◆布団の重みで愛したい
夜もずいぶん更けたころ、夫はよくお腹を出して寝ている。まるで子どものようだな、と微笑ましく思うと同時に、お腹が弱い夫の胃腸たちが冷えてしまわないか心配になる。
布団をかけ直す。
今日は、寝ている夫について書きたい。
まず、前述のようにお腹を出しているのが基本だ。出ていない時のほうがめずらしい。
布団を蹴ってしまうだけでなく、アトピー性皮膚炎の夫は、下着のシャツを無意識にめくってお腹をぼりぼりと搔くからだ。
しかし、寒いと言って起きることは滅多にない。不思議である。
夜更かしが大好きなわたしは、夫がすっかり寝入ってから寝室に行くことがある。
すると、なんだか眠たそうな声で、だがハッキリと
「どこにいたの?こっちにおいで」
と、右腕を伸ばしてくれる。わたしは安心して、夫の右肩にすっぽりと頭をうずめる。どんな睡眠剤よりよく効くのが、これである。夫の肩、脇の下のすこし上あたりは、わたしの頭蓋がしっとりとフィットするようにできている。心がゆるむのを感じる。
しかし翌朝、どれほど嬉しかったか、どんな感動だったか、必死に伝えても夫は微塵も覚えていないのが常である。
いつもやさしい夫、わたしに甘い夫。
果たして、それは寝ていても変わらない。夫と一緒に床についても寝付けない夜は、しばらく目を閉じたり開けたりを繰り返す。ぽっかりとした、壁でも天井でもない空間を見つめてみたり、スマホを開いては閉じ、閉じては開きし、スタンドライトの光量を無意味に調節したりしてみる。そして、諦める。
わたしにはもはやできることがなく、となりですぅすぅと寝息をたてる夫を恨めしく眺めながら、誰かにこの惨状を訴えたいと思う。
夫の腕に手を当て、すこし揺さぶる。
「ねぇ、寝れないよ」
反応がない。
さっきよりすこし強く揺さぶる。いつも、だいたい3分くらいは揺さぶる。すると夫は、やはり眠たげな声ではあるがハッキリと
「眠れないの?かわいそうに」
と言って、腕を伸ばしてくれる。
わたしはできるだけ手短に、しかしきちんと網羅するよう心がけながら、夫が眠り、わたしが起きていたあいだの出来事を伝える。
「さっきお腹が空いて残り物を食べちゃったんだ」
たいてい、返事の代わりに寝息が返ってくる。
たいしたことは書いていないのに、いつのまにか長くなってしまった。
わたしは、気持ちよく眠っている夫を度々起こしてしまい、いつも後悔する。後悔するし、反省もする。
しかし、夜は判断力が鈍るのか、「起こしてごめんね」の記憶が新しいうちに同じ過ちを繰り返す。
夫のお腹に布団をかけ直すのは、せめてもの罪滅ぼしなのだった。