グラナージ~機械仕掛けのメモリー~#25
第25話「虚無」
文字数 1,270文字
「なあ、虚空城にさっさと行こうぜ。」
キルが二人に言った。
「俺とメルの目的は一致してんだろ。」
「だめだ!危険すぎる!」
アルが反対した。
「あそこは虚無の巣だと聞いている。うかつに入って、虚無に取り憑かれたら大変だ。」
「虚無?」
ハルカが聞いた。
「ああ。虚無というのは、なんにもない状態のことだ。それに取り憑かれたら、魂もなくなるだろう。」
「それって、つまり生きたり死んだりも出来ないってこと?」
「おお、その通りだ。魂がなくなれば、何も出来ず、勿論転生も出来ない。ただ虚空城をさまようだけになるんだ。」
「アル。適当なことを言わないでくれ。そこに行ったこともないだろう。誰から聞いた話なんだ。」
「う…。と、とにかくだな、要するに行くのはだめだということだ!」
「アルが何と言おうと、僕は行かなければならない。」
「そうだ。そうしねえと、俺の話が進まねえ。」
キルが言った。
「だいたい、お前のボスは何を考えているんだ?お前まで虚無になったらどうするんだ?」
「そうなったらそうなったで、俺はそれまでの男だったってことだ。だが、俺はそうならないと信じている。今の俺には夢があるからな…。」
キルは、ミラの方を見た。
「夢…。いい心がけだね。アルも見習った方がいい。その気持ちが大事なんだ。」
メルが言った。
「む…。確かに、それはプラスマナを生む心だな。私がむしろ、マイナスマナを生じさせていたかもしれん…。分かった!私もメルを信じよう。魔物化したとはいえ、その心までも魔物化していないとな。」
「まさか、僕の心も魔物化したと思ってたの?」
メルが驚いて言った。
「いきなり抱きついてきたしな。以前のお前はそんなことはしなかった。」
「あ、あれは…。今までこんなにずっと離れていたことがなかったから、つい…。」
「まあ、許してやろう。…なんだお前たち。」
アルは、皆の視線が集中していることに気付いた。
「…と、とにかく、皆の者。覚悟はいいか?いや、虚無を恐怖と思わぬことだ。全て受け入れる心でだな、己を信じ、皆を信じることだ。」
「ええ、大丈夫です。」
ハルカの目に迷いはなかった。
しかし、他の三人は、少し不安そうにしていた。
「あたしが不安がってたら、アカリちゃんも不安になっちゃうよねー…。」
ナツキは、子供竜のアカリを抱きしめた。アカリは円い目で、ナツキをじっと見ている。
テントウも、いつもの元気がなかった。
「…大丈夫だと思いたいけどな…。俺は正直怖い。」
テントウが言った。
「俺がなくなっちまうなんてな。」
「あくまでも噂にすぎん。そこへ行って帰った者はいないのだからな。」
「それこそが虚無の証拠だと思うんだけど…。」
アキトが青ざめた顔で言った。
「ち、違う!間違えた!そこへ行った者もいないし帰った者もいない?」
「とにかくここでうだうだしてても始まらねえや。行こうぜ。」
キルが歩き出した。
その後を、メルとミラ、ハルカが追った。
「おい、私たちも行くぞ。」
アルがテントウたちを促した。
テントウは渋々アルについていき、ナツキたちもとりあえず皆の後を追った。