武士道入門15 スパルタ式の光と陰

「勇=戦士として戦うために必要な勇気」ですが、それを鍛える訓練として 新渡戸稲造さんは、「子どもたちが1人で、さらし首の前に行って印をつけて くる」という「肝だめし」まで紹介しています。
なかなか現代においては、キツい話でしょう。

そして新渡戸さんの言葉。
「このような超スパルタ式の『肝を鍛える』訓練は、現代の教育者には不快感とともに『心に芽生えた優しい心を、つぼみのうちから摘み取ってしまうのではないか』という疑いをもたらすかもしれません」

だから武士道も「勇」ばかりに重きを置いたのではないのですが、こうした
発想の光と陰は、この「スパルタ式」という言葉に見て取ることができます。

スパルタ式......何気なく私たち、厳しい教育指導にこの言葉を使いますが、その本質は「厳しい」どころのものじゃありません。 「教育」とはまったく質が違う話だし、「武士道」のような理念ともまた違うのです。

そもそもスパルタというのは、古代ギリシャにあった都市国家。
有名なベルギーのチョコレート会社に「レオニダス」があります。日本に広まったのは最近ですが、じつは創業100年を超える老舗の会社です。

このロゴマークをよく見れば、ギリシャ風の兵士を模しています。
「レオ ニダス」という英雄ですが、『300』という映画にもなりました。
たった 300人でペルシャ3万人の軍勢を食い止めたという、戦の神さまみたいな人。
ベルギーのチョコ会社は、「創業者の名前が同じ」ということで、このシンボルをつくったようです。

スパルタというのは、歴史でも珍しい、徹底した「戦士の国」でした。
戦士以外は国民として必要としません。
だから事実上、子どもはすべて国が取り上げ、「戦士」として鍛えられます。
ほとんど衣服も与えられないまま徹底した軍事訓練を受け、体罰もごく当然。 ついていけない子は、容赦なく放逐されました。

こうして感情を抹殺して育つのは、ある種の「人間兵器」ですよね。
だからスパルタは、戦時においては非常に強かったわけです。
前6世紀にはアテネを破 り、ギリシャ都市国家の頂点に立ちました。

ところが頂点に立ったことで、この国は豊かになります。
他国の文化や教育も入ってきて、貧富の格差が生まれ、国民の意識も多様になりました。
そうすると、お金持ちは当然、自分の子どもを国に差し出したりしなくなり ます。
戦士以外の生き方を望む人々も、多く現れるようになりました。
そこで、あっという間に「スパルタ式」の伝統は崩れ、戦士の国は弱体化し たわけです。

つまり歴史を見れば、特定の条件でしか機能しないのが、スパルタ式の教育 法。
『武士道』を読めばわかるように、武士だって「スパルタ式」で鍛えられ たわけではないのです。
現代の教育者が、安易にスパルタ式だなんていうのは、大きな間違い......と 言うべきでしょうね。

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