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グラナージ~機械仕掛けのメモリー~

第5話「アルとメル」

文字数 1,511文字

 メル・マナの中央には、メトロポリス(大都市)がある。
 メトロポリスも、他の街と同様に、円形に作られていた。
 円形の中心に、巨大な図書館がそびえ立っていた。
 その図書館を「グラナージ・アヌム」という。
 グラナージ・アヌムは図書館であり、王宮でもあった。
 様々な色彩に光る素材で造られた美しい建造物である。
「アル様!」
 一匹の可愛らしい機械虫が、一人の少女の前まで飛んできた。
 ねじの部分が羽になっていて、ふわふわと優雅に浮かんでいた。
「チョウチョか。」
「メル様はどこにもいません…。」
「そうか。私も出来る限りのことはしたのだがー…見つからん。」
 少女は、メルの妻、アルだった。
 アルは、紫がかった長い銀髪を頭のてっぺんで一つに束ねていて、豊かな髪が腰のあたりまで波打ち、碧色の大きな瞳はきらきらと輝いていた。
「私はアカシアを守るために、外へ出ることは出来ん。チョウチョよ、他の機械虫にもメルの行方を探すように頼んでおいた。お前は疲れただろう。しばらく休むがいい。」
「でも、私も心配で…。」
「とりあえず、メルは生きている。あいつのマナを感じるのだ。」
「それではきっとどこかに…!」
 チョウチョの顔がぱっと明るくなった。
「ああ。だからそんなに心配するな。」
 チョウチョがいなくなったあと、アルはため息をついた。
「だが…何か嫌なものも感じる。それが気がかりなんだ。これから先、何が起こるかも分からない…。」

 森の中。
 メルとミラは一緒に歩いていた。
 ミラはふと、メルの首にかけられている銀のネックレスに気が付いた。
「…ああ?これかい。ただのネックレスだよ。」
 ミラの視線に気付いて、メルは言った。
「先の方に、ねじみたいなのが…。」
「変わってるだろう?だからなんとなく付けているんだ。」
「…あの、今どこへ向かっているんですか。」
「君の村だよ。近くに村があるんだろう?」
「え…どうして?」
「なんとなく猫耳族の村を見て見たくてね。なかなか見れないから…。」
「そこに行っても、何も手掛かりは見つからないと思います。魔物の村に行った方がいいかと。」
「…君は村に行きたくないのか?」
「……。」
 ミラは何故か答えなかった。
「そうか。まあ、確かに今は観光してる場合じゃないね。」
 メルは暢気なところがあった。
「魔物の村、か…。そこに行けば、僕と同じように、魔物化したグラナージがいるかもね。」
 突然、メルが身構えた。それを見て、ミラも身構えた。
「グルルルル…。」
 赤い眼をした魔物が襲い掛かってきた。
 黒い硬い毛で覆われた四つ足の魔物だった。
「ミラは下がってて。僕がやる!」
 メルは、短剣を懐から出し、魔物に攻撃した。
 が、その攻撃は全く魔物には通じていなかった。
「そんな…。」
 メルはへなへなとその場に座り込んだ。
 すると、ミラが魔物に向かっていった。
 両手から鋭い爪を伸ばして、魔物の肉を引き裂いた。
 魔物はたちまち、黒い灰と化した。
「すごいね!君。戦えるんだ!」
 メルは感心していた。
「猫耳族は戦いが得意なんです。他の獣の種族も…。メルさん、怪我はないですか?」
「ないよ。…はあ、情けないなあ…。いつも守ってもらうばかりで僕は…。」
「仕方ないですよ。向き不向きというのがありますから。」
 このメル・マナでは、生き物が死ぬことはないが、魔物は黒い灰になると、プラスとマイナスのマナになって、世界の循環の輪に入っていく。
「…僕もこんなふうに、魔物になって凶暴化したら…いつか灰にされるのかな…。」
「そんなことを言わないで下さい!」
 ミラは怒ったように言った。
「私は、メルさんを灰になんかしたくありません!」
「冗談だよ。」
 メルは笑って言った。

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