一時帰国そしてなつめ
私はいま松本にいます。40℃の灼熱地獄から、早朝は3℃、4℃暖房なしの寒冷地獄へまっさかさまで、布団から出られず、友人から差し入れられたジョニ黒をホットにして、かろうじて身体内部から温めています。
ここ数日来、日中も10℃台なのですが、しばらく前に妙に気温が上がった日が2日ほどあって、半袖で外に出ている人も見ました。この寒暖差はいったい何なんでしょう?こんなに急激に地面を温めたり冷やしたりしていると地表にヒビが入って、そのうちに大地殻変動なんて起こるのではないかと気になるところです。
さきほどようやくにして灯油を入手することができ、ホッとひと息、ここを書き始めたところです。そういえば、ほんのしばらく前には、カンボジアでクーラーをつけてホッとひと息ついたばかりでしたね。
今年のカンボジアの暑さも特別なようですが、片やガソリンスタンドのおやじさんも、今年はいつまでも寒くて、今頃になって灯油を買いに来る人がたくさんいるといっていました。信州はいつから暖かくなるのか?カンボジアはいつになったら峠を越す(つまり雨季の始まり)のか?
さてさて、一番心待ちにしていたのは、いうまでもなく、なつめとの再会でした。そして、残念ながら、というかすでに当然のことでしたが、なつめをカンボジアに連れて帰ることを正式に断念して、預け親(といってもすでに彼らと一緒にいる時間の方が長い)のYさんと話し合いました。コロナが始まる直前に、これが最期のチャンスと準備を整えていたのですが、その時を逃してはや3年、もう無理だということはとっくにわかっていました。
今もとりあえずは元気で、散歩に行けば走り出すし、石段もトコトコ上ります。そしてものすごくよく食べるのですが、これが問題でまさに爆食、あげてもあげても欲しがり、私の足元にすり寄ってくるのです。どうやらずっと飲んでいるステロイド剤が原因らしいのですが、食べる割には太ることもなく、うんこもそれほどの量じゃないので不思議です。
当初は、身体に悪いからと、定量以上にはあまりあげないようにしていました。しばらく無視しているとそのうちに諦めるし、外に連れ出せば自動的に食欲も収まります。
しかし、じきに思いなおしました。当然のことながら、本人(犬)は、食べたいものを我慢してまで寿命を延ばすことに執着があるはずはありません。
それで先日、私は最初で最後(もしかしたら)になると思われる、なつめのおやつのまとめ買いをしたのです。昔はこんなものはありませんでした。今はもう人間のおやつよりも多種多様ではないかと思われるほどのグルメな商品がズラリと棚に並び、私は適当にカゴに入れてレジへ。そしてビックリ!
ものすごく高かったのです。でもそれは最初から覚悟していました。自分が食べる分を削ってでも、なつめにおいしいものを食べさせてあげたい。私が次に帰国するのはおそらくは1年後、その時に会えるかどうかは定かではありません。なので私自身は、連日の納豆卵かけごはん。これはこれで栄養もあるし充分においしいです。
ところがです。なつめがこの納豆卵かけごはんを欲しがって仕方がないのです。自分用の高級フードはクンクンやるだけでそっぽを向き、私の足元にやってきては要求します。これにはからしも醤油も入っているのでよくないのですが、ペロリと一口です。これまた仕方ありません。
みなさんは、この写真だけではわからないと思いますが、10か月ぶりに見るなつめは確実に老いました。認知能力というものが鈍くなっているのです。先回会うまでは、近くに郵便配達のバイクが停まるだけでよく吠えましたが、今回は吠えないのです。散歩をしていても、他の犬のことがあまり気にならないようです。
そもそも先回までは、久しぶりに会う私を確認するとブンブン尻尾を振って駆け寄ってきたのですが、今回はそんなそぶりが感じられませんでした。最も、すでに1週間ほどたつので、だんだん感覚を取り戻しては来ていますが。
どうやらあまり目が見えないようです。遠くの方は認識できるようですが、足元がおぼつかないらしく、ウチの玄関にあるほんの1段の段差をいつもズルっと転げ落ちるのです。
骨折したらたいへんなので、よく行く近くの河川敷の石段は、私が抱いて降りることにしています。これが15段くらいあるけっこう急な石段で、7キロあるなつめを抱いて降りるのは緊張します。私が転げ落ちたらそれこそ大ゴトだからです。
それに、部屋の中でおしっこをするようになりました。これまでは、扉をカリカリして教えるのですが、ふっと気づくと畳の上でしているのです。これまでに6回。ただこれは、Yさんに聞いてみるとちゃんと教えるというので、なぜなのか理由はわかりません。
私が出かけようとすると、こんな不安げな表情で見送ってくれます。これは以前からそうでした。部屋でおしっこをすることくらい、どうってことないですが、なつめに寂しい思いをさせないために、なるべく外出しないようにして、今やつききりの″老々介護″をしています。
なつめは今年で16歳になりました。もう十分に生きたと思っています。いろんな所に行って、いろんな人に会い、飛行機にも乗って国を越え、Yさん家族にもまるで″猫の如く″にかわいがってもらって、自由で楽しい老後を送ったのだから、思い残すこともないでしょう。
アンコール・ワットを見せてあげられなかったことは残念だけれど、穂高の美しい風景(トップ写真がYさんのお宅から)の中で、残された時間を幸せに生きてもらいたいと思います。そして叶うことなら、次に私が帰国する時に、お互い元気で、また会いましょう!
*最近ここに来てくださった方へ。なつめの生い立ちは以下です。