グラナージ~機械仕掛けのメモリー~#23
第23話「アーリマン」
文字数 1,467文字
「君…ハルカと言ったね。」
メルは、ハルカをじっと見て言った。
ハルカはまっすぐにメルを見て、頷いた。
「君のような人間ばかりなら、すぐにでも世界は甦るのに…。いや、それではいけないんだ。世界は、プラスもマイナスも受け入れる。マイナスを失くしてはいけないんだ…。」
メルは、独り言のように呟いた。
「プラスがあるからマイナスもある。どちらも必要なものです。今、アル・マナもメル・マナも、マイナスマナに覆われようとしています。アルの力でも、もう修復は無理なほどに。それというのも、人間が、あまりにもアーリマンの影響を受けすぎたためです。」
「アーリマンって?」
「物質の悪魔です。つまり、世界が進化するために、必要な悪なのです。しかし、人間はこの力にあまりにも依存しすぎてしまいました。これから、人間はどんどんアル・マナという本来の世界から離れようとするでしょう。そして、からっぽな肉体とぱんぱんに膨れ上がった精神で生きようとするでしょう。そして、メル・マナはどんどん繁栄していくでしょう。一方、アル・マナは枯れ果てようとしています。際限のない人間の欲望で…。」
「ちょっと待って下さい。メル・マナが繁栄するってどういうことですか?滅びようとしているんじゃないのですか?」
ハルカは疑問に思って聞いた。
「メル・マナは滅びません。どんなに魔物が増えたり、凶暴化しても、メル・マナ自体が滅びることは絶対にありません。メル・マナはアル・マナの人間の想像でいかようにも変化します。美しい風景、醜い風景…。それは人間の想像次第なのです。」
「俺は、美しいメル・マナでいて欲しいぞ。メル・マナがノームの住処みたいになっちまったらいやだ。そうなったら、メル・マナが滅びたも同然だ。」
テントウが言った。
「テントウちゃんが言った、滅ぶって、そういう意味だったの?」
「いや…俺は本当に滅びると思ってたんだよ。だけど、今のメル様の説明で、なんとなく分かった。アル・マナが滅んでも、メル・マナは滅びない。例えどんな形になろうともな…。」
「でも、メル・マナが繁栄するって仰いましたよね?それはどういうことなのですか?」
再びハルカがメルに聞いた。
「今も、メル・マナは拡大し続けています。人間の想像で。そして、アーリマンの力がここにも入り込んできています。グラナージが魔物化したのは、まさにアーリマンの影響です。マイナスマナが発生するような行動、つまり、物質への執着心がアーリマンを呼びこむのです。」
「そんな!執着って言われても…!おいしいものを食べたり、可愛い服を着たりすることがだめって言うの!?」
ハルカは反論した。
「だめではありません。僕は、アーリマンを否定するつもりはありません。人間が望んだことなら、メル・マナはそのように変化していくしかないでしょう。しかし。アル・マナが滅ぶことは、人間の魂の枯渇を意味します。からっぽになった魂で、人間は進化出来るでしょうか。死後、メル・マナにからっぽの魂を持った人間が来ても、おそらくその人間は転生出来ないまま、メル・マナに留まり続けるでしょう。そのような人間がグラナージになり、メル・マナは繁栄するでしょう。しかしここは、人の最後の場所ではないのです…。」
「…どういうことですか?」
ハルカは、メルの言ったことを理解しようと努めていた。
「人の行き着く所は、遥か彼方。僕とアルがいた場所。人は、いつか神になるのです。そして、僕たちがしたように、世界を作るのです。」
「なんのために?」
「……。」
メルは、それには答えなかった。