グラナージ~機械仕掛けのメモリー~
第3話「メル・マナへ」
文字数 2,827文字
ハルカは、皆で決めた夜十時ちょうどにベッドに入った。
すぐに眠りに落ちて、ハルカはアストラルスーツの力で目覚めた。
するとそこは、見慣れたハルカの部屋ではなく、広大な草原の中だった。
それから、ハルカの周辺に、トウマやナツキ、アキトも現れた。
「あ!ねじが!」
ナツキが、ハルカに近寄って来て、背中を指差した。
ハルカが背中の上の方に手をやると、そこには確かにねじらしきものがあった。
それを指摘したナツキの背中にも、ねじが付いていた。
銀色のねじだ。
他のアキト、トウマも同じだった。
「四人だったな。よく来た。」
ハルカが声のする方を見ると、猫くらいの大きさの、可愛らしい生き物が、宙に浮いていた。羽の代わりに、背中にはねじのようなものがついていて、くるくると回っていた。頭には虫の触角のようなものが二本あり、まるで大きなテントウムシを、可愛くキャラクター化したような姿をしていた。
「着ぐるみ?」
「着ぐるみじゃない!俺はテントウってんだ。レイの正体だ。」
「なるほど。テントウちゃんっていうのね。私はハルカ。」
「ちゃんじゃない!テントウでいい!」
「いいじゃない、別に。可愛いもん。」
「僕はアキト。」
「あたしはナツキ。」
「俺はトウマ。」
改めて一通り自己紹介をしたあと、テントウは先頭に立って進み出した。
「こっちだ。ついて来い。」
ついて行くと、中世ヨーロッパを思わせるような建物が並んだ、いかにもRPGの世界にありそうな街が見えてきた。街は頑丈な石垣で覆われていて、東西南北に門があり、上から見ると円形の形をした街となっていた。
門まで行くと、門番が四人に挨拶してきた。
「ほんとにRPGの世界ね…。」
ハルカが感心して言った。
「ここは、お前ら人間の想像が具現化した世界なのさ。」
「えっ!?そうなの…?」
「創造の箱ってのがあって、その箱に人間が考えたイメージが集まってくる。その箱からグラナージのビルダーたちがそれを材料としてものづくりをするんだ。人間は夢を見るだろう。その夢の中で、時々このメル・マナに入り込んでることがあるんだ。メル・マナはとても広い。ここは『RPGエリア』といって、RPGにちなんだものづくりがされている。他にも『現世エリア』といって、ほとんど現世と変わらない景色とか、『古代エリア』『中世エリア』ってのもある。要するに、これまでの人間たちの想像したものでここは形づくられてて、メル・マナの全てが人間の記憶の倉庫みたいになっているんだ。」
「へーえ。知らなかった。」
ハルカは目を輝かせて言った。
「でも、人間の想像するものが、いいものばかりとは限らないだろう。悪いものはどうするのさ?」
アキトが聞いた。
「悪い想像などは、仕分けられて地獄に送られて、地獄で具現化される。ビルダーはどこにでもいるんだ。だから、人間の想像は、どれも無駄にはならない。」
「なるほどねー。」
「色んな所に行ってみたいな。」
ハルカが言った。
「その場合は、セーブポイントを使うんだ。例えば、今は徒歩で向かってるが、これからお前たちの家が作られたら、そこにセーブポイントも作られる。そこから、モニターで行きたい所を選択してタッチすれば、瞬時に移動できる。」
「セーブポイントって、ゲームみたいにセーブ出来るの?」
「一応な。ごくたまに、アストラルスーツに問題が発生することがあるんだ。でもまあ、滅多にないから、セーブはしてもしなくてもいいだろう。」
「じゃあ、あくまでもセーブポイントは、他の場所に移動するためのものって考えればいいのね。」
「その通り。」
街を見物しながら、テントウと話している間に、皆は赤いレンガ造りの大きな建物の前に到着した。
「ここが、職業所。ここでは、皆必ず何かの職業に就いている。勿論、給金ももらえる。給金はちゃんとした現金だ。それはメル・マナでしか使えないからな。当然だが、現世には持ち込めない。…まずは入ろう。」
四人はテントウの後に従い、建物の中に入った。
中はとても広く、中央にはカウンターテーブルがあり、建物の壁に沿って六角形になっていて、それぞれに一人ずつ係の者が座っていた。
また、所々にソファなどのくつろぎスペースもあった。そこでは、他のグラナージたちが思い思いにおしゃべりをしたりして、くつろいでいた。
テントウはカウンターに移動した。四人もついていった。
「おや、テントウ。早速人間を連れて来たんだね。」
眼鏡をかけた男がカウンターの席から立ち上がった。
「ああ。四人だ。」
「君たち、何でもいいから、好きな職業を選んでよ。」
と、男はタブレットをテーブルの上に置いた。
「…RPG風なのに、現世のものが普通に使われているのね…。」
「ここでは現世の想像が形になるからね。ビルダーが作ってくれたんだ。ま、それは置いといて。ここから選んでね。」
職業は多種多様だった。ビルダー、戦士、漁師、農民、……。
「私は農民になるわ。花や植物を育てるのが好きだし。」
ハルカは農民の所をタッチした。
「じゃあ、あたしは魔物ブリーダー。テントウちゃんみたいな可愛い魔物と触れ合いたいな。」
「僕はビルダー。」
「俺は戦士。」
「よし、決まったね。そしたら、そこの着替えルームで各職業の服を渡すから着替えてきて。」
四人はそれぞれの服に着替えた。
ハルカは頭にスカーフを巻き、動きやすいズボンにエプロンを身に付け、長靴を履いていた。
ナツキは猫耳カチューシャを頭に付けて、服装はハルカと同じような感じだった。
アキトは動きやすい服装に丈夫なエプロンを付けた格好。
トウマは革の鎧を身に付けていた。
「それが初期装備だ。お金がたまったら、好きな服装に変更することも可能だよ。それから…、住民証を渡すよ。これで住民登録は完了。あとは住居だけど、テントウに聞いてみて。」
男はにっこりと笑って席に戻った。
「これでやっとお前たちはメル・マナの住民だ。おめでとう。で、家だが…どうする?一人用がいいか?四人で住むか?好きなように決めてくれ。」
四人は話し合って、二人ずつの家で暮らすことにした。
「よろしく、ハルカ。」
ハルカとナツキが一緒に暮らすことになった。
「トウマ先輩、よろしくお願いします。」
「堅苦しいな。トウマでいいって。よろしくな。」
「じゃあ、トウマさんで。」
トウマとアキトが一緒に暮らすことになった。
早速、四人とテントウは、セーブポイントを使い、居住エリアにテレポートした。
四人のための敷地が既に用意されてあって、テントウが適当に半分に分け、初期家を建ててくれた。二人で住むには十分な広さの、平屋の家で、家の中には、椅子とテーブルとベッドも一通り揃っていた。トイレも、シャワーもあった。
「ありがとう!住みやすそうね。」
ハルカが礼を言った。
「チュートリアルはまだだ。今日のところはこれでいいだろう。明日また来る。」
テントウはどこへともなく飛んで帰っていった。
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