How many times…
『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』坂本龍一さんの最期の著書。このタイトルは、ある映画に出てくるセリフなんだけど、このひとり言のような問いは、とても深い。
満月の周期は約29.5日で、ほとんど1ヶ月に1回。まれに1ヶ月に2回見られる月がある。2023年8月は、まさにその特別な月。わたしの誕生日だった8月2日と、これを書いている今日、8月31日が満月だ。
1年のうちに一番大きく見える満月を「スーパームーン」と呼び、ひと月のうち2回目の満月を「ブルームーン」と呼ぶらしい。そして今宵の月は、13年に一度ブルームーンとスーパームーンが重なる「スーパーブルームーン」だそう。いつからこんなふうに満月にいろんな名前が付くようになったのだろう。
あと何回、満月を見るだろう。曇り空だったり雨だったり、肉眼では見られない日もあるだろう。バタバタと忙しく過ごして、空を見上げる余裕なんてない日もあるだろう。そう考えると「ああ、今日は満月だな」と眺めるのは、きっと年に数回がいいところ。
あと何回、満月を見るだろう。300回かもしれないし、10回かもしれない。それは誰にもわからないけれど、永遠というものがない以上、最後の1回は必ず来る。それが最後とは、たぶん知らずにそれを迎える。
あと、何回?「また会おうね」とか「また、いつかね」とか、わたしたちはいともかんたんに約束するけれど、本当にそれは希望であって、実現する保証なんてない。だから約束が果たせたときは、もうそれだけで、しあわせなこと。
「おはよう」と声をかける時間。
ふるさとの海を眺める時間。
大好きな友達と笑い合う時間。
新しい出来事に触れたり、おいしいものを食べたり、心満たされる体験をしたり。
どんなことも、あと何回なんて、そんなことはわからない。あと何回なんて、きっとどうでもいいこと。「これが最後かもしれない」と想像できれば、目の前の時間の尊さに気づける。「これが最後でもいい」と覚悟があれば、全力で向き合うことができる。
いのちに限りがあることは、当然だれでも知識として知っている。でも、それを普段の生活で意識している人は少ない。むしろそんなことを意識しすぎると、不安や心配で生活ができなくなる。
だから、満月の夜ぐらいは、そんなことに想いを巡らせてみてもいいんじゃないかな。いま見つめている満月が、もしも最後になったとしても。そして、「わたしの人生、そんなに悪くないな」なんて、思えたらいいよね。
多くを求めなくても、そんなに焦らなくても、満月を見つめた記憶だけで、じゅうぶんしあわせなのかもしれない。