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仕事が決まらない夫

自ら会社を辞め、悠々自適に過ごしていたものの暇を持て余して仕事を探し始めた夫。

シニア雇用の現実にぶつかったその後の話です。

※暗い上に面白い話では無いです。
そして2,300文字あります。


精神的疲労

ハローワークで相談したり求人サイトで検索して応募するも、お断りのメールが届き続ける日々。
そうした状況は精神を蝕んでいく

私は所謂「就職氷河期世代」である。
当時、同世代の友人から聞いた就職難の話は本当に過酷で、中には心が折れて病んでしまう子もいた。

不採用通知とは、端的に言うと「うちの会社に貴方は必要ありません」ということだ。
本人の学歴やスキル・所持資格、あるいは社風との違いなど様々な要因によって会社とのミスマッチングは普通に起こり得る。

しかし何社も不採用が続くと「社会に必要とされていない人間」という烙印を押されたような気分になってしまう。
私の心配通り、夫はメンタルが不安定になり始めた


承認欲求の満たし方

私は夫に「働いて欲しい」とは思っていない。
うちには子供がいないので、財産を残す理由が無いのだ。
人は皆、将来身体が思うように動かなくなり食欲も減退していく。
そんな老人が大金を持っていて何の意味があるのか。

だから夫には、夢中になれることや趣味にお金と時間を使って欲しい。
ところが残念なことに夫は無趣味であり、特にやりたいことが無い人なのだ。

そういう人間は社会に承認欲求を求める
人から賞賛されたり感謝されたい。

ならボランティア活動でも良いのでは?と思って進言したこともある。
が、夫は「タダ働きかぁ…」と気乗りしない様子。

一応夫の名誉の為に言っておくが、我が家は震災などの自然災害の際には必ず寄付金を送っている。
多分現場仕事をしたくないだけなのだ。


摩擦

夫は現在我が家の掃除を担当してくれている。
とても助かっているけれど、やはり細かい部分で「ここは乾拭きじゃなくて水拭きにしてほしい…!」など気になる部分もあるのだ。

とは言え相手は家事初心者である。
私も言葉を選んで優しくお願いするのだが。

「俺は凛ちゃんみたいに出来ないから」とか「そんなに文句があるなら自分でやれば?」などと返されてしまう。
夫の就活状況も知っているだけに強く言うことも出来ない。

そして勿論、働いているのは私の意志であり強制されている訳では無いのだ。
「こっちが働いてるんだからあんたが家事やってよ!」的な理論が通用しないのである。

それでも騙し騙し何とかやってきたが、ついに事件が起こった


ラップ巻き戻り事件

ある日の休日。
私は煮込みハンバーグとデリサラダを作っていた。
調理過程でラップが必要となり、冷蔵庫にマグネットで止めているクレラップを取り出したところ。

ラップが巻き戻っていた。

こうした緊急処置は、本来やっちまった奴がやるべき案件である。
しかし夫に聞くと「俺ちゃんと直しといたよ」とのこと。

OK。
あなたの中では直ってたんだね。
でも現実問題として直ってねーから。

嘘をついてるのか健忘症なのかはさておき、こちらは直ぐさまラップを使いたい状況である。
クレラップシールを用いたものの解決には至らず、仕方無くストックのラップを新しく卸した。
すると。

「もう諦めたの?ラップ勿体無いねーw」

この瞬間、夫を亡き者にせず耐えた私を称えて欲しい
もしかして自殺幇助を狙っているのか?と思うような言動に、菩薩の私も流石に動きが止まった。


ハンバーグ離婚

一瞬迷った後、夫にラップの使い方を丁寧に説明した。
ラップの切り方と失敗した時の直し方について。

個人的には優しく教えたつもりだったが、もしかしたら「老人に教える」ような余計な気遣いがあったのかもしれない。
調理に戻った私に、夫が激昂してこう言った。

「もう離婚しよう」

夫がストレスを抱えていることも、自尊心を傷付けられていることも分かっている。
でもその矛先を私に向けるのか。

虚無の境地。
今私は何の為にこんな手の込んだハンバーグと栄養素を考えたデリサラダを作っているのだろう。

勿論「作れ」と命令されたわけじゃない。
私が良かれと思ってしている事だから、相手にとっては有り難迷惑の可能性もある。

いや、もうこういう飾り立てた言葉を連ねるのは止めよう。
本音を書かせて頂く。

60歳過ぎて無職・無趣味・無計画な人間が20歳年下の女と離婚する事にメリットがあるなら教えろよ。金目当てなら社長を辞める事に全力で反対するはずだという事に気付いていないのか。私の愛は伝わっていなかったのか。

ハンバーグを捏ねながら私は言った。

「分かった。じゃあ離婚しよう。でもハンバーグ作っちゃったから、とりあえず食べてね」


愛とは見返りを求めないもの

完成したハンバーグは、手前味噌だがいつも通り世界一美味しい出来だった。
舌鼓を打ちながら私は言う。

「とりあえず別居する?」
「いや…。凛ちゃんはここを出て行けないでしょ」
「出て行って欲しいなら出て行くよ。離婚するとしても別に財産分与なんか求めないし弁護士も立てない。貴方がどう思っているかは知らないけど、私は貴方と‎結婚した事を後悔していないし、今この瞬間もこの先も貴方の幸せを願ってる。私が出て行く事で貴方のストレスが解消するなら喜んで出て行くよ」

夫は愛の本質を知らない
人が真に孤独になった時の苦しみと地獄を知らないから、勢いで甘ったれた事が言える。

本当のドン底を知らない人間は幸せだ。
けど、それでいい。
私は夫に、そういう悲しさを知らないまま人生を全うして欲しい。
死ぬ間際に、私と結婚して良かったと思ってくれればそれで良い。

まぁこれも私の一方的なワガママなのだろう。

長くなってきたので続きはまたの機会に。


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