武士道入門14 いちばん難しい仕事を引き受ける「勇気」

前回は「義」という概念について述べたのですが、『武士道』で述べられる次の概念は「勇」。
正しいことをなす勇気ですね。

基本的に武士とはもともと、戦争で闘う兵隊なのです。
強い敵にも怯まない強さは、基本になります。
ただ新渡戸稲造さんは、「危険を冒し、命を懸けて死地に飛び込むことが勇気ではなかった」と述べています。
戦士の理屈で成り立っていた武士の世界でも、「肉体的な勇気と、道徳的な勇気は区別されていた」と。
本当にそうなのか?

これは戦国時代に英雄視され、称賛された武将たちを見ればいいのです。
合戦でどんな武将が英雄視されたかといえば、多いのは「殿(しんがり) を務めた」ということ。
これが何かといったら、ようは「負け戦」になるケースです。
全軍が逃げるのですが、いちばん危険なのは、逃げる部隊の最後尾。
勝っている軍勢がみんな、追いかけてくるからですね。

この最後尾を「しんがり」と言うのですが、ここで踏ん張らなければ、 真っ先に逃げているリーダーまで敵が迫るかもしれない。
ようは「命をかけて ボスを守る使命」を負うわけです。

でも、それに成功すれば、やはり評価は上がっていきます。
そんな例で歴史上に有名なのは、豊臣秀吉でしょう。

秀吉の出世術といえば、信長の草履を温めるような話が有名です。
しかし、本当はそんなことだけで、農民から大名に出世することなどできません。

信長が朝倉軍と戦ったとき、仲間と思っていた浅井長政が裏切り、圧倒的多
数の敵に囲まれることになりました。
そこで信長軍は決死の脱出を行なうのですが、このとき殿を務めたのが秀吉だったのです。
まあ、このときは蜂須賀小六など、別の武将が本当は活躍したという話もあ
ります。
ただ、他にも美濃を攻略するときも、秀吉は敵の攻撃をかいくぐりながら、敵地の真ん中にプレハブの城をつくってしまいました。
だから実力主義の信長は、秀吉をどんどん昇格させたわけです。
ようは「困難で大変だから誰もやりたくない仕事」を、すすんで引き受ける度胸を評価したのですね。

これが「勇」として、武士の世界で称賛されるもの。
実は現代にも通ずる話で、誰にでもできる簡単な仕事を続けていたって、大きな評価は与えられません。
別に命をかけなくていいから、誰もがイヤがる難しい仕事を率先して引き受ける人が、一番評価される人間の筆頭になるのです。

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