ウェルビーイングと片づけ
先週、3年ぶりにリアルな会場で行われた 一般社団法人日本ライフオーガナイザー協会(片づけのプロを育成している団体)のカンファレンス。
今年はなんと!ハイブリッド開催。
私は、イベントオーガナイザーとしてのみならず(笑)、本部スタッフとして、今年もクロージングキーノート担当させてもらった。
今回のタイトルはこれ。
このコンテンツ、まさに旬でもあり、内容も超良かったと自負してるけど、なかなかこのテーマで話させてくれるところ、他になさそうだから(笑)ここにまとめておく。
(長編になったけど、やっぱり90分のWSすべてはまとまらない・・笑)
■幸せもいろいろ、片づけもいろいろ
ウェルビーイングは、直訳すれば「よい状態」。
今や、あちらこちらでウェルビーイングウェルビーイングと聞くようになったけれど、学術的に統一された定義はない。
なぜなら、ウェルビーイングって、一般用語だから。
(語源やWHOの健康の定義からの引用はここでは割愛)
これまでは、幸せとか、安寧とか、福祉などと訳されることが多かった言葉だったけれど、いまはすっかり「ウェルビーイング」「Wellbeing」「Well-Being」などそのまま使われる。
幸せとはなんぞや?
幸せな人ってどんな人?
何をすると幸せになるの?
・・・という研究が時代と共に進んできた中で、自ずと浮かび上がってきた言葉だと思う。
幸せに関する様々なデータが世に出回るようになり、あら?幸せっていろんな種類や分け方や特徴があるんだね?みたいなことがわかってきて、いままで万人がフツーに使っていた幸せを表す言葉「ハッピー(ハピネス)」とは、なんか「ウェルビーイング」ってちょっと違う(イコールではない)かも?ということを多くの人たちが理解しはじめた・・・のがここ数年なのではないだろうか。
ということで、心理職でありながら、片づけのプロ集団に身を置いて(空間の片づけ作業はまったく請け負ったことはないが…^^;)早15年、現在はウェルビーイングに関する研修や講演をさせていただいている私が、ウェルビーイングの観点から「片づけ」を眺めたときに、こういうところがリンクするよね〜と感じる部分を(独自に^^)紹介してみた。
■ウェルビーイングな片づけの特徴
1)持続性
幸せの研究の中で、幸せには、長く続く幸せと、長く続かない幸せがある、ということが示された。
どっちが良くてどっちが悪いという二元論の話ではない。
ただ、長く続かない幸せ(快楽主義や他者との比較優位によって価値がもたらされる地位財と呼ばれるもの)ばかりを求めていると、手にした快感は一時で萎んでしまうので、絶え間なく次の幸せ(快感)を追い求めづけることになって、いつまで経っても忙しい。(だって続かないんだから…^^;)
片づけにおいては、最も重要で かつ 難易度の高いことは「維持すること」。
映えるかどうか?
ビフォーアフターがドラマチックか?
そのやり方が流行ってるから?(笑)
などを優先して片づけても、その方法が維持できなかったらいつの間にかリバウンドしてしまって、結局いつまでたっても「片づけなきゃ!」と駆り立てられる生活から抜け出せない。
片づけは仕組みづくりだと「ライフオーガナイズ」は教える。
ライフオーガナイズの、人の暮らしや特性にあった片づく仕組みをサポートする方法は、始めから「その人自身がこの片づけ方を続けられるか?」という視点を大切にしていると思う。
暮らしに馴染む、習慣化できる片づけが手に入ったら、ウェルビーイング度はぐんとあがると思う。
2)社会性
幸せな人が持つ特徴として「良い人間関係を持っている」というのがある。それは、収入とか容姿などの個人に属する要素をはるかに上回るそうだ。
また、自分の利益を優先する利己的行動よりも、他者に貢献したり親切にする利他的行動をする人の方が、幸福度は高くなることもわかっている。
片づけのプロたちに寄せられるオーダーには、「子どもが片づけられるようになってほしい」とか、「夫のコレクションが多くて困ってる」とか、「親の家の散らかりをどうにかしたい」など、他者の持ち物に対する困りごとは少なくない。
だからと言って、片づけのプロは、現実的なつながり(人間関係の状態)を無視して、依頼主の意見だけで片づけを進めるようなことはしない。(はず…^^;)
たとえ家族であっても、他者の持ち物や共有しているものを、こちらの都合で(自分の利益のために)勝手に片づけてしまえば、その関係をこじらせることになる。
ウェルビーイングを高める片づけを考えるのなら、自分勝手な片づけではなくて、人の(使い勝手やタイミングも含めた)つながりを視野にいれたオーガナイズプランが大事だ。
3)多様性
私が初めてライフオーガナイズの講座に出たのは2010年。
片づけの講座なんだから「これはこういう風に片づけるといいですよ」的な、片づけの「正解」とか、これさえすれば!みたいな「王道」を教えてくれるのかと思っていた。
・・・のに、そんな「正解」も「王道」は、回が進んでもちっとも出てこなくて、フォーカスされるのは、自分が持っている「価値観」や「暮らしの習慣」を掘り下げる内容ばかり。
(まぁそのときから、ライフオーガナイズって、私が専門にしていた メンタルヘルスの領域と相性良さそうだな・・・と感じてたんだけど^^)
その理由はこれだった。
所属団体の宣伝のようで申し訳ないけれど(苦笑)日本ライフオーガナイザー協会は、ライフオーガナイズの基本理念として、下記のニーチェのことばを用いている。
私のやり方、あなたのやり方、正解はない。(すごい超訳でごめん…^^;)
ダイバーシティというワードを聞くようになって随分経つ。
企業や学校、地域のコミュニティでも「多様性の尊重」に触れる機会は年々増えている。
ウェルビーイング研究でも「多様なつながり」「それぞれの強みを生かした多様性の高いチーム」は注目される。
多様性に対して心を開くことの本質は(正解主義からの脱出を喚起し)自律的でウェルビーイングな生き方に向かうことにあるように感じている。
4)マインドフル性
新しい幸せの研究では、いま目の前のことに意識を向けて集中していることが、私たちの幸福度と大きく関係することがわかった。
いまに集中すること、いま目の前にあることに意識を向けること。
それを「マインドフルな状態(マインドフルネス)」という。
過去の後悔や未来の不安に思考が飛んでしまって、せっかく目の前にキレイな景色が広がっているのに全然見えていない、、、。
そんなマインドフルで無い状態は、オーバーワークの人たちにはありがち。
片づけ現場でのモノとの付き合い方も同じ部分がある。
誰にもらったか忘れてしまったお土産とか、何かで頑張ったときの記念品とか、いつか使うからと特売で仕入れすぎた買い置きとか、痩せたら着ようと思っているクローゼットの肥やしとか・・・。
そういう、過去や未来のもモノに占領されて、いまを気持ちよく過ごすためのモノやスペースが疎かにされていては、せっかく片づけてもウェルビーイングになれないよね?^^;
5)全体性
ライフオーガナイザーになったら「俯瞰する」という漢字が書けるようになった(笑)
「ライフ」とは、生活、暮らし、人生、命・・・
それを「オーガナイズ」(計画して準備して実施して最適化)するのが、ライフオーガナイズ。
なんのために片づけるのか?
片づけたその先にどんな暮らしを思い描いているのか?
片づけは人生の目的ではない。
だから、その人の生活や人生を「俯瞰」して捉えることが大事なのだ。
さらに、ライフオーガナイザーたちの中には、リユースやリサイクルなどの環境問題や、SDG'sに目を向けているメンバーも少なくない。
片づけの先にある「地球」に目を向ける全体性だ。
ウェルビーイングという言葉が醸し出すスタンスは、
幸福な人と不幸な人がいる(分ける)のではなく、幸福なときと不幸なときの両面を誰もが持っている
ポジティブが良くてネガティブが悪いのではなく、ポジティブにもネガティブにも意味がある
強さだけでなく、弱さも受け入れる
という「全体性」を大切にする姿勢から生まれるのではないかと私自身は捉えている。
■みんなでウェルビーイングを考える
さて、ワークショップの最後に参加者の方に投げかけた質問がこれ。
前述の5つをそれぞれシェアした後で、一人一人がライフオーガナイザーとして活動するその先に、どんなウェルビーイングな景色を想像してくれるのか、とっても楽しみだった^^
以下は、各テーブルから発表してもらった(オンラインも含む)皆さんの描いた未来。
自分を認められるようになって、みんなが余裕のある生き方ができる
人に振り回されない→人を認められる→安心できる→争いが減る
人を許せるようになる
取り残される人が少なくなる
当事者意識を持って、答えの出ない問題にも向き合える
ストレスフリー、住みやすさ、生きやすさ
心にゆとりができる
家族のことを考えられるようになる
前向きになる、幸福度があがる、いろいろなことに順応できる
相手を尊重できるようになる
機嫌の良い人が増える
ライフオーガナイズが辞書にのる
言葉がけが優しくなる
問題解決がスピーディになる
人と比べなくなって心が楽になる
持ち過ぎていたことに気づき、所有する価値観が変わり、シェアに意識が向く
学校教育にオーガナイズが広まって、子どもが幸せになる
人間関係がよくなって、笑顔でいられる人が増える
戦争がなくなる
大切なモノ・コトがわかる。今あるものを大切にする。
物理的にはダブり買いや廃棄・食品ロスもなくなり地球にやさしい。
弱みをみせられる、人に甘えられる社会になる
お互い支えられる社会
最悪な状況の中でも、その中の最善を導き出す思考になる。
自己肯定感がアップする。
目の前のことに集中できると、自分を俯瞰でき、互いに生かされる。
家庭内が平和になり、夫や職場の理解を得ることができることで、女性の社会進出がしやすくなる。
家族の中で、できないことをできないと言える関係、助け合える関係。
地域の中でも、無関心でない、できることを自分でみんなが見つけて、積極的に提供できる世の中。
ありがとうがたくさん飛び交う世の中。
片づけのイメージがポジティブなイメージになる。
いじめがなくなる。
自分のことも相手のことも考えられる、やさしい社会になる。
お互いに認め合える風土ができる。どんどん世界が平和になる。
すごい・・・!
思考の中に未来がある。
世界の平和やお互いに認め合い助け合える「よい状態」の社会を目指すルートは、きっと「ライフオーガナイズ」の他にもたくさんあると思う。
だけど今回、「人を主役にした片づけ法」に傾倒している仲間たちと一緒に、ウェルビーイングな未来を描けたことは素晴らしい経験だった。
誰でも、どこからでも、ウェルビーイングは始められる。
※カンファレンスそのものの様子は、代表理事である高原真由美さんがこちらに報告記事を書かれています。