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グラナージ~機械仕掛けのメモリー~#10

第10話「グラナージの消滅」

文字数 2,032文字

 しばらくはゆるい毎日が続いていたが、メル・マナにまたしても事件が起こった。
「アル様!またグラナージが消えました!今度は一気に三人も…!」
 チョウチョがアルに報告した。
「うぬぬ…。この身が自由であれば捜索に行けるのに…!チョウチョよ、他の機械虫たちは既に捜索に?」
「はい。でも、前は一人ずつだったのに、今回は…。メル様も含めると、現在百を超えるグラナージが行方不明に…。」
「ううむ…。一体どこへ行ったというのだ?それとも…魔物の凶暴化にも関係があるのか…。」
「機械虫同士でも話し合っていたのですが、グラナージがいなくなる一方で、魔物、それも凶暴な魔物がますます増えているんです。」
「やはり…。おそらく、行方不明になったグラナージたちは死んでいるだろう。マナの乱れで、機械心臓が動かなくなれば、グラナージは死ぬ。あるいは、魔物に食べられて…それで魔物が凶暴化しているのかもしれん。機械心臓は、マナを循環させる動力源だ。それを食べれば、マナが強化されてもおかしくない。」
 アルが言ったことと同じようなことを、テントウもハルカたちに伝えていた。
「機械心臓?」
「そうだ。今のお前たちにも、機械心臓がある。ここではグラナージ(機械生命体)だからな。」
「そうなの?あんまりあちらと変わらないけど。」
「そんなものだ。とにかく、マナの乱れが深刻になってきたということだ。いずれ、お前たちの命にも関わってくるかもしれない。」
「そうなれば、私たちはどうなるの?」
「お前たちは、あちらの人間というバフが付いているから、純粋なグラナージよりはマナにそれほど影響を受けない。しかし、マナの乱れが起こり、マイナスが極端に多くなれば、いくらそれに慣れている人間にも影響が出る。つまり、マナの力で動いていたねじが止まり、心臓も停止して、死ぬ。だが、それを回避出来る方法がある。それは、アストラルスーツを脱ぐことだ。それで、この世界との繋がりが断ち切られ、死を回避出来る。その機能は自動で作動するようになっているから安心しろ。」
「…でもそれは、一時しのぎでしょう。結局、こっちの…メル・マナをどうにかしないと、現世もやばいんでしょ?」
「それはそうだが…。」
「死に場所なんてどうでもいいわ。死ぬつもりなんてないから。私はやれることをやるまでよ。」
「ハルカ…。」
 テントウは、ハルカの真剣な目を見て、頷いた。
「ハルカの言う通り、俺たちはやれることをやろう。消えたグラナージの捜索は、機械虫の担当だ。俺たちがやれることといったら、メル様を探すことだろう。最終的に、メル・マナがどうなろうと、メル様の力でどうにかなるはずなんだ。メル様は、アカシアの記憶者だからな…。」
「つまり、記憶を書き換えるってこと?」
 アキトが言った。
「…あるいは、未来を…。」
 そこまで言って、テントウは、はっとした。
 テントウとシンクロして、アルが言った。
「まさか、メルの奴…。この世界が滅びると…?」

 メルは、夜な夜な、魔物に近付いているようだった。何度もアルの幻を見ては、心を締め付けられていた。
 ミラはそんなメルを、ただ、悲しげに見つめるばかりであった。
 ふと、ミラは、こちらを見ている気配に気付いて、振り向いた。
「…寂しかったかい?」
「あ…あなたは…。」
 ミラの目の前に、一人の男が現れた。男は黒づくめの格好をしていたが、頭には二本の角が生えていて、尻には先端が矢のように尖った尻尾が生えていた。褐色の肌に金髪で、端正な顔立ちをしていた。
「そんなカオするなよ。相変わらずつめてえな。…まさかそいつにホレたんじゃねーだろな。このオレというものがありながら…。」
 男は、ミラを捕らえて強引にキスした。
「その様子じゃ、あとちょっとでこいつも完全な魔物になっちまうってトコか?」
「もうやめて下さい。この世界が…なくなってしまいます!」
「ボスはそれを望んでんのさ。」
「世界がなくなったら、私たちもなくなってしまうのですよ!」
「それはねエ。ボスはあくまでも、『現世』を消したいらしい。下っ端のオレにはよく分からんが…。」
「そんなの、いやです。」
「…弟がどうなってもいいのか?」
「…!!」
 ミラは、男の顔を悔しそうに見た。
「へへへ。お前はオレの言う通りにしてればいいのさ。」
 男は、ミラの髪を優しく撫でた。ミラは抵抗できず、ただ黙って震えていた。
「可愛いぜ、ミラ…。なア、オレは本気なんだ。ボスの計画が終わったら、一緒にならないか?勿論、弟のソラもな。」
 ミラは下を向いて、頭を振った。
「オレが悪魔ってことを気にしてんのか?この計画が終わったら、オレはグラナージみてえに職業所に行って、まっとうに働くつもりだ。」
「…でも、世界がなくなったらそれも無理でしょう。」
「おそらくな、このメル・マナはなくならねえ。ボスは多分、今の現世をぶっ壊して、新たな現世を創らせよーとしてんじゃねえかな。アルメルに。」
「どういうことですか?」
「さあな…。」

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