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グラナージ~機械仕掛けのメモリー~

第7話「アカシア」

文字数 2,337文字

 今日は、朝から外でテントウが待っていた。
「おはよう、テントウちゃん。どうしたの?」
「うん。お前ら、なかなかいい働きっぷりじゃないか。さすがは若者だな。」
「テントウちゃんだって、まだ子供じゃない。」
「俺は見た目はこんなでも、お前らよりもずっとずーっと年上なんだぞ!…いや、こんな話をしている場合じゃない。新入りが来たことは、アル様も知っている。お前らに会いたいそうだ。アル様も、ああ見えて…。くれぐれも、粗相のないようにな。」
「アル様?偉い方なの?」
「前に言っただろうが。…あれ?言ってなかったかな。メル様と共に、この世界をお創りになったのだ。アル・マナとメル・マナ。」
「ああ。そういうことだったのね。それじゃあ、メル様もいるのね?」
「それが…メル様はお隠れに…いや、行方不明になってしまったんだ…。それで、アル様は心を痛めておられる。なにしろ、お二人は仲睦まじいご夫婦だからな…。」
「まあ…。それはかわいそうね。私たちに何か出来ることがないかしら。」
「うむ。そのこともあって、お前らを呼んだのかもな。俺たち機械虫もメル様を探しているんだが…全く見つからなくてな。それじゃあ、アル様のいる図書館に行こう。」
「図書館?」
「ああ。アル様は図書館で暮らしている。アカシアを守るために、そこから一切外に出られないんだ。」
「アカシア?」
「とにかく、話は行ってからだ。」
 セーブポイントから、メトロポリスの図書館にワープした。

 図書館は見上げるほどの高さがある。
 ハルカたちは、首を伸ばして、その高さ、大きさに圧倒されていた。
「なんだか宮殿みたいな建物だな。ここに本とかがあるのか?」
 アキトが言った。
「とにかく、入ろう。」
 テントウが図書館の重い扉を開けた。手を使って開けたのではなく、何らかの力を用いて。
「ここに入るには、機械虫の力が必要なんだ。」
 入ると、両側の壁一面に様々な本が並んでいた。
 本棚は色々な形のものが置いてあって、どれも整然と、本が綺麗にしまわれていた。
 テントウの案内で、広い廊下や階段を通って、奥の方の部屋に通された。
「アル様。四人です。」
 テントウが部屋に向かって声を掛けた。
「待っていたぞ。」
 ハルカは、その声を聞いて、おやと思った。どうやらハルカは、アルを男だと思っていたらしい。
 部屋に入ると、白い肩を出した純白のロングドレスに身を包んだ、美しい女性が金色の立派な椅子に掛けて待っていた。
 銀と紫が混ざったような色の、長い髪の毛がとても綺麗だった。
「よく来たな。私はメル・マナの主の一人、アルと申す。もう一人、メルという者がいるのだが…。」
 ハルカは、アルに圧倒されて見とれていた。他の三人も同じだった。
「…私はハルカといいます。メル様は行方不明だとか。私たちも何かお手伝いします!」
 アキトは慌てて何か言おうとしたが、他の二人も頭を下げたのを見て、仕方なく頭を下げた。
「それはありがたい。だがー…。メル・マナに来たばかりでまだ右も左も分からぬだろう。気持ちは嬉しいが、それはもう少し後でよい。今は、ここでの暮らしに早く慣れることだ。」
「でも、この世界が滅びかかっていると聞きました。」
 ハルカは真剣だった。
「うーむ…。滅ぶかどうかは分からぬが…。こちらの問題は、お前らの本来の世界、現世にも関わることなのだ。だから、いずれはどうにかせねばならん。だが、私はここから動けぬ身でな…。魔法の鍵があったはずなのだが、それがなくなっている。鍵があれば、それを掛けて私も外に出られるのだがー…。」
「アル様は、アカシアというものを守っていると聞きました。」
「アカシア。そうだ。お前たちは、アカシャ年代記とか、アカシャクロニクルとか、アカシックレコードなどという言葉を聞いたことはないか。それのことだ。この世界の全てを記した肉眼では見えない歴史の記録。それがアカシアだ。メルは、その記憶者、記録者だったんだ。」
「メル様は、もしかして男の方?」
 ナツキも、ハルカと同じように考えていたらしい。
「ああ。テントウに聞いたか。メルは私の夫なのだ。頼りない奴だが…。どこで何をしているのか…。」
「今ふと思ったんだけど、アカシアには、宇宙の全ての歴史が書かれてるんでしょ。それを見れば、メルの居場所とかも分かるんじゃないか?」
 アキトがひらめいたように言った。
「それは無理だ。私はアカシアを守るだけで、見ることは出来ないのだ。あくまでも、アカシアの記憶者、記録者である、メルだけが見れるのだ。残念なことだが。」
「そうか…。」
 がっかりしたように、アキトは肩を落とした。
「じゃあ、いずれにしても、メル様を助けなければこの世界も滅んでしまうということですね?」
 トウマが言った。
「そういうことに…なるか。」
 一瞬曇ったアルの表情が、ぱっと明るい顔になった。
「だが、まあ…、何とかなるだろう。お前たち、何も気にせず、たまにはここに遊びに来い。私は退屈なんだ。訪れるのは機械虫だけだからな。」
 アルは笑った。
「勿論お前たちが来るときは、テントウについて来てもらうんだ。扉を開けられるのは、機械虫だけだからな。」

 図書館をあとにしたハルカたちは、メル・マナの家に戻った。
 そして四人で外で話し合っていた。
「アル様は気丈な方ね。本当は苦しいはずなのに、あんなに笑ってみせて。」
「僕はメルに腹が立つ。一体どこで何してんだか…。」
「それはないでしょ。行方不明なのよ。アキトったら、まるでメル様が悪いみたいな。」
 ハルカが呆れて言った。
「とにかく、俺たちもアル様の助けになれるように、早くここに慣れて、メル様の手掛かりを探そう。」
「そうね。それが当面の目標ってとこね。」
 ハルカは目を輝かせた。

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