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コオロギの一生

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コンポントムでコオロギの養殖をしているDenさんから卵をもらったのは、8月21日でした。写真左側の黒っぽい団子状のものが産卵床で、素材を聞き忘れましたが、オガクズのような軽い塊で、その中に卵が産み付けてありました。

一般的に、産卵して2週間ほどで孵化するみたいですが、もらった時にはすでに時期が来ていて、翌々日には孵化が始まりました。この写真は24日に撮ったもので、ポツポツとした黒い点がコオロギの赤ちゃんです。夜行性なので、昼間は何かの陰に隠れていて、光線があるところにはあまり出てきません。最終的には鶏卵大1個分くらいの産卵床から、100匹ほどの赤ちゃんが産まれました。

子供のころからアウトドア派だった私は、“お人形さん遊び”の記憶はまったくなく、当時は名古屋のど真ん中でもかろうじて残っていた雑木林とか、神社の森などに行って、“虫取り”という遊びをよくしました。トンボ、バッタ、セミ、チョウ、カブト、クワガタ、ホタルなどなど、今から思えば飼育法なども知らずじきに死なせてしまったのですが、当時はそんなことを気にかける人もおらず、つまり日常空間にそれくらいワンサカいました。

で、それ以来の昆虫飼育なのですが、実は、コオロギの飼育法というのはYouTubeに山のようにあったのです。なぜかというと、近年はペットとして爬虫類を飼う人も多いそうで、生餌しか食べない爬虫類のために、専門で栽培している業者もいるのだとか。でも、エサ代がけっこう高くつくので、自分で飼育しましょうということで、YouTubeにノウハウをアップしている人が何人もいるのです。

で、それを見ながらいろいろ研究しました。後になって、なんと、私が以前働いていた高校の卒業生で、長野のコオロギ養殖場で最近まで働いていたという青年(そもそもそういう人が日本では希少価値!)と連絡が取れ、以降はもっぱら彼、Ryo君にLineであれこれ聞きながら育てています。

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9月13日撮影。床材は籾殻、黒いのは木炭。

コオロギはけっこうデリケートな昆虫で、湿度を必要とするくせに、水滴に溺れるのです。幼齢期にはほんの1滴で溺死します。私も最初の頃、何匹か死なせてしまいました。身体に似合わずかなり大量の糞をするのですが、その糞や残った餌が腐敗してアンモニア中毒で死ぬこともあります。過湿でも乾燥し過ぎても死ぬし、風通しが悪くてもダメです。

エサは、養鶏用のエサに、キャットフードと卵の殻と乾燥モリンガを少し入れてすりつぶして与え、それ以外にいろんな野菜をつぎつぎ放り込んでみました。なんでも食べるようですが、一番よく食べたのは、ピーマンのわたの部分。柔らかくて、一番栄養価が高い部分ですね、よく知っています。

コオロギは不完全変態昆虫といって、産まれた時から親と同じ形態をしていて、7、8回の脱皮を重ねて成虫になってゆきます。脱皮しているところも見たことがありますが、透明な身体をしていて、とても儚くて美しいです。

それから、ときどきオス同士で喧嘩をするのですが、なかなかに激しいのです。音をたててぶつかり合います。蟋蟀相撲という、唐代の宮廷で始まったというギャンブルは、かくもありなんと納得がいきます。こういうのは、自分で飼育してみないとなかなか観察できないですね。

日本の養殖場では、保温がたいへんなようですが、幸いカンボジアでは温度湿度共に好条件です。ただ、今は室内で飼育しているので風通しが悪く、ムレの問題は出てきます。外に出せば気候条件はいいのですが、もう天敵だらけでそれはできません。そして、室内にもなお、最も危険なヤモリ一族が住み着いているのです。

ヤモリは害虫を食べてくれるのでこれまではむしろ保護状況下にありました。おかげで私の天敵であるゴキブリが出ません。外ではしょっちゅう見かけますが、恐らくは幼虫の頃に捕食されてしまうからでしょう。とにかく部屋中がヤモリの館状態で常に壁や天井を這っています。で、そのヤモリの大好物がコオロギなのです。

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あれこれ考えて行き着いたのがこれ。蚊帳です。室内で飼う以上、(基本的には)ネズミもアリもいないのでこれで大丈夫。ただここは物置で通風が悪いので、これを衣装ラックにぶら下げられるようにしたいと考えています。

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10月18日撮影。紙製の卵カップが隠れ家。この下側にごっそり隠れています。

ところで今、私は最後の決断に迫られているところなのです。そもそもコオロギを飼い始めたのは、観賞用ではなく食用のはずでした。最近は“昆虫食”がけっこう頻繁に話題になり、その最たるものがコオロギです。カンボジア始め東南アジアの国々ではもともと昆虫食の文化があるし、当地でも市場の片隅などで、香辛料をきかせたフライがおやつとして売られています。コーヒーカップに山盛り1杯で1ドルほどでしょうか?決して安いおやつではありません。

食用にする場合、成虫になって繁殖を済ませた頃には“収穫”しなければなりません。その期間は、カンボジアに住むDenさんによると45日間、日本にいるRyo君によると2か月が目安のようです。

コオロギは、最後の脱皮を済ませると成虫となり、翅が生えてきて鳴く(翅を擦り合わせて音を出す。オスだけが鳴く)ようになり、繁殖の準備が整います。私が初鳴きを確認したのは10月4日でした。最初の孵化を確認したのが8月23日でしたからだいたい40日目くらいということになります。今日は10月21日でそろそろ2か月。日本式で考えてももう“収穫”しなければなりません。

それができないのです、可哀そうで。

孵化した頃から手塩にかけて育て、エサにも環境にも気を配り、急に涼しくなった時には、私の布団までかけてあげて成長を見守って来ました。10月4日に初めて鳴き声を聞いたときには、そのあまりの密やかさにつまされました。当初、一気に鳴き始めたらきっとうるさいだろうなと思っていたのですが、メスが近くにいることがわかっているからでしょうか、“大声”で呼んだりはしないのです。きわめて遠慮がちに涼やかな音色でメスを呼び、交尾をして産卵し子孫をこの世に残して、やがて一生を終える。

ここ最近は、毎朝1,2匹の死骸をみつけます。寿命なのでしょう。およそ2か月、コオロギなりの天寿を全うしたのです。で、それはそれでいいのですが、死期の近い老いたコオロギを大鍋で茹で上げる、という“人間勝手”な行為がなかなか決断できずに、私は時期を逸しつつあるのです。死んでしまったコオロギは臭くてダメだそうで、前日から絶食させたものを一気に茹で上げ、あとは冷凍するなり乾燥させるなりして保存するのだそうです。

そんなグズグズしている中、一昨日、5匹ほどの孵化を確認しました。4日の初鳴き、すぐに交尾したとして2日後に産卵、その後ちょうど2週間です。目には見えないけれど、産卵床には産卵管を突き刺した穴がたくさん残っているので、きっとこれからどんどん孵化してくることでしょう。次世代の誕生も確認できたことだし、いつまでも“仏心”に惑わされることなく、心を鬼に代えて、明日くらいにはセイハーにでも頼んで、“収穫”しようと決心しているところです。

この2枚はネットから拝借。上は産卵管(真ん中の長い管)があるメス。下が、翅を擦り合わせて鳴いているオス。

YouTubeにとても興味深い画像を発見したので、下に貼り付けておきます。


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