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沖縄本島にて観察したコムシクイ

11月に学会参加のため那覇に行きました。
そこでコムシクイを何度か観察しましたので、観察および識別状況を記しておきます。

コムシクイとは

コムシクイは北極圏に近いスカンジナビアからアラスカで繁殖しているムシクイです。日本では、主に日本海側と九州で渡り時期に、琉球列島では越冬期も観察されます。
本州で繁殖しているメボソムシクイと非常に近縁かつ外見が酷似しており、齋藤武馬らの報告が成されるまでメボソムシクイと同種と思われていました。

齋藤武馬らはメボソムシクイ類が、さえずりと繁殖分布の異なる以下3種から成ることを示しました。
・コムシクイ Arctic Warbler 𝘗𝘩𝘺𝘭𝘭𝘰𝘴𝘤𝘰𝘱𝘶𝘴 𝘣𝘰𝘳𝘦𝘢𝘭𝘪𝘴
 スカンジナビア~アラスカで繁殖
・オオムシクイ Kamchatka Leaf Warbler 𝘗. 𝘦𝘹𝘢𝘮𝘪𝘯𝘢𝘯𝘥𝘶𝘴
 北海道東部~カムチャツカ半島で繁殖
・メボソムシクイ Japanese Leaf Warbler 𝘗. 𝘹𝘢𝘯𝘵𝘩𝘰𝘥𝘳𝘺𝘢𝘴
 本州で繁殖

この3種は外見的特徴が不完全に分離しており、外見で識別できる個体は多くありません。

そこでこの3種の識別は声に頼ることになります(後述)。

例1:外見と声

環境:海岸近くの林縁
時刻:7時頃

ウグイスとメジロが鳴いていたので見ていたところ、ムシクイ類を発見しました。

大きさ:オオムシクイと同じかやや大きく、センダイムシクイよりは小さい
下面:腹は白く、下尾筒付近の黄色みはほぼ認められない、喉元などにやや黄色み
頭央線:無し

メボソムシクイ類との比較:
上面の色はメボソムシクイ類として違和感無く、頭央線はやや太め

以上の特徴からコムシクイまたはオオムシクイの可能性が高いと判断しました。

そう考えているうちに、当該個体のいた方向から一度だけ「zii」という声が聞こえたため、オオムシクイを排除してコムシクイとしました。

例2:外見のみ

環境:住宅街の街路樹
時刻:9時頃

学会会場の近くを歩いていたところ街路樹にムシクイ類を発見しました。

大きさ:オオムシクイと同程度
下面:腹は白くて黄色みが見受けられない
上面:かなり薄い緑

これは大きさ・体のプロポーション・色からコムシクイまたはオオムシクイで良いとは思います。それ以上は何も言えません。

例3:声のみ

環境:海岸近くの公園
時刻:8時頃

学会会場に向かっていたところコムシクイの地鳴きが聞こえました。
探さなかったので形態はわかりません。

この時ははっきりと地鳴きの特徴が確認できました。
3種の地鳴きは次のように異なります。
オオムシクイはギッと強い音で、振動がこちらに伝わってくる感じがします。
メボソムシクイはギュイと鳴きます。
コムシクイはズィと鳴き、個人的には直翅類(ウマオイとか)のような音色に聴こえます。

xeno-cantoで確認したコムシクイの声と一致し、メボソムシクイとは異なると思いました。

例4:被捕食痕

環境:海岸林

海岸林に羽根を見つけ、翼の一部と頭部がありました。頭部は状態が悪かったですが頭央線は無く、上面は淡い緑色、全体にわずかに黄色みを帯び、眉斑はメボソムシクイ程度、下嘴の一部が黒でした。
これらの特徴からメボソムシクイ類の可能性が高いです。

習得した翼の一部にはP10と初列雨覆が残存しており、P10-PC長は1.5mmでした。コムシクイとしてはやや長いです。

P10-PC length (mm):初列風切10と初列雨覆の長さの差
コムシクイ:-4~1
オオムシクイ:-4~3
メボソムシクイ:0~5
(N = 59)

齋藤ら 2011 日本鳥学会誌
翼側面におけるP10とPCの位置

今回は那覇周辺にていくつか異なる条件で推定コムシクイを観察することができました。

コムシクイの地鳴きを初めて聴きましたが、だいぶ前に予習したとおり声の違いはわかりやすく、地鳴きを聴けばそれほど迷うことは無い印象でした。ただしメボソムシクイ類のいずれかを聞き慣れている必要はあると思います。

紹介した観察例は全てコムシクイの可能性が高いと思っています。
一方で、どこまでの特徴を把握できたか整理した上で、把握できた特徴から言える同定に留めるというのが誠実な識別だと思っており、今回の例で断言できるのは声の特徴がはっきりわかった個体のみと考えています。

コムシクイは東日本では観察機会の少ない鳥のため、この機会に観察で特徴がどのくらい分かるのか確認できて良かったです。


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