武士道入門37 なぜ武士たちは切腹をしたのか?

新渡戸稲造さんは『武士道』の第12章には、かなりのページを割いています。
それだけ説明が必要な項目だと感じたのでしょうが、何かと言えば「切腹と仇討ち」です。
仇討ちはともかく、「切腹」と言えば、海外から見れば、いちばん「異常」 な武士の慣習。まさに当時の日本人を「アイツらおかしいんじゃないか?」と野蛮人扱いする、最大の要因になっていました。

だからこそ、新渡戸稲造さんは西洋人向けに書いた本で重視したのですが、そもそも、なぜ武士たちは切腹をしたのか?
彼は、明確に答えています。

「霊魂と身体の宿る場所は、腹の中にある」と考えられたから。

確かに「腹」について、私たちは日常でいろんな言葉を使います。
腹が立つ、腹を割る、腹がすわる、腹黒い、腹にイチモツ、腹がへる......。
腹がへるのは別ですが、すべては「心」の意味で使われているんです。
調べ ればたくさん出てきますね。

ただ、腹に魂がやどるって何か変じゃないか?
だいたい腹ってどこなのか?  胃なの?  腸なの?
そもそも古代において、「人の魂」が、どこに存在すると考えられたのか?
これは結構、難しいのです。

1.脳
2.心臓
3.全身
4.腹

現代科学的に見れば、やはり「脳」となりますが、そう認識した古代の文化はほとんどありません。
一般的なのは「心臓」ですね。
そもそもハートマークは、ここから生まれて います。

全身というのは、別に体のどこかに魂があるのでなく、幽体離脱のような感じで、自分の分身のような霊体が体から出てくるようなイメージなんでしょう。
インドとか中国の高尚な古代思想では、そうイメージしました。
では、腹は......といえば、別に日本にはストマックマークもなければ、腹が痛くなったら、心にやましい問題がある......と考えたわけでもありません。
そもそも腹を刺されても、簡単に人は死なないんです。その間、魂はどうしているのか?

そこで「腹」という言葉の語源を見ると、「原」とか「広」と同義。
つまり、消化器官を表すというより、「体のずっと奥深いところ」という意味で使っていたようなのです。

そうすると「切腹」という行為が、「身体の奥深いところを切り開いて見せ、自らの魂が純粋であることを示す」ことだったという意味合いにも通じます。
ある種「切腹」というのは、「日本独自の身体イメージから生まれた象徴的な行為だった」ということが言えそうですね

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