武士道入門6 シーザーと誇り高き蛮族の戦士

日本における武士道精神の芽生えについて、新渡戸稲造さんは『武士道』の 1章で、欧米人にわかりやすいようにゲルマン部族の戦士階級の話と比較して います。
でもこの話は、日本人には少しわかりにくいですよね。

世界史をまず確認すると、古代において「ヨーロッパ」には、地中海をぐるっ と回る「ローマ帝国」という巨大な国がありました。
その周辺には
 ・スペインやフランス......ガリア人、
 ・ドイツやオーストリア......ゲルマン人
 ・北欧......ノルマン人(バイキ ング)
と、大雑把ですが、こう呼ばれ る狩猟採集をする部族が住んでい たわけです。ローマから見れば、 彼らは皆、「野蛮人」ですね。

最初のガリア人というのは、だ いたいローマに吸収されます。け れども、その次のゲルマン人とい うのは、たびたびローマに侵入。 ついに5世紀には大移動があり、 ローマを滅ぼしてしまいます。

そのあとさらにノルマン人まで大移動。
そんななかから、いまのフランス、ドイツ、イギリス......といった国ができてくるわけです。
ただ、新渡戸稲造さんは、「蛮族の戦士のなかで、淘汰されて残った勇気あ る英雄が、やがて国をつくったんだ」と言っています。
やはり「英雄」は、必要 だったんですね。

ローマと戦ったガリア人の英雄に、「ウェルキンゲトリクス」という人がい ました。
紀元前50年くらいに行なわれた、ジュリアス・シーザーのガリア遠征。
その 際は、バラバラだった部族をウェルキンゲトリクスがまとめ、強力なローマ軍 に抵抗します。
これにはさすがのシーザーも苦戦。ただ彼は、人類史上でも1、2を争う戦 争の天才です。徐々にガリアの戦士達は玉砕されていく......。

そしてウェルキンゲトリクスは、自ら1人でシーザーの前に投降し、「自分 の命を差し出すから、その代わりガリアに平和をもたらしてくれ」と彼に頼み ます。
シーザーは彼を称え、敵将として処刑はしたのですが、ガリア人にローマ人 とほぼ同等の権利を与えました。ライバルとの約束を守ったわけですね。

いまでもウェルキンゲトリクスは、「フランス初の英雄」として人気を集め ています。
やっぱり戦士たちの歴史において、どこの国でも「武士道に似た話」は愛される。そして国の英雄として、称えられてきた......ということなんですね。

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