シャオリンとの思いで

 初めての一人旅は中国の大連だった。一人旅と言っても、留学している友達に会いに行ったから、到着した後は一人ではないのだけど。あれは大学3年生の1月。我ながら若い無鉄砲な旅だった。

 小林から1月の終わりに帰国するというメールをもらったのは、2003年が終わろうとしている12月。年が明けた1月2日にふと思い立ってしまった。善は急げ。帰る前に遊びに行くとメールを送り、返信を待たずにツアーを予約した。出発は1週間後の1月9日。当時はまだキャリアメールの時代。海外との連絡はEメール。パソコンを立ち上げないとメールに気づかない。そう、気づかない時は気づかない… 小林からの返信がないまま、ついに出発の日が来てしまった。


 スムーズに大連に到着し、ホテルのチェックインも滞りなく済んだ。さすがツアー。ホテルに到着して、メールをチェックする。返信なし。どうしよう… 朝が早かったので少し眠い。窓の外ではやたらクラクションの音が鳴り響いていると思いながら、しばし現実逃避の昼寝。目を覚まして、もう一度メールを見るが、やはり返信はない。どうしたものかと考えながら、ふと目にした先に分厚い本が。手に取ってみるとどうやら電話帳。小林の留学先の「大連外国語大学」はないかと漢字を頼りに、ページをめくる。

あった!

しかも寮らしき電話番号も載っている。思い切って部屋の電話の受話器をあげ、番号を押すと呼び出し音が聞こえ、そして、
「你好」
「我是、石田。小林在吗?」

「小林さん宛てですか?」

なんと電話をとってくれた人は、奇跡的に日本人だった!!強運!

「はい!!大学の友人です。小林さんお願いします。」

「少々お待ちくださいね。」

待つこと1~2分。受話器から懐かしい小林の声が 

「石田!?」 

「小林!!来ちゃった~」


翌朝、ホテルのロビーで待ち合わせ。どうにか会うことができた。会えてよかった。小林の案内でいよいよ大連の街へ繰り出す。昨日は怖気づいて、ホテルから徒歩5分圏内し出歩かずに一日を終えた。食事もルームサービス。すっかり中国の生活に慣れた小林は、ホテルの前の道路を信号を無視して突き進む。私が不安そうな目をしていたのか、「これが中国スタイル。小林じゃなくてシャオリンと呼んで。」と小林はおどけた。昨日聞こえたクラクションは、どうやら彼女のような信号無視をする人が多いかららしい。


「シャオリン、この辺り中国っぽくないね。」

シャオリンと呼んでと言ったので、旅行中はシャオリンと呼ぶことにしてみた。

「大連はロシアが近いから、ヨーロッパみたいな建物が多いらしいんだよね。」

観光案内を聞きながら、露店が並ぶ通りにやって来た。食べ物や中国っぽい雑貨などが並び、DVD(絶対海賊版!)を売っている店もあった。
シャオリンは、「日本の映画とかドラマのDVDをここで買って見てるよー」私もお土産に1枚買ってみた。


露店の後はシャオリンがたまに買い物する時に行くというショッピングモールも行った。
中国のデコレーションケーキシを初めて対面。緑色のケーキ。鶴と亀が描かれたケーキ。日本のとは様子がだいぶ違う。「薄い緑色のクリームだし、誰が買うんだろう。気持ち悪いね。」堂々と店員さんの前で日本語で思ったことを言える。昼食の前に、シャオリンの寮へ遊びに行った。新しいを年を迎えても10日経つけど、エントランスにはまだクリスマスツリーやサンタがいた。「中国ではこれが普通。」クリスマスの飾りはかたずけないまま、既に来る旧正月を祝う飾りも。クリスマスと正月の飾りが並んでいる。日本では珍しい光景。面白いからとサンタと正月飾りを背景に記念撮影。わいわいやっていると、シャオリンの友人に遭遇する。勢いで昼食を一緒に食べることになり、三人で寮の近くの食堂へ。シャオリンの友人高橋さんは、京都の大学らしい。日本では人見知りしてしまいそうだけど、不思議と会話が続いた。二人によるとおすすめは餃子。中国では焼き餃子じゃなくて水餃子がメジャーらしい。お皿ではなく大きな鍋で水餃子が出てきた。「鍋で出てくるってすごいよね。」と二人は笑っていた。初めての水餃子はもちもちしてて美味しかった。


高橋さんとは食堂で別れ、最後に向かったのは高台の公園に行った。顔色の悪い少年がサッカーボールを蹴る像のある公園だった。シャオリンが撮って撮ってと、少年の像とボールを競っている風のポーズをする。夜が近づき風も強くなってきて、それがまた躍動感を生み出す。シャオリンをモデルに笑いながら写真を撮った。何にもない公園だったけどたくさん笑った。

最後の晩餐は、「王府井」で北京ダック。後々知るが日本にも出店している有名なお店だった。高級店のはずだけれども、閉店間際で入ったからか、他に客がいなかったからか、私たちの食べている横で掃除が始まり、どんどん蛍光灯は消されていった。シャオリン「中国ではよくある。」と笑う。北京ダックは美味しかったはずだけど、味よりも黙々と閉店準備を進める店員の方が印象に残った。


翌日、帰国の日。
シャオリンは空港まで見送りにきてくれた。
あと2週間すれば日本で会えるのだけれども、、二人とも思わず別れの瞬間は涙ぐんでしまった。


有名な観光地に行ったわけではないけれど、一つ一つを今でもはっきりと思い出せる。とびっきりの3日間だった。突然思い立ったのこの旅行で、旅行の楽しさを知り、今では旅行会社で働いている。
そして、小林から日常を楽しむコツを教えてもらった。ユーモアに変えて笑って楽しむということを。小林とは学生の頃のように会えていないけど、たぶん今日も笑っているはず。