「マイノリティーなのだから努力すべき」という声に
アメリカ、ミネソタ州ミネアポリスで、黒人男性のジョージ・フロイドさんが警察官に膝で首を抑え付けられ、その後亡くなりました。この事件を発端に、抗議デモ「Black Lives Matter」が各地に広がり、日本でも連帯した抗議活動が行われました。
連日その様子が報道されている中でNHKの番組「これでわかった!世界のいま」の公式Twitterが6月7日に投稿した内容が物議をかもしました。
動画の内容は、黒い煙があがる「暴動」のような光景の中で、強面で筋肉質の黒人男性が、抗議の理由として「貧富の差」を訴えるものでした。「黒人は怖いもの」という偏見を助長するのでは、「貧富の差」のみにこの問題を矮小化していいのか、など、様々な批判の声が寄せられています。
今、米国で何が起きているのか、理解する手がかりの一つとして、私はドキュメンタリー映画「13th -憲法修正第13条-」を知人たちに勧めてきました。歴史の中でどれほど構造的な暴力が繰り返され、権力者たちがそれを利用してきたのかが伝えられています。
彼らが掲げていた政策の名目は「麻薬戦争」などの犯罪撲滅、けれども根底は「黒人たちは危険だ」のさらなる固定化だったことが、この映画の中で浮き彫りになっていきます。
こうした構造的な問題があるからこそ、「黒人は何倍も努力しなければ社会の中で認められない」という声も漏れ聞こえてきます。
けれども「社会的マイノリティーだから努力しなければ」が繰り返されるだけで、問題は解決に向かうでしょうか。そしてそれは、アメリカだけに限った問題なのでしょうか。
例えば私自身も、学生時代に出会った方からこんな言葉をかけられたことがあります。
「あなたがいいことをしても、”さすが在日の子”、”さすが母子家庭の子”とはならない。でも何か悪いことをしたら”やっぱり在日は”、”やっぱり母子家庭育ちは”と言われる。だから努力しなさい」と。
その時は、違和感がありながらも、上手くそれを言葉にすることができませんでした。
けれども今なら、こう言えます。結局それは、「対症療法」でしかないのです。
”やっぱり在日は”、”やっぱり母子家庭育ちは”が押しつけられてしまうような価値観や構造が変わらない限り、次の世代にも、その次の世代にも「だから努力しなさい」と言い続けなければならないことになってしまいます。
アメリカで「差別を受けてきたのは黒人だけではない」「大事なのは黒人の命だけではない」と抗議を否定するような声があがるように、「大変な思いをしてきたのは、在日や母子家庭で育った人たちだけではない」と言われるかもしれません。
もちろん、その通りです。「女性は不利だから」「外国籍だから」と、同じような言葉は溢れてきました。
だからこそ、「一部の人だけが声をあげるのはおかしい」ではなく、「一緒に声をあげて解決していこう」が今、必要なのではないでしょうか。
もちろん、「努力しなさい」と声をかけられた人々が実際に重ねてきた努力は否定されるべきものではないはずです。ただ、それを「美談」だけに終わらせてしまっては、問題が固定化していくだけではないでしょうか。
ルーツや生まれ、セクシャリティーによってではなく、「やりたいことや目標があるなら、努力してみよう」と、次世代には声をかけたいと思うのです。
だからこそ、差別や偏見を受ける側の態度や努力の問題に矮小化せず、なぜその構造が生まれてしまうのかに今、向き合うときなのではないでしょうか。
最後に、ジャグラーのちゃんへん.さんが、インタビューの中で語ってくれた言葉を。
これからの時代は国籍とか信仰している宗教に関わらず、個人が対等な立場で尊重し合える時代が来るはずだと僕は思っています。そうしないと社会がもたない。
追伸:
差別や偏見の話は、心がぎゅっと苦しくなる人も少なくないと思います。友人でLGBTアクティビストの東小雪さんと語るYouTubeトーク番組『生きづらいあなたへ』、よろしければぜひご覧ください。「しんどい」「明日が不安」という気持ちを、まず持ち寄れる場を築いていきたいと思っています。
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