのですが、彼らは“葬儀用”写真を用意したいなどとは誰も思っていないのです。考えてみれば当たり前のことで、何々用ということは、すでに何回も写真を撮ったことがある人がいうことで、写真などこれまで撮ったことがあるかないかというような人たちがいうことではありません。私たちには“掃いて捨てる”ほどある自分のスナップ写真が、彼らにとってはほんとうに貴重な、たった1枚の記念写真にもなるのです。
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私が撮ったつたないポートレートが、この村ではきっと長い間、色あせるまでいつまでも大切にヤオトンの壁に飾られるだろうと思うと、なんだか“写真家”冥利に尽きるというか、ちょっと胸にジンと来て、差額なんて細かいことをいうのはよそうと思ったりもするのですが、イヤイヤ、じいちゃんばあちゃんの要求にもけっこうキリがないから、この際、2元にこだわらなければ、と心を引き締めているところです。 (2006-03-30)
財政破綻?
おかげさまで、中日友好写真館は大繁盛で、まぁ基本的には嬉しい限りです。日中は日差しがきついので、夕方5時から6時までを撮影時間としているのですが、中には朝の6時と勘違いして、こっちが白川夜船の時間帯にゴンゴンッ!とドアを叩く人もいます。要求も多様になってきました。
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今後の財政問題もあるので、グオ老師に、『60歳以上の老人は、ひとり7寸1枚を無料、その他の人は差額を徴収します』という看板を作ってもらいました。ところがこれがなかなか難しいのです。聞き取りをさせてもらった人とか、あれこれ世話になった人、自分が撮りたくて撮った人からはお金は取れません。それから子供からはやっぱり取れません。で、誰かからだけもらうというのは、全員が親戚みたいな村ではとても難しいのです。
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一番最初のときに撮ってタダであげたあるおじいちゃんが、しばらくしてまたやってきました。どうやらカメラレンズの前に立つ快感を覚えたようです。ところが写真を渡してもお金をくれません。
「じいちゃん、これは3元ちょうだい」
「ない」
「2枚目からはお金もらうっていったでしょ」
「60歳以上が1枚タダだったら、オレは76歳だから2枚タダでもいいだろう?」
「えっ?それはダメだよ」
「その代わり歌を歌ってやるよ」
「♪○‥‥△♪~×○□‥‥△~‥‥♪ゼーゼー△♪~×○□‥‥△ゼーゼー‥‥♪♪~×」
で、この歌がとってもじょうずで、これなら3元は安いもんだと思ったのですが、途中でゼーゼー何度も息が切れて、聞いてみると心臓が悪いんだそうです。
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「じいちゃん、もういいからいいから‥‥」
と、まぁ毎日こんな感じで、実際に払ってくれた人はほんの2、3人です。その上、噂を聞きつけた隣村から、ぜひウチにも来てほしいというお声がかかるようになりました。高原のてっぺんから辺りを見廻すと、あぁあんなところにも人は住んでいるのかと、ジーンと胸に迫るものがありますが、噂が噂を呼ぶようになったら、いずれ財政破綻がやってくるのも遠い日ではないと今からとても心配です。 (2006-05-08)