明けます時、何してた?
紅白が映し出されているテレビの前に2枚の膝掛けをセッティングし、その間にヌルっと潜り込んで、娘が寝息を立て始める。
2秒前には、やれトランプやりたいだの、Switchやりたいだの、けん玉振り回しながら駄々をこねていた娘が、急にスイッチオフされてスヤっと寝始めた。
全部ダメって言われるからもう寝てやるぜ、の顔だ。
冗談でやっているのかと思ったら、本当に寝ていた。すげぇ。
「悪いけど、布団敷くから移動させてくれる?」とわたしは父に言う。
夫はと言うと、チューハイ350缶を5本飲んで、さらに風呂に入ってあったまったもんで、ソファーでガーガー寝ていた。
ホカホカになって寝るとか子供か。
嫁の両親がわざわざ大晦日に来ていると言うのに…と胸糞なわたしだったが
「寝かせてあげなさい。蟹を準備して疲れたんでしょう」と母が言った。
確かにふるさと納税の返礼品で、タラバガニとズワイガニをシコシコ準備したのは夫だった。(大晦日に食べようと決めたのは私)
蟹を準備したら、疲れるのか?
いやいやチューハイ5本も飲むからだろ!
と拡声器でツッコミを入れたいのは山々だが、娘が起きたら面倒なので、グッと飲み込んだ。
ここ2、3年の大晦日はこんなかんじだ。
前はこちらから実家へ行って泊まっていたが、最近は両親が我が家に手作りお節をもって参上するシステムになった。
それはそれは私は楽だし、自分の両親だから気は使わないし、子供は喜ぶし万々歳だが、確かに夫は万々歳とはいかないだろうな。
そりゃそうよね。嫁の両親だしね。ごめんな胸糞とか言って。
と2ミリほど反省をしたが、大いびきを聞いた瞬間にそんな気持ちはどこかへ行った。やはり所詮は他人である。
両親が帰宅したのが23時ちょっと過ぎ。
私は風呂に入ろうと支度をしていたところ、台所から音が・・
なんと夫が起きて蟹汁を仕込み始めていた。
蟹!頭の中は嫁の両親より蟹か!
半ば呆れていたが、出来上がった蟹汁がトップオブ汁だった。
私の目の前に出された器の中には、ブリンブリンのタラバガニ様が「ワシを食べよ」と湯治されておられた。
これはシコシコ作ってくれた夫に感謝である。
いや、待て。夫は蟹に救われているのだ。
蟹がいなければ、ただのいびきをかいて寝ちまったオジサンなのだ。
感謝されるべきは蟹なのだ。まさに蟹様である。
店で出されるどこの蟹汁よりもうまい蟹汁を平らげて、風呂に入った。
そういえば「バスボムは哺乳瓶だった!」と子供がはしゃいでいたな、と思い出す。言っている意味が一文字もわからねぇやと思っていたが、湯船に入ったらケツの方からプカァ・・と何かが浮いてきた。
ちっっっさ!!!!
「次は赤ちゃんが出るといいなぁ!」と娘はウキウキしていた。
心の清らかさに脱帽である。
私はきっと子供でも「ちいせぇなぁ」と言っていたと思う。
なぜ私の中からピュアな生命が誕生したのか、未だに不明である。
ちなみにキャンドゥーで買えるやつらしい。
バスボムショックにより忘れてたけど、あれ、年もう明けてね?
ゴジラが太平洋からザバーンと顔を出すかの如く、私は勢いよく湯船から飛び出した。
「と、年明けた!?」
と素っ裸で部屋のドアを明けたと同時に、ゆく年くる年のお寺と共に、寒そうに座っている人々が目に飛び込んできた。
正確に言うと23時57分だったのだが、年が明けたとかよりも、何故か謎の優越感がジワワ〜と染み出した。
いやいや、皆さんは寒かろうが、長かろうが、トイレに行きたすぎだろうが、風呂に入りたすぎだろうが、新年を特別な場所で迎えるべく望んでやっていることなのだ。
イコール苦行をしているわけではなく、直接その場に居ることがとっても幸せなのだ。
だが、怠け者で超怠惰な私は、風呂に上がってあと寝るだけの、この素っ裸な状況最高じゃね?などと、心の中で日本一無駄なマウントを取ったのである。
謎のサイレントマウントを取り、今日飲んだ酒の缶を潰す。
新年一発目の言葉は「缶やばくね?」だった。
(悠々20本くらいあった)