グラナージ~機械仕掛けのメモリー~#32
第32話「新たな命」
文字数 1,279文字
あれから数日後。
アルは、メルと共に、新たな卵を産んだ。
それは、アルとメルの子供だった。
「メル。今回は本当に…。」
アルは、不安そうにしてメルと卵を交互に見た。
「…今まで、何も生まれたことがない…。」
「大丈夫だ。良い子が生まれてくるよ。」
メルは、アルを優しく抱きしめた。
卵は一週間ほどで孵った。
これまで、二人の子供は生まれて来たことがなかった。
それで、アルは不安がっていたのだ。
しかし、今回は違った。
卵から出て来たのは、人間の赤ん坊に似た、可愛らしいグラナージ。
「ああ…!」
アルは、その赤ん坊を抱いた。
赤ん坊はくりくりとした目をアルに向けた。
「なんて可愛い子だろう…!アルにそっくりだね。」
メルは、赤ん坊を見て微笑んだ。
「メルにも似てないか?本当に可愛いね。」
「名前を付けないとね。実はもう考えてあるんだ。」
「何だ?」
「ルル。」
「ルル?何だ、そのままというか…、私とお前の名前から一文字取っただけじゃないか。もっとよく考えた方が…。」
「いいんだよ。これは、アル・マナの言葉で、いい意味の言葉だからね。」
唐突だが、ここでグラナージの生まれ方について。
グラナージは、機械生命体である。
グラナージは基本的に、生殖で増えたりはしない。
神であるアルとメルだけが例外だが、それも簡単に子供が出来て、生まれるわけではない。
それは、人間とは違う特別な力の働きによるからである。神と神との子供は、同じように神として生まれる。そのためには、膨大な力が必要となる。その力とは、世界の全ての要素が関わっている。
アルとメルの共同作業で、他のグラナージを作ることは出来るが、アルとメルとの子供ではなく、あくまでもメル・マナのために作られたグラナージであり、世界を創造した頃とは違い、現在では二人によるグラナージの製造は行われない。
そしてまた、アル・マナ(現世)で想像したものがメル・マナで生じるから、赤ん坊なども例外ではない。
そうして生じた赤ん坊は、メル・マナの中でもとても広い、「子宮泉」という世界でそれぞれの卵に宿る。宿った卵はメル・マナでかえってそのまま暮らすこともあるし、現世の親に宿って生まれたりする。
赤ん坊が現世の親に宿るためには、様々な条件を満たす必要がある。いわゆる「マッチング」。これまでのそれぞれの人生の関わり方や、カルマ(業)など、様々な項目があり、多くの手続きを経て、親と赤ん坊とがマッチングに成功すると、赤ん坊がその親のもとに生まれてくる。逆に、現世の親とのマッチングに至らない赤ん坊もいる。そのような場合、その赤ん坊は、メル・マナで暮らすことになる。それはグラナージとしてではなく、赤ん坊として。グラナージの住む場所からは遠い所で、同じような状況の赤ん坊たちとともに暮らし、またマッチングの機会を待つ。
また、グラナージどうし結婚することもあり、子供を望む場合には、役場にその旨を届け出て、「子宮泉」から子供を授かるという段取りになっている。あくまでグラナージは機械生命体なので、自ら子をなすということは出来ないのだ。