武士道入門4 武士道と騎士道

『武士道』の1章では、「日本の武士道とヨーロッパの騎士道は、違うものなの だ」と繰り返し述べられます。
ただでさえ武士がわからないのに、騎士とはどう違うんだ?......という読者 もいるでしょう。

でも、両方とも似ていることは確かです。
どちらも、そもそもは小さな領国の支配者。より大きな国の君主に仕え、武力で力を貸した人々です。
鎧をつけて、馬に乗って、剣なり槍なり弓なりを持って......両者はとても似てますよね。
 では騎士の精神だった「騎士道」と、武士の「武士道」はどう違うのか?

わかりやすいのは、漫画『ワンピース』です。
作者の尾田栄一郎先生がどれ くらい意識したかはわかりませんが、ここには「武士道」キャラと、「騎士道」キャラの2人が出てきます。サンジと、ロロノア・ゾロですね。

海賊の一味で、2人とも強いのです。
でも、初期の頃の設定で2人を比べると「騎士道」と「武士道」の違いがハッキリわかります。
それは登場人物紹介を見れば、一目瞭然。
なぜなら騎士のサンジは、本職がコックです。だから料理人の道を極めてい ます。戦い方も「料理人として手を使いたくない」ということで「蹴り」のみ。
一方で武士のゾロはといえば、「戦闘員」とあるのみ。 ようするに「武士」は「武士」でしかない。

「ワン・ピース」の海賊一味の仲間たちは、それぞれ船医だの、音楽家だの、 船大工だの......と、「役割」を持っています。
でも、ゾロの立場だけは、ちょっ と異色です。
そもそもどうしてサンジが騎士かといえば、ただ「女性を絶対に守る」という原則をひたすら貫いているから。

それで騎士道か? といえば、案外と近いものはあるんです。
『中世フランスの騎士』(ジャン・フロリ著)という本には、こうあります。 「騎士制度とは制度的現実というよりは、実際には一つの生き方、理想、もしかすると夢である」

つまりは、「お姫様が困ったときに現れ」とか、「竜とも一対一で戦い」とか、 「ああ、そういう人って格好いいよね」という幻想の下に成り立っているのが「騎士道」の世界なのです。
だから現実の歴史より、文学の世界で輝きます。 ただ「こうあるべきだね」という理想は、やがて「ジェントルマンの精神」 などに受け継がれていくわけです。

一方で「武士道」はといえば、半ば「強制」なのです。
剣士として強くなり、厳しい規律を守り、「社会の模範」としての、役割を果たしていかねばならなかった。
だから漫画のなかでも、ゾロはたいていヒマ なときは、剣の修行をしています。 これは同じ「武士キャラ」の、ルパン三世における石川五右衛門なども同じですね。 


ヨーロッパ中世の歴史のなかで、道徳的な規律はあくまでキリスト教でした。 だから騎士も原則、キリスト教の掟を守っています。
けれども日本の武士は違います。神道にそもそも戒律はないし、仏教も教養 的な要素が強い。
そのなかで武士の道は、「生き方の見本」のようになっていきます。 

ヨーロッパの騎士は、いくらでも他の職業に代替え可能だった。
一方で武士は江戸の平和な時代、「みんなが見習うべき人」になることで役 割を保ち続けたのですね。
だからこそ「武士道」は、「騎士道」がヨーロッパ人に与えた以上に、日本
人に深く影響を与えている......。

それが新渡戸さんの、言わんとしていることなのです。

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