グラナージ~機械仕掛けのメモリー~#21
第21話「アル出陣」
文字数 2,447文字
勇ましき女神、アル。
赤い鎧をまとった姿は、美しく気高い。
長い髪を風になびかせて、今、グラナージ・アヌムの外に出た。
「ふう…。」
アルは、深呼吸した。
「やはりずーっと図書館にこもっていては体に悪い。外の空気も吸わないとな。」
「アル様!鍵を!」
歩き出そうとしたアルに、テントウが慌てて言った。
「あ!そうだったな。」
アルは舌を出した。
そして、グラナージ・アヌムのドアに鍵を掛けた。
その不思議な六角形の鍵は、自動で鍵穴を回って、がちゃり、と音がした。
アルは、鍵がかかったことを確認すると、銀のペンダントに鍵を取り付けて、首から下げた。
「これで良し。さあ、皆行こうか。メルのバカのもとに。」
アルは笑って言った。
テントウがアルの隣を飛び、そのあとにハルカたちも続いた。
深い森に入り、早速魔物が襲い掛かってきた。目が赤い。これはただの悪い魔物だ。
「皆の者。私に任せて、下がるんだ。」
アルに言われ、皆後方に下がった。
「…シャイン。」
アルは静かに、光魔法を唱えた。
すると、魔物が光り輝き出した。
そして、灰になるより先に、魔物の目が緑色に変化し、徐々に光も薄れていき、魔物はおとなしくなって、その場から立ち去って行った。
「…今のは?」
ハルカが聞いた。
「アル様だけが出来ることだ。魔物にシャインでプラスマナを与えて、その場で生まれ変わらせたんだ。」
「ええっ!その場で…生まれ変わらせる?」
「ははは。驚いたか?魔物を灰にするには及ばん。ただプラスマナを与えてやればよい。そうすれば本来の姿に戻るんだ。」
「なんだ。それなら、そのシャインをメル様に唱えれば!」
「うーむ…。それが上手くいくかは分からぬ。メルは膨大な量のマナを取り込んでいるからな。マイナスマナも半端な量じゃないだろう。私の力でも、治せるかどうかは分からない。」
「でも、これで凶暴な魔物のことは解決じゃないか。アル、…アル様が、凶暴な魔物にシャインを唱えれば…。」
アキトが言ったが、アルは首を振った。
「今のは、ただの魔物に効果があるだけだ。凶暴化した魔物…つまり、グラナージだった魔物には効かない。何故だかは分からぬが…。」
「じゃあ、ここでハルカの出番だな。」
トウマが言った。
「私?」
「そうだな。機械心臓を持ち帰ってくれたということは、凶暴な魔物を倒したんだろう?」
アルがハルカを見た。ハルカは緊張した。
「でも、また倒せるかどうか…。」
「多分だが、凶暴な魔物、つまり魔物化したグラナージをハルカが倒せるというのは、ハルカがアル・マナの人間だからじゃないか。」
テントウが言った。
「アル・マナって、現世のことだよね。でも、どうして…?」
「アル・マナの人間は、無意識にこちらと繋がっているんだ。そして、メル・マナに影響を与えている…。メル・マナの創造の箱もそうだが、人間の考えたことは、こちらで具現化する。良いことも、悪いこともな。グラナージが魔物化したのは、マナのバランスが壊れたせいだが、それも、現世のマナの影響なんだ。」
「…だから、現世の人間の私が、現世の力で魔物になったグラナージを元に戻せる…。」
「おそらくな。」
アルが頷いた。
「そもそも、グラナージって何なんですか?」
「前に説明しただろう。機械生命体だ。」
「それがそもそも分からないのよ。メル・マナがアル・マナよりも先に存在していて、アル様とメル様が世界、つまりアル・マナを作ったってことは分かったけど…。どうしてそれが、機械生命体なの?私たちは何なの?人間って何?」
ハルカが一度に聞いた。
「それは難問だな。…私とメルは、一柱の神だった。それが二つになり、グラナージとなって分かれた。それがメル・マナの始まりだ。メル・マナも一つのグラナージ、機械生命体だ。我々はその中で生かされている。」
アルは、一度言葉を切って、皆を見渡した。
「そして、アル・マナは…私とメルが作った世界だ。機械ではない、有機生命体。グラナージのように、己でものを考え、行動する人間。ここにも、猫耳族など、有機生命体は存在しているが、人間はアル・マナにしかいない。人間は、機械のように永遠ではなく、可能性を持っている生き物として造った。進化という可能性だ。肉体的な進化もそうだが、精神的な進化。それが、マナをより強くすると信じてな。マナを強くすれば、世界の生命も強くなる。」
「つまり、二つの世界を循環させることで、マナを強化するために、人間を作ったと。」
アキトが言った。
「そういうことだ。」
「私たちは、世界に生かされているのね。世界が存在しなければ、私たちも存在出来ない。その世界を維持するために、私たちの力も、グラナージの力も必要ってことなのね。」
「そうだ。ハルカの言う通りだ。」
アルの目が輝いた。
「やはり…お前がシャインの使い手というのも頷ける…。」
アルがハルカを見て微笑んだ。
「え?」
「シャインは、特別な魔法だ。誰でも出来るわけじゃない。心からの強い思いを放出する魔法なんだ。」
「こいつはいつも、世界を助けたいって一所懸命だからなあ。」
トウマが言った。
「そうね。ハルカくらい心がまっすぐな人ってあんまいないかもー。」
「確かに。」
ナツキとアキトも言った。
「やめてよ。私は別に、普通に暮らしたいだけよ。それなのに、世界が滅ぶとか、そんなことを聞いて黙ってなんていられないわ。」
「シッ!」
テントウが身構えて合図した。
魔物だ。白目を向き出した凶暴な魔物が現れた。
「グラナージね。」
ハルカは、魔物の前に出て、シャインを唱えた。
すると光の大剣が現れて、魔物の心臓を突き刺した。
「機械心臓よ!」
ハルカが剣に刺さった機械心臓を抜き取って、テントウに渡した。
テントウは、持っていたマナ入りの容器にそれを入れた。
魔物の体は消滅した。
「…他にも魔物化したグラナージはいるが、先にメルの方だ。あいつをどうにかしないとな。アカシアで何を見たのか教えてもらわないと。」
アルは先を急いだ。