グラナージ~機械仕掛けのメモリー~#28

第28話「最後の接吻」

文字数 1,449文字

 ハルカは、メルの負っているものについて、思いを馳せた。
 宇宙の始まりから終わりまで、全てが記録されている「アカシア」。
 その全てを記憶しているとは、どういうことなのか。
 自分に置き換えてみた。
 自分が生まれたときから、死ぬときまでの全てを知っているということ。
 いや、メルの場合は、メル自身のことだけでなく、他の全ての命の記憶を知っている。
 それは一体、どんなことだろう?
 あまりにもそれは、自分なら、重すぎることだ。
 ハルカは、メルの心を思って涙した。

「メル…。」
 アルは、凍り付いた体で、魔物となったメルを見上げていた。
 皆が絶望していた。最早メルは心をなくしたように暴れ回っていた。
 ハルカたちはメルの攻撃でほとんどHPがなくなりそうになっていた。
「ハルカ…お前たちは戻れ…。アストラルスーツで…。」
 テントウも怪我をしていた。
 アストラルスーツがハルカたちの危険を察知して、自動で外れた。
 そこで、ハルカたちはアル・マナに戻った…。

 ハルカは、いつものように家のベッドで目覚めた。
 体は軽く、怪我一つなかった。
 メル・マナでのことがまるで夢だったかのよう。
「…知らなければ…。このままただ…。」
 ハルカはいつものように学校へ行った。
 そうだ。何も知らないふりをして、自分の人生を生きればそれでいい…。そして…。
「いや!」
 ハルカは授業中、突然立ち上がって周りを驚かせた。
「皆さんにお話しがあります。信じても、信じなくてもいいです。ただ聞いて下さい。」
 ハルカと同じ行動を今まさにしている者たちがいた。
 他の人間「グラナージ」たちだ。
 今や、人間「グラナージ」は、ハルカたちばかりでなく、他の者も世界の危機に気付いていた。
 笑われても構わない。
 メルを助けたい!
 ハルカは強くそう思っていた。

 ミラは、メルだった魔物に近付いた。
 魔物はミラを突き飛ばした。
 ミラは地面に仰向けに倒れた。
 そこへ、魔物がミラを確認するように、首を伸ばして顔を近付けてきた。
 ミラは、魔物が顔を近付けてきたのを狙って、魔物の口を掴んで開かせた。
 そして魔物の口の中へ、自分の体内のプラスマナを送り込んだ。
(届いて…!!メルさん…!!)
 ミラは、自らの全てのマナをメルに送ると、その場に倒れた。

「ミラ!!」
 体が動くようになったアルは、ミラに駆け寄った。
 その一部始終を見ていたのだ。
「ミラ…。」
 アルは、ミラの亡骸を抱きしめた。
 そして、その横に倒れているメルを見た。
 メルは、元の青年の姿に戻っていた。
「僕は…。」
 メルは身を起こした。
 裸で、何も身に付けていない。
 だが、そんなことはどうでもよかった。
 自分の体の中に流れ込んできたプラスマナが、魔物化していた自分を浄化した。
 ミラの命をもらったのだ。
 ミラの心が大気に溶けて、闇が晴れ、空気は澄んでいた。
「なんという…。」
 アルも涙を流していた。
 そこへ、キルがゆっくりと歩いて来た。
「ミラ…なんで…。」
 キルは、崩れるようにその場に膝をついた。
「貴様たちのせいで…。いや…。」
 キルは、青空の隅の方で小さく浮かんでいる黒雲に目をやった。
「それが運命ならどうしようもねえ…。」
「運命…。」
 メルは呟いた。
「あんたは全てを知っていたのか?知っててここに来たのか?」
 キルはメルに言った。
「僕は万能じゃないよ。いくら記憶者でもね。全てを事細かに覚えてるわけじゃない。忘れてることもたくさんある。それに…君たちには運命を変えられないとしても、僕は記録者だ…。」

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