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私のお散歩コースはアンコール・ワット

アンコール・ワットまで、ウチから距離にしてちょうど10キロ、混んでなければ車で20分ほどです(コロナ前の繁忙期は1時間以上)。そんなに近くてもこの2年以上足を運んだことがなかったのですが、それはまず第一に入場料が高かったからです。単独の入場券というのはなく、1日チケット、3日、7日、1か月、1年というのがあって、遺跡群のほぼどこにでも入れるのですが、1日チケットで37$します。

ところが、しばらく前に、カンボジア在住2年以上の証明ができる外国人に、1年のフリーチケットがもらえるという、カンボジア政府の珍しくもありがたいお達しがあり、私もさっそく申請してフリーチケットをゲットしていたのです。

で、きのう出かけました。旅行社をやっていた頃には何度か行ったことがありましたが、ひとりで行くのは初めて、いつでもタダで入れるわけだから、のんびりお散歩の気分で、午後になってから出発しました。

今年は天候異変で12月になってからもたびたび雨が降ったのですが、ようやくにして雨季も明けました。カンボジアにしてはカラリとした涼しい日でしたが、日差しは強烈、市内とは空気も違いました。

一昨日が、世界遺産登録30年で、様々なイベントがあったようでしたが、それは意図的に避けました。人気のないアンコール・ワットでぼんやりとしたかったからです。しかし、私が予想していたよりは観光客は戻ってきているようで、特にヨーロッパ系の人々が目につきました。30%くらいが外国人でしょうか。

結婚を控えたカップルは、こうやって記念撮影するのが定番です。

ちなみに、カンボジア人はどこでも無料で入れます。私が認識した限りでは、日本人、韓国人、中国人の姿は見ませんでした。クメールの王様もおちおち眠っていられない賑やかさですが、やっぱり中国からの団体客が早く戻ってきてほしいというのが、観光産業界で生きている人たちの切なる願いでしょう。

この日見かけた団体客は一組だけで、ガイドさんに聞いてみると、なんとっ!ポーランドから総勢100人、何組かに分かれて参観中とか。

アンコール・ワットの第一回廊(一階部分)のぐるりには、びっしりと石彫が彫られています。ラーマーヤナやマハーバーラタの叙事詩の場面などが順を追って絵巻物のように展開されていきます。専門知識がないとさっぱりわからないのですが、今回はまぁリハーサルということで、今後はネットで勉強をして準備を整えてからじっくりと見て廻ろうと思っています。いつでも簡単に来れますからね。

今日は一階部分だけで帰ろうと足を進めると、西塔門の方からピンペアト(カンボジアの宗教音楽)の音が聞こえてきました。時間も早いことだしと何気なく近寄ってみると、そこではとんでもない光景が展開されていたのです。

ひとりの中年女性と、ふたりの若い男性が、神像の前の緑色のゴザの上で激しく踊っていたのです。私はとっさに靴を脱いで左手の窓枠を乗り越え、スキを見て右手の白い上着のおじさんのいる位置まで突進しました。私は普段はとても謙虚な性格で、他人を押しのけて……などということは絶対にないのですが、突然緊迫した状況に出会うと人がかわったように、果敢になるというか、まぁ、ずうずうしくなるのです。

すぐにスマホを取り出すと、ノーフォト!と静止されましたが、それはそうでしょう、そこで展開されていたのは、神に捧げる神聖な踊りだったのです。上の写真はすべての儀式が終わってから撮ったものです。

白装束の女性はピンペアトに合わせて指をくねらせ、腰をふり、地面に這いつくばり、天を仰ぎ、男性の肩車に乗って剣を抜き、叫び声をあげ……、およそこの世の者とは思われない恍惚の表情で踊り続けました。神が憑依したというのはまさにこのことを言うのでしょう。

ふたりの男性は女性の従者のような感じでしたが、やはり恍惚の表情で、時々天を仰いで叫び声をあげていました。

30分ほども経って、女性が何かを口に入れ、もぐもぐもぐと噛みしめているうちにだんだんと普通の表情に戻ってきて、最後には、どこにでもいるフツーのおばさんの顔になりました。

この一連の儀式を、私は関係者を除けば、最も近い位置で見ていたことになります。なにしろ私の後ろに、警備員たちが4,5人並んで、一般の人の侵入を阻んでいたわけですから。日本ならば即刻つまみ出されたでしょうが、ありがたいことにカンボジアは緩いです。ちょうど柱の後ろに窪みがあったので、そこにずっと半身を潜めていました。

あとから聞いたところによると、この西塔門のヴィシュヌ神こそが、創建時にはアンコール・ワットの中心部に祀られていたものではないかということで、今も信仰の対象としてお参りに来るカンボジア人が絶えないそうです。

思いもかけなかった素晴らしいものを特等席で見せてもらって、大満足で外に出たのですが、さて、似たような駐車場がいくつも並んでいて、私の車が見つかりません。しばらくウロウロしていると、路肩で商売をしていたおばちゃんが、こっちこっちと手招きしてくれました。私のようなばあさんがデカい車運転してきたので珍しかったんでしょうね。そしてあっちから行きなさいと手振りで教えてくれたのです。教えられた通りに出てみると、そこには料金所というものがなく、つまりおばちゃんは”裏口”を教えてくれたのです。

アンコール・ワットもタダで入って、あんな素晴らしいものもタダで見せてもらって、駐車場までタダ、という、超絶にラッキーな1日が終わって、スマホを見てみるとちょうど1万歩。これからは空いていそうな日を選んで、私の”お散歩コース”にしようと思っています。

*アンコール遺跡の美しい写真はこちらからどうぞ。https://www.gettyimages.co.jp/%E5%86%99%E7%9C%9F/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%AF%E3%83%83%E3%83%88

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