グラナージ~機械仕掛けのメモリー~#8
第8話「現世の生活」
文字数 963文字
ハルカは、現世の自分の部屋で目覚めた。
現世とメル・マナを行ったり来たりする生活に慣れてきて、混乱することはなくなった。
はじめのうちは、二つの世界を混同したりして、今自分がどちらにいるか分からなくなることがあった。
だが、二つの世界には違いがあった。まず、目に映る景色。
メル・マナに行ってからこちらへ来ると、景色が少しぼやけて見えるというか、鮮明さが違うのだ。メル・マナは、細かい色彩で、非常に鮮明な世界なのだ。それで、現世に戻ると少し物足りなく見える。
現世は確かに存在しているが、メル・マナの方が実在感があった。
しかし、こちらで想像したことが、メル・マナで具現化されるとは?
ハルカは今まで、「あの世」の存在を信じていたが、「あの世」の方が現実感がなく、ふわふわしたイメージで考えていた。しかし実際には逆だった。メル・マナの方が実体で、現世の方が夢のような気がした。
それならば、現世が夢の世界ならば、こちらの生活は無意味なのか。ハルカはそうは思わなかった。夢の世界だからこそ、限られた時間を、精一杯生きたいと思った。それこそが、プラスマナを作るのだろう。そう思った。そして実際にそうなのだ。
ハルカは、学校へ行き、いつものように、友達と会話することを心から楽しんだ。メル・マナに行くようになってから、こちらでの全ての言葉や行動が、日常が、ハルカには、どんなに大切で貴重なものかと思うようになっていた。
「感謝」する心や、「謙虚さ」がいかにプラスのマナを生じさせるかを知っているので、その気持ちが前よりも強くなった。
今や、現世には、ハルカやナツキ、アキト、トウマのように、メル・マナを知っている人々が他にも少なからずいた。その人たちが自らの体験を語るということはなかったが、心はハルカたちと同じだった。体験してみなければ、本当のことは分からないのだ。もし、メル・マナのことを知らない人たちに話したところで、一笑に付されるだけであろう。語らない方が良いのだ。
ただ、ハルカたちは、日常を大切に生きて、そうすることで、周りに良い影響をもたらすことを信じていた。そうすることで、二つの世界をマナが循環し、それぞれの世界が生き続けるのだ。
ハルカは今日も充実した日を過ごし、夜になってベッドに入り、メル・マナで目覚めた…
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